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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第1章
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高脅威目標を補足

翌日、トレーニングを済ませ朝一番にギルドに向かう。


人が増える前に依頼を始めて、なるべく噂になるのを避けるためだ。しかし、俺の意に反して、開いた直後にも拘らず、ギルドのスタッフは、やたらと騒がしくしている。


「どうかしたのか?何か焦っているようだが」


初日に会った受付嬢が、比較的冷静に話してくれる。やはり中々肝が据わった人物のようだ、子供のような見た目だが、人は見かけによらない。昨日の受付嬢などは、おろおろしながら、何かを探すような動作を繰り返している、パニック中のようだ。


「パルプが現われました。それも2体も」


「パルプとは?」


紙の材料でもあるまいが。


「パルプをご存じないんですか!比較的よく現われる、B級の穢れ物です。強さは、C級の上と言った所ですが、非常に厄介な特性を持っているんです。そのため、B級の中でも、被害者の数はトップクラス。村などが全滅する場合も多々あります」


やはり、穢れ物か。しかも、人に対して高脅威と来ている。


「厄介な特性とは?」


「傷を、付けられないんです。少しでも血が出ると、その血から毒気を出します。比較的早く、分解はされるのですが、広がる速度は圧倒的で、決して逃げられません。武器での攻撃や、呪式での攻撃が、一切出来ません。B級以上のものが素手で倒すか、死を覚悟して倒すしか方法がありません。移動速度が遅いのは唯一の救いですが、フランに近づいてこられたら成す術がありません」


やれやれ、いきなり面倒な話が持ち上がっている。危険を放置するのは愚の骨頂だ、逃げる手もあるが、まだまだ情報も集めたいし、見捨てるのも心苦しい。


「誰か対処できそうな奴は居ないのか?」


受付嬢は、首を横に振る。


「いつもでしたら、対処してくださる方が居るのです。先ほど、その方に連絡を取りに行ったのですが」


「居ない、もしくは理由があって対処できないと」


やれやれだね。展望は暗いねぇ。


「はい。先日、遺跡調査中に、洞窟の崩落に巻き込まれ、一命は取り留めましたが、全治4ヶ月。とても今戦える状態ではありません。超長距離攻撃が出来る方でしたので、以前もパルプを倒していただいたのですが、今回は」


「どのくらい離れれば、安全なんだ?」


「最低でも500フィール。出来れば、700フィールは距離を稼ぎたい所です。それ以下では、風向きによっては危険だと言う話です。もっとも、出血量や、個体差もあるようですから断言は出来ませんが」


「そうか、一応聞くが、これはB級の依頼になるのか?2体と言うことは、依頼二回分ということかな?」


「はい、そうなります。報酬は、一体に付き銀貨60枚、6000ガランとなります」


2体で、銀貨が120枚、所持金を合計すると130枚程、十分なたくわえと言えるだろう。問題は、倒せるかだが。こればっかりは試してみるしかないな。それと、幾つか条件をつけるべきだろう。


「俺は、D級だから、その依頼を受けることは出来るな」


さすがにこの発言には、この娘も驚いたらしい。目を見開くと、より幼い印象を受ける。もしかしたら、本当に幼いのかも知れない。


「はい。可能です。ですが、危険です」


「危険は承知している。それに、駄目もとでやって見るのも良いだろう。だが、幾つか条件がある。俺が成功した場合、その情報を一切他人に漏らさないこと、出来ればパルプが現われたと言う情報も、流さないでほしい。これが条件だ、のめるか?」


出来るのなら、ではあるが。


「それはかまいません。本来、メンバーの情報は、他言無用ですし、パルプに関しても、一般に広まれば恐慌が起きます。D級以上で、能力が高い人間には、依頼の話もしますが、他のメンバーにも秘密になっています」


まぁ、その辺りには、色々と問題もありそうだが。今はおいておこう。


「それでは、この依頼を受けよう。仮に倒した場合、その屍骸はどうすれば良い?」


「私が一緒に参ります。戦闘には参加しませんが、確認しなくてはなりません。パルプを倒された場合、私が呪式で凝固膜を作って固定します。あなたが倒された場合は、報告に戻って対策を考えなければなりません」


「そうか、良い対応だな。それで安心した。一時とはいえチームを組むんだ、名前を教えてくれないか?」


「アリシアと申します。アルトさん、よろしくお願いします」


「こちらこそよろしく頼む、アリシアさん」


パルプが現われたという場所には、馬を使っても2時間ほど掛かる。馬に乗るのは久しぶりだったので、少し心配だったが、アリシアの乗る馬が、安定した走りで先導してくれたので、俺の馬も、安心して走ってくれた。アリシアが、目的地が近いというので、もう少し細かくパルプについて尋ねる。


「パルプに付いて、もう少し詳しく教えてくれ。特に、内臓の位置などが知りたい。心臓の位置が分かれば助かる」


「パルプは、大型の熊の様な穢れ物です。大きさは立った状態で4フィール。内臓はよく分かりませんが、心臓の位置は普通の熊と変わりません。左前足の付け根、やや中央よりです。長く鋭い爪と、圧倒的な力を持っています。スピードは速くありませんが、頑丈さも一級品です。生半可な打撃では、身じろぎもしませんよ」


「心臓の位置が分かれば問題ない。目や口からは毒気は出ないのか?」


「それは、問題ありません。血にのみ、毒はあります」


それならば、勁が徹れば勝機はある。少なくとも、一時的に無力化することは出来るだろう。そのまま、のどに何かを詰めてしまっても良いし、やり方はある。


「まっすぐ走って後5分ほどで見えてくると思います。私は少し後ろから追います。 御武運を」


「わかった。ありがとう。声をかけるからそしたら来てくれ。少し時間が掛かると思う」


アリシアは、馬の走りを緩める。徐々に離れながらついてくる。


視界に黒い影が映る。まだ遠く輪郭しか見えないが、横の木と比べてもかなり大きいとわかる。スコープでも確認したが、2体居る、一体はおよそ4メートル、それよりも一回り小さい固体と共に歩いている。熊の形をした生き物が、二足歩行で歩いている光景は、どこかコミカルですらある。


馬から下りて、ゆっくりと近づく。一度に相手をするのは、危険が大きい。感覚を信じるならば、負けることはないと思う。しかし、無用の危険は、冒すものでもない。本来ならばこうして、戦っているのすら、出すぎた行動なのだ。


風下から匍匐前進で、50mの距離まで近づく。2体の距離が近すぎる。一か八か、小石を4つ拾い、放物線軌道でパルプの背後の木に投げる。石が木に当たると同時に姿を現す。望んだとおりに、パルプが2手に分かれる。ある程度の知能があると、こういった小手先の手に掛かってくれる。


こちらに向かってくる、パルプの背後に回りこむ。スピードが遅いのは、ありがたい、ゆったりとパルプに勁を徹す。全身の血液を震わせた後、心臓に直接力を徹す。まだ死んではいないが、意識を刈り取ることには成功した。止めを刺すのは後に回し、もう一体の対処に向かう。


同じ手順で、心臓に勁を徹す。倒れたパルプの首に馬乗りになる。首を絞めることも考えたが、気付いて暴れ、血を流されてはかなわない。脳に波状的に勁を送り込む事にする。


頭部を、何度も何度も、一定のペースで、叩き続ける拷問、いや、尋問法がある。脳は、何度も頭蓋骨に叩きつけられ、段々と壊れていく、徐々にパンチドランカー症状が出て、加速度的に死へ向かう。拷問中に、幻覚を見ることも有るという。意識の壁を壊された者は、自分の知っていることを、話してしまう。尋問、むしろ処刑を兼ねている、と言って良いやり方だ。


俺の場合は、勁の力を加えてさらに効果的にしてある。意識は既に無いから、眠るように死んでいくことが出来る。3分ほどかけて、確実に脳を破壊する。もう一体も同様に、脳を破壊する。15分ほど待って、もう一度脈を確認し、アリシアを呼ぶ。


「終わったぞ、呪式を掛けるのなら頼む。凝固膜で包むんだろ」


アリシアは、俺が待っている間に近くまで来ていた。呼ぶから待っていろといったのに。しかし、もう確実にとどめは挿した。危険は無い。


「ありがとうございます。これで町に危険が及ぶこともありません。町民に成り代わり礼を言います」


「役に立てたのなら幸運だね。それよりも、何かするなら速いほうが良い。問題ないとは思うが、頭蓋骨の内部では内出血を起こしている可能性がある。何か悪影響が有ってはいけない」


アリシアはうなずくと、手をかざし、小声で何かを呟きだす。恐らくこれが呪式なのだろうが。声も小さく何をしているのかはよくわからない。パルプは、みるみる青いゲルで固められていく。


「さすがに、これを運ぶことは出来ないぞ。どうするんだ」


作業が終わったらしく、アリシアが振り向く。


「もう大丈夫ですので、後で人を寄越します。パルプの処理には、時間も掛かりますから、後はこちらで」


「そうか、ではこれで依頼終了だな。2件B級を完遂したから、俺はC級に上がるんだよな」


「いえ、貴方がなるのは、C級ではありません」


「おや、何か問題でもあったか?」


「違います。貴方がなるのはB級です。当フラン冒険者ギルド支部長アリシア・ミューゼルの名において認めます」


うれしい誤算だが、まさか支部長だったとは、肝も据わっている訳だ。


「支部長だったのか、その年で、支部長と言うのは。やはり、相当優秀なんだろうな」


「年ですか、私はもう43ですが」


え?


「43!どう見ても、10代後半、いや前半と言っても変じゃないのに。43!見た目との差が大きすぎだろ。世界中の女性が泣いて羨むわ」


支部長と言うことより、年齢のほうに驚いた。俺は人からは童顔などと呼ばれて、強そうとは思われないし、体もやせて見える。26になっても、私服を着ていると学生と間違われたり、20くらいと言われるが、桁が違う。


「ありがとうございます。私の祖母はエルフでして、私は成長が遅いようなのです。先祖がえりみたいな物ですね。ですが、もう結婚して子供も居ますよ」


昨日の受付嬢に続いて、今度は俺が呆けた顔になる番だった。かわいらしい娘だと思っていたのに、まさか年上の子持ちとは、異世界は、難しい。俺は、町に帰る馬の背中で、呆けた顔で空を見上げるしかなかった。


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