実験部隊
久しぶりになります。
新作の方に力を注ぎ過ぎておりました。
しかしながらこの後のお話が個人的に納得行かないので、推敲の日々でございます。
下手の考え休むに似たりとも申しますが、今しばらくのご猶予を。
人が飛ぶ。
こう書くと、少しばかりおかしく感じる。
人が跳ぶ。
こちらならば、ああ跳ねているんだなと、すぐに想像できる。しかし、飛ぶの場合、それは何かに乗って、としか想像ができないだろう。
しかしながら、今、まさに人は飛んでいた。
「ただいまの結果!およそ250フィール(ヤードと近似)」
「角度変更目盛1上、次の者、所定位置へ」
「了解!角度変更目盛1上方へ、次の者、所定位置へ!」
アルトの号令に、部下が復唱する。ギリギリと音を立て縄が巻かれ、籠の中に唇までも真っ青にした兵士が乗り込む。兵は肩を抱えて震えているが、周りに居る兵員は同情するよりも、今後自分に降りかかる恐怖のことで頭がいっぱいで顧みる事ができない。
「方向、先に同じ、発射点呼開始」
「了解!点呼開始、5・4・3・2・1・発射!」
解き放たれた重量は、重力の命じるままに下方へ移動、それに繋がる巨大な木材は、支点を境に跳ね上がることになる。その力が集約する場所、すなわち先端から吊り下げられた籠は激しく上へ跳ね上がり、その力を利用して質量を前に飛ばす。
平衝錘投石機と呼ばれる、攻城兵器の実験をアルトは行っていた。
アルト主導で行われている兵器開発案その1で、梃子型投石機と呼称している。ちなみに、木材の反発のみを利用した小型投石機も開発中で、そちらは開発案2、弾性投石機と呼称している。
「ただいまの結果!およそ240フィール」
湖面に、盛大な水しぶきを上げて哀れな兵員は水没し、予め待っていた小船が救助に向かっている。
今回の実験は、幾つかの軽い規則違反者に対しての懲罰を兼ねて行われた物で、アルトの恐ろしさを兵員一同が再び肺腑の奥まで教え込まされた。
一応、怪我をしない様に籠ごと飛ばしているわけだが、その恐怖たるや。筆舌尽くしても表せるものではない。
ケントワルドのような、本当の少数を除き、空を飛ぶなどというのは妄想空想でしかない。その様な状態に無理矢理置かれ、しかも見た事も無いような機械で、水面に向かって放り投げられる。彼らにとって、目の前にいる分だけ、伝説の鬼よりアルトのほうが恐ろしい。
そんなアルトに調教されて、第1軍の面々は世界に存在しない工兵・砲兵への道をひた走っていた。ウォーリック率いる4軍はすである程度経験蓄積のある騎兵に、そして、対外的な意味を含めて第6軍には儀礼を専任させている。
元々近衛の騎士やある程度戦歴のある貴族の子弟を無理矢理押し固めただけだが、彼らは自らを持って精鋭と思っているようだ。
無論、現実は全部隊中最弱なのだが、他の部隊から見ればもっともぬるい訓練にですら、ついて来られない者が大半だ。
しかし、放り出すわけにもいかないので痛し痒しな部隊であるのが実情だろう。
放り出せないというのも、別に人道的な見地からではなく、貴族の一派を人質に取っているからに過ぎないが、それを感じている者は今は少ない。
「続いて、破裂弾実験準備!」
火薬を使用した破裂弾に点火し、縦に深く掘った穴に落とし込む訓練を行う事は、予め説明してはあったが、数日前まで一般人だった者も混ざっている部隊としては、異様に動きが良い。
精鋭と言っても良い動きをしている。
恐怖というのも、役に立つ事が多い物である。現在、アルトは第1軍騎士将、軍事改革計画執行者、教導官筆頭、王城守護、科学技術開発長官など、多くの役割を担っている。
それらにおける部下の殆どを、アルトは主に恐怖によって統制している。状況が変われば、他にも方策はあるのだろうが、現状ではもっとも手っ取り早いし問題がおきにくい。副次的に、皆を気遣うフレッドやシュトラウスに人気が集中したりもするので、アルトとしても良い方向だ。現状、手遅れではあるのだがアルトとしては目立ちすぎない位置にいたい、それに求心力と言うのは一点に集中したほうが堅固になる。
そう言った事もあって、アルトは部下に対しては鬼と言う役を演じている。
もっとも、緊張と恐怖で体を壊している者も居ないわけではないのだが。
読んで頂きましてありがとうございます。
御意見御感想等いただけましたら幸いでございます。
上でも書きましたが、新作を出してます。まだ短いのですが、お暇な方居られましたらどうかご一読の程を。
本人的には、長い事暖めておいた話なので、大事に書いていきたいと思います。
勿論こちらもですが。