表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
幕間 その2
80/85

プルの日記。白根の月編。

アルトの副官、プルミエールさんの日記です。

白根の月、初日。


マリーン様より辞令を頂きました。

早急に王都へ帰還、新しく編制される軍の将軍の補佐へ入るそうです。将軍の副官扱いになるとのこと、父のかねてからの願いであった軍内特別階級制が実施されたそうで、それに組み込まれるそうです。

どんな方の下に付くのかはわかりませんが、この年齢にしては大抜擢。

頑張らないといけません。


同月、4日。


王都へ帰還しました。久しぶりに王城へ上がりましたが、今まで行った事もない奥へと通されました。このたび宰相閣下になられたと言う、リヒテンシュタイン翁と面会し、その後、私よりも若い武官の方に案内されて騎士将閣下の下へ行きました。

後で聞いたのですが、その若い武官さんは、あの有名なバイエルラインさんだったらしく、驚きました。

初めて会った騎士将閣下は、黒髪黒目が変わっている以外は、ごく普通の若者と言った感じ。

もしかしたら私よりも歳が下なのではないかと言うくらい。

でも、仕事はとても律儀にこなす方でした。決して早いわけではありませんでしたが、真面目に延々仕事をなさっていました。

その後、父が乱入して…恥ずかしい思いをしました。

せっかくの初日なのに、あんなのは酷いと思います。恥ずかしくて、部屋から逃げ出しちゃいました。


家に帰ってからも、延々父に心配されました。困ります。


同月、5日。


今日は、各騎士将、各副官を一斉に集めた初めての会議だそうです。他には、教導官であるウィンスコット様オルラウ様ノエラ様、それからシュルツ様も出席されていました。

何よりも国王陛下と宰相閣下、それにミリアリア王女殿下が出席され、私は初めてお顔を拝見したのですが、とても優しそうな方だと思いました。かつては、お爺ちゃんと呼んでいたリヒテンシュタイン翁ですが、今となっては宰相閣下、気安い態度はご法度ですね。

この会議で驚いたのは、フレデリック国王陛下がウォーリック騎士将閣下にいかなる場所での飲酒も遠慮の必要はないと仰った事です。聞いた事も無い破天荒なお達しですが、ウォーリック様は感動しておられたようです。

私の上官である、アルト様の他、ゲルムハルト様、ジョレラ様、ベリオラ様も同様の権利を希望なさっておいででしたが、それは許されませんでした。

私も反対しましたが、ミリアリア王女殿下と、その御友人であられるメイリン様が強硬に反対なされましたことに驚きました。

昨日から、驚いてばかりです。


同月、6日。


今日は、朝から執務室につめていました。

アルト様は、あまり硬い呼び名を好まれないらしく、呼び捨てて構わないとまで仰っていますが、とても難しいことです。シュルツ様に習って、階級でお呼びする事にしましたが、どうも馴染みません。

アルト様は、居たかと思えば居なくなり、居ないのかと思えば、いつの間にか居たりします。仕事の合間合間に、教導官の方々を指導したり、バイエルラインさんに修行を申し付けたりしているようです。

ですが、私には何時部屋を出入りしているのか一行に判りません、軍人としては恥ずかしい限りです。

シュルツ様に伺った限りでは、武勇で名の通ったシュルツ様でもまったく敵わないほどアルト様はお強いそうです。ちょっと想像ができないような事を話していただきました。同じく有名なバイエルラインさんを弟子にしているようで、ちょっとうかがい知れない方です。

何より驚きましたのが、執務室にフレデリック国王陛下がお1人でいらっしゃった時、アルト様は、国王陛下を愛称で呼んでいました。

私が言うのは不敬な事かもしれませんが、兄弟のような感じで、とても仲が良さそうです。

本当に、うかがい知れぬ方、としか言いようの無い方の部下になったものです。


同月、7日。


毎日送られて来る書類の量が、本当に多いです。

事務仕事には、少なからず自信を持っていましたが、それでも大変です。

何よりも、書類の中に、今まで無かったような内容が多くあり、一々アルト様に確認を取らなくてはならないことが多く、手を煩わせてしまいます。

情けない事です。


同月、8日。


本日、アルト様が「一応」と言って、私にも訓練の様子を見せて下さいました。

シュルツ様と、バイエルラインさんが真剣を持って斬りかかるのを、素手で全て受けていました。お二人とも、呪式まで使っていたのに、アルト様は呪式も無しで軽々と。

人間にあんな事が出来るなんて、伝説だけの事かと思っていました。

武術面は、どうにもならないと言われた私とはえらい違いです。

最近、驚いてばかりです。

本日、ミリアリア王女殿下がリヒテンラーデ公国へ赴かれました。

先王陛下の喪に服すための旅を行われるそうです。


同月、9日。


明後日から、しばらくアルト様が王都を離れるそうです。

10日と経たずに戻ると仰っていました。

聞く所によると、武器を手に入れにいくそうです。他の騎士将の副官、新しい階級で大佐と言うそうです、私もそうなのですが、まだ実感は余りありません。その方々に聞いた話では、ありえないほど強い者達が敵に回るかもしれないので、アルト様も心配の様子とのこと。

あんなに強いのに。

少し心配です。


同月、10日。


今日から、アルト様がしばらく居られません。

仕事に関しては、シュルツ様と2人で何とかこなしています。

しかしながら、父がいちいち顔を見せに来ます。

シュルツ様と2人きりになったから心配って、私はもう24歳なのですが。軍人だから言われませんが、貴族や市井の娘だったらとっくに結婚して、子供の2人や3人居てもおかしくない歳なのですが。

父には参ります。


同月、11日。


今日は平和でした。

昨日、母に相談した所、今日は父も来ませんでしたし、書類も問題なく片付きました。

毎日こうだったら楽なのですが。


同月、12日。


今日も平和は昨日と変わりません。

今日は、少し暇が出来るほどでした。ですから、他の方からアルト様の話を聞く事が出来たのですが、不思議に思います。

兵士の皆さんから、鬼と呼ばれているとか、貴族の方を挑発し、惨たらしく殺したとか。

その姿と、執務室で真面目に仕事をしながら私を気遣ってくれている様子や、バイエルラインさんやシュルツ様と、楽しげに笑われている様子が一致しないのです。

不思議な方です。本当に。


同月、13日。


昨夜は父に、そして、今日は僭越ながら宰相閣下に尋ねてみました。

「アルト・ヒイラギ・バウマン騎士将閣下とはどんな方なのでしょう?」と。

結果は良く分かりませんでした。

しかしなら、人物評については、何時も当らず触らずといったお2人が、あえて語るのですから、やはりひとかどの、と言うことでしょう。

それに、あの宰相閣下がアルト様からの紹介状を持っていると言うだけで、楽しそうに市井の人間に直接会うのですから、並々ならぬ信頼を得ているはずです。

少なくとも、私は良い上官をもったのではないでしょうか。



読んでいただきありがとうございます。

御意見御感想等いただけましたら嬉しく思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ