あ~、忘れてた。うっかり
「それで、その剣を譲り受けたと」
「ああ、これで用事は済んだな。明日にでも帰ろう」
俺は、詳しいことを話さず、ただ譲り受けたことだけを説明した。少なくとも、良い武器であると言うのは一目でわかるし、バイエルラインにも異存は無いようだ。
マリッカさんが如何するかはわからないが、出来るだけ早く帰ろうと思っている。
「あれ?持ってきた酒が…」
荷物の整理をしながら、バイエルラインが呟いた。
そう言えば、酒好きのドワーフのために珠玉の酒を用意するとのことで、それを持って鍛冶師を懐柔する算段だったわけだが、結局出す間も無く話が進んだため、放って置かれた酒があったのだが。
飲んでしまった。
爺さんと。
しかも、貴族ですら中々手に入らない。すでに死去した名工の杯も置いてきてしまった。
爺さんと、その友のために。
まぁ、いいか。
美味かったし。
現実逃避も兼ねて、身体の力みを抜き、関節の可動域を少しずつ変えていく訓練をしていると、背後にバイエルラインが立っていた。
「飲みましたね」
「バイエルライン…」
「何でしょう。師匠」
「酒が飲み物である以上、飲まれるのは宿命だと思うが。違うだろうか?」
自分としては深遠な哲学的問いかけだったと思うが、バイエルラインには届かなかったようだ。
弟子との意思的乖離。
少しばかり寂しい。
その後、しばらくバイエルラインの説教と言おうか小言といおうかというものは続いたが、明後日のほうを向いて聞き流していたら諦めたようだ。
修行が足りんな。
精神的に。
主に、根気面で。
読んで頂きありがとうございます。
しばらくは、予約更新で行ってみようかと考え中。
でも、大体家にいる時間に更新しているので無意味かも。
楽は、楽なのかも知れません。