仕事の後は、お酒と…
ギルドに入り、カウンター内を見渡す。気配でも薄々判ってはいたが、昨日いた、愛想のいい小さい娘はいないようだ。
「ちっ。あの娘なら騒いだりしないと思ったんだが」
仕方なく、朝もいた娘に声をかける。
「依頼を完了してきた。確認してくれ」
俺が、あっさりと依頼を完遂した事に、少し驚いていたのだろう。しかし、その表情は、さらに変化する。娘の目が、みるみる見開かれていく。暫く待ったが、反応がないので、ため息をついて声をかけてみる。
「どうかしたか?報酬を受け取りたいんだが」
呆けた様に、無言で首をコクコクと縦に振る。こうしてみると中々にかわいらしい。騒いだりもしなかったし、朝に感じたいやな感じも、払拭されたようだ。なにやら、ふつふつと汗を流しながら、業務を遂行している。まったくの無言だが。
「ほぉ、報酬のお受け渡しと、ランクのし、昇格の手続きがありますので。もう暫くお待ちください。今お持ちんんっの、ギルドカードを、お貸しください。手続きに必要になりますので」
無理やりひねり出した棒読みといった感じで、言葉をつなぐ。かわいらしいものだが、この無言の圧力は如何にかならないのだろうか?脂汗を流す女性というのははじめてみた。
苛めているみたいで、少し傷つく。最も女性との接点は少ない。その上、あの白い世界に行く前2年ほどは、触れてもいない。知り合いが言っていた、思春期の異性に対するモヤモヤ、とはこんな物だろうか?経験が無くて判らない。
「お待たせいたしました。1回の報酬が120ガラン、13回分になりますので、1560ガランになります。それと、ランクアップの際の褒賞もございまして、FからEへの褒賞が50ガラン、EからDへの褒賞が100ガラン支払われます。合計で1710ガラン。銀貨17枚と銅貨10枚になります。ご確認ください」
まさか、ランクアップで、ボーナスがあるとは。少し驚いたが、いただけるものは貰っておこう。こういったサービスは中々うれしい。言葉も、だんだん詰まらなくなっている。落ち着いてきたのだろう。
「それでは情報を更新したので、カードをお返しします」
必要なことをしゃべり終わると、また呆けたモードに戻ったようだ。落ち着いてなかったようだ、そっとしておこう。戻ってきたカードを見てみると、右上の空白だったところに、Xのような形をしたマークが追加されていた。D級ということだそうだが、一般的使われている文字ではないようだ。何の意匠なのかは判らないが。
懐も暖かくなったし、教会に行って荷物やお金を預けることについて聞いてみよう。まだ4時頃だ、時間に余裕はある。
最初に見えた、城壁内の中央の塔が、教会だった。石で組まれ、青っぽい色の漆喰を塗られた塔は、独特の雰囲気がある。
青い漆喰か、何か混ぜてるんだろうか。アイゼナッハ王国は、山国で海には面していないのらしいから、貝の漆喰ということもないんだろうが。異世界だし、穢れ物なんて物までいるから判らないな。
教会の中に入ると、一階は、事務所のようになっていた。2階部分が礼拝施設らしい。カウンターで話を聞いたところ、荷物は地下室で保管、鍵もかけて管理するらしい。隣の建物が、騎士団の詰め所なので安全性も高いと言う。預かり料は大きさによって変わるようなので、背中の背嚢を見せると、1日2ガランと言われた。十分に許容範囲だがすべてを預けるわけにも行かない。説明に礼をいい、教会を出る。
金庫を買おうと思っていたが、今後移動することを考えると邪魔になる。肩掛けか、小型の背嚢のようなものがあれば、それを購入しよう。宿やギルドに着替えなどを預けて良く時用の鞄もほしい。今もっている背嚢は、鍵が掛かるし、防弾防刃繊維の背嚢に、さらに炭素繊維を組み込んだ物だ。防水防燃で、ボディシェルも兼用している。この中に入れて預ければ問題は無いだろう。
かばん屋という様な洒落た物は無かったが、小物屋で、布袋が買えた。背嚢は、昨日行った服屋で、特別に作ってもらう。さすがに強化繊維などは無かったが、帆布のような丈夫な布で、体に合う様作ってもらう。多めに金を払い、その場で作ってもらうことが出来た。作りながら注文がつけれるので、この方法の方が便利だ。
昨日止まった宿とは別の宿に部屋を取った。早速荷物を分ける。着替えの類はすべて布袋にまとめる。元々少ないので袋にはかなり余裕がある。充電用の小型のソーラーパネルもこちらに入れて置く。
続いて、常に持ち歩くものを選ぶ。cz75・換えのマガジン2つ・サバイバルナイフ・鋼線・カーボンザイル・AIDパック・水筒・酒用のスキットル・オイル・電気式ライター・引き伸ばし型の鍋・折りたたみ式の五徳・その他サバイバルキット・レーション・ドライフルーツ・塩・以上を、新しく作った背嚢に移す。
残った荷物を確認して、銃や機械類は油紙に包み、布で包んで鍵をかける。ナンバーロックと南京錠、二重にかけて確認する。布袋だけを部屋に残し教会へ向かう。教会で荷物を預ける。金は結局持ったままだ。さらに量が増えれば別だが、今はそこまで邪魔にならない。
「これで、一安心かな。身も軽くなったし、酒場に行くか」
ギルドの近くの酒場に行く。冒険者や傭兵がたむろする場所だ。情報も集めやすいだろう。酒場に入ると、自分がイメージしていたものに近い。丸いテーブルに椅子、カウンター、西部劇のサルーンのようだ。カウンターの端のほうに座り、酒を頼む。
「何か、軽く飲める物と、摘める物をくれ」
マスターが、金属カップに酒を注いでくれる。やはりガラス製ではない。真鍮か銅かと思ったら、錫だった。まぁ、酒の味が良くなるとは言うけど、中毒性もあるんだが、錫。つまみは松の実のようなナッツだ。
「ありがとう、これなんて酒?」
「ロートハイド、軽めの酒だよ」
思ったより、丁寧に答えてくれる。無視されるかと思ったが、話に乗ってくれるなら、マスターから話を聞くのも良いな。酒に口をつける。やや甘いが、フルーツのような芳香と合っていて美味い。度数も高くなさそうだ、一息に飲み干す。
「美味い酒だな、この辺りで造ってるのか?」
カップを差し出すと、同じものを注いでくれる。
「いや、もっと南のほう、王都よりも、さらに南で造ってる酒だ。こっちでは中々飲めんのだが、たまたま仕入れたんだ」
「じゃあ店では普通に買えないのか。後で1瓶売って貰えないか?」
とりあえず、少しだけ変わった取引を持ちかける。受け答えを何度かすれば、おのずと引き出せる情報も違ってくる。
「かまわんよ。つまみもいるか?」
「ああ、それで頼む。ありがとう。それじゃあ、他の酒も試してみたいから、お勧めをくれないか?」
酒を飲み干し、前におく。マスターは少し考えて、少しにごりを持った酒を注ぐ。口にすると、鋭い酸味と香りが口に広がる。
「癖はある。だが、いい酒だな、気に入った。いい酒だ」
自分が推薦した酒を認められて、気を良くした様だ。職業意識もあり、趣味にもしている人間なのだろう。情報を引き出すのは難しいかもしれない。筋の通った人間は難しい。一度気を許せば、それも頼もしさに変わるが、利用には向かない。
「この店には、冒険者や傭兵がよく来るのか?最近は皆の羽振りはどうだ?」
「冒険者連中は変わらないね。傭兵は、戦がなければあがったりさ。それで」
マスターは、にやりと笑う。
「何の情報が聞きたいんだい?」




