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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第2章
63/85

双剣の

「殺される…か。殺される。それは穏やかな話じゃないな」


「諦める事を勧めよう。武器を、まぁ剣等を作るならば、最低でも100パトは要る。しかし、今、村に残っている量をかき集めたとしても、到底必要量には足りん。大人しく諦める方が無難だな」


「強いのか」


アルトの目が細められる。決して笑みではない、興奮でもない、事実を確かめ噛み締める、そんな目だ。同時に、何かしら思うところもあったのだろうか、顔を隠すように手で覆い、天井へ顔を向ける。


「いや、強いのは間違い無い訳だ」


「そうだな、有り体に言って化け物だ」


「ここに宿はあるのか?休息を取りたい」


アルトはマリッカに尋ねたが、バイエルラインはそれを不思議に思った。


「師匠、直ぐには行かないんですか?」


「ああ、ここに居ても感じる事が出来ない相手、それに、違和感もある。少しでも危険は避けたい」


「そうですか、感じる事ができないと言うのは…」


「恐らく2人いる。1人はここからでも十分把握している。しかし、横にいるはずの存在がぽっかりと消えている様に、な。何も感じないのではない、いつぞやの奴の様に気配が無いわけではない。気配が歪められ、感知できなくなっている。正直、少し怖いな」


「師匠が……怖い」


震えるバイエルラインにアルトは笑って答える。


「恐怖を忘れたら強くはなれんさ。それに、俺はお前との訓練でも、仮に弱い相手と戦うときであっても、常に恐怖は感じる。問題はそれに囚われるかどうか、多分それだけなんだろうな。それに」


「それに?」


「良い訓練だ」


ベルゲインは、アルトの様子を見ると、ため息を吐きながら言った。


「そこまで分かるのならば、なぜ死に急ぐ。今日は家に泊まってもかまわん。出来れば諦めてくれ」


「世話にはなる。だが、諦めるかどうかはこちらの問題だ」


「そうだな、俺たちも困っている。倒してくれるのならばそれに越したことはない」


そう言うベルゲインの顔は、重苦しく沈んでいる。それは、アルトが死に行くと思っているのか、それとも他に何か思いがあるのか、それは分からない。


ともあれ、アルトとバイエルラインはベルゲインの家に泊まる事になる。マリッカは友人の家に泊まるとの事で、翌朝合流する事にして、今日の所は分かれた。



「天気が悪いですね」


バイエルラインが空を見上げて言う。雨が降っている訳ではないが、重く立ち込めた雲は湿気をはらみ、頭上を覆っている。


「ああ、しかしこの位の方が動きやすいな。まぁ、その辺りは好き好きだとは思うが」


「この間、宰相は雨が近いと関節が痛いって言ってましたよ」


「あぁ、爺さんだしな」


「年取るとそうなるんですかね?」


「さぁなぁ」


これから戦いに行こうかと言う時に、どうでも良い話をしている2人にベルゲインは呆れ気味だ。


「お前らは、緊張感がないな」


「緊張して勝てるのならば緊張するが、大体は逆効果だからな」


「師匠が負けるとは信じれませんから」


「良い師弟なのよね。まぁ、色々と如何かと思う所も見たけれど」


マリッカは、ベルゲインの肩を叩き、案内するように促す。草が踏み均された細い道を進んでいく一行の足取りは、今から始まるであろう戦闘とは裏腹に軽い。


「しかし、鉱石を運び出すと言うには道が整備されていないな」


「そうですね。単なる獣道に近いですね」


「まぁ、色々と理由があんのさ。それから、もう直ぐだぞ」


木々を抜けると、そこには僅かな開けた空間。真直ぐ立った錐の様な岩と、そこから流れる紅い滝。岩の横に立つ若い男と、白い髭を生やし額から後頭部へ大きく火傷の痕がある老人。


その老人が口を開く。


「まぁた、性懲りも無く来やがったか。さっさと帰れ、この孺子(こぞう)が」


「口が悪いな爺、こっちにもやる事がある。年寄りの冷や水はやめて、そこを退け。この禿げ火傷が」


お互いに、言葉の応酬を繰り広げた後、2人は言葉を発しない。ただピリピリとした空気が辺りに張り詰め、他の面々の顔には汗が浮かび、緊張の極地にある。


「ふ」


「ふふ」


「ふはっはははははははははははははははははぁっ」


突然老人が笑い出し、その場の空気が一気に変わる。


「驚いたぞ孺子(こぞう)、異能を持たずして、そこまで練り上げるか。お前の歳でお前の体で、良くぞここまで練り上げた」


「爺、興奮して勝手に発作で死んでくれるのか?一応推奨しておいてやる」


「ふわっはっは。孺子(こぞう)、お前の様な面白い奴がいる限り逝って堪るか。退屈していたが、面白い、実に良い、これだから人生は堪らん」


「いい加減、生に飽きろ爺」


アルトの手から棒手裏剣が飛ぶ、3つが次々と投射され、老人がそれを背から出した短剣で弾く。両の手に握られた短剣は、二重(ふたえ)の螺旋を描いてアルトに襲い掛かる。


上下左右から伸びる双撃を、紙一重でかわして行く。目へと伸びてくる剣戟を避ける。髪が切れ、こめかみから血が流れる。


しかし同時に放たれたアルトの蹴りは、老人の腰をかすめ衝撃を与える。


2人は同時に後ろに飛び、間を保つ。あまりにも早い攻撃の応酬に、周囲の面々は動く事も出来ずにただ息を飲む。


「孺子、何故剣を抜かん。そのまま死ぬか?」


「爺に使うには勿体無くてな。爺こそ、何故あの世へ行かん。何時まで生きる?」


「けっ!減らず口を叩きやがって。死ね」


瞬時に間をつめた老人は、地面を蹴ってアルトへ迫る。その時、アルトは腰を深く落とすと、老人に背を向けた。


「何のつもりだ孺子、本気で死ぬか!」


上から襲い掛かる老人の脇が開いた時、捻り力を溜められたアルトの体は一気に元へと撥ね戻り、抜刀の勢いを増して老人へと叩き込む。


「がっ!」


辛くも、短剣を立てて攻撃を受け、その勢いを利用して老人は後方へと飛ぶ。地に降り立った老人の手から、短剣の刃だけが落ちる。


「切りやがったか。やるな孺子」


アルトの攻撃は、老人の体へは届かなかったが、老人の短剣の片方を半ばから切り折っていた。しかし、それはアルトの刀にも重篤な被害を与える。いや、既に与えていた傷を、更に大きく広げる事になる。


「爺」


「何だ孺子」


「ちょっと待て」


「ああん?」


アルトは刀を見下ろすと、刀の峰に手刀を叩き込んだ。歯切れの場所に正確に叩き込まれた一撃は、刀を半ばから折り取った。


「師匠!何を」


「見ていろバイエルライン、現状の俺の出来る限りって奴を見せてやる」


「ほぉ。おもしれぇじゃねえか」


「受けるか、爺」


「良いだろう、来いよ孺子」


アルトは、折れて短くなった刀を右手に持つと、腕をだらりと下げた。


「さて、死ぬか」


アルトの言葉の死は、恐らく自らに向いていた。



読んでいただきありがとうございます。


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