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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第1章
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初仕事、あれ?

城壁の門を抜け、穀倉地帯を1時間ほど歩く。何箇所かにある、木で出来た柵を越えて、平原に出る。体力の確認もかねて、平原に出たところから、走り始める。


走れる、走り続ける事が出来るという事が自信になる。兵士は走れてこその兵士だ。いかに強力な兵器であっても、兵士が動き回り、活用しなければ意味が無い。俊敏に、そして正確に移動できるか、機動運用できるかが、兵士の本分だ。銃撃や徒手格闘、爆破といった、各種の技能は、あくまでもその延長線上にあるべきだ。これが、師匠の持論だった。俺もまったく同じ考えを持っている。


30分ほど走り続けたところで、気配を感じる。近くには水場があり、川の脇で三日月湖が形成されている。その中から気配がある。攻撃的な気配は無い、まだ恐らくこちらに気付いていないのだろう。蛇の仲間と言う事なので、水辺にいる可能性は高いと思われる。ウォルンバットかどうかを確かめに、ゆっくりと風下から進む。


「さてさて、鬼が出るか、蛇が出るか。蛇であってほしいが」


浅瀬を占拠していたのは大きなサンショウウオだった。体長は2m潰れた様な体で、体幅も1mはある。


「どうするかな、周囲に他の気配は無いが。拳銃弾が効くかどうか分からんな。触りたくは無いが、危険は排除しておくべきだろうな」


倒すことに決め、姿をさらしてみる。こちらには気付いているようだが、水場からは離れてこない。仕方なく、こちらからじりじりと距離をつめていく。


距離が、10m程になった所で、9mパラを一発撃ち込んで見る。まったく変化がない、皮膚に弾かれると言うよりは、分厚い皮膚で、止まっている様だ。


「無駄か」


銃を、ホルスターに戻し、さらに、間をつめる。


左回りに回りこみ、俺が水場に足を入れると、途端に突進してきた。低く太刀を構え、突っ込んでくる相手の右前腕を切り飛ばす。居合いの形から放たれた勢いをそのままに、腕を飛ばし体捌きで右に回りこむ。上から首筋を狙って一気に引き切る。首筋に刃が入った時、想像よりも遥かに重い手ごたえがした。かなり堅い穢れ物のようだ。しかし、一刀で綺麗に決められたので安心した。後で調べなくてはならないが、穢れ物・モンスターとは言え、直接対峙しても問題はなさそうだ。


「サンショウウオか、少し平べったすぎるが。美味いって言うけどなぁ。こんな、毒々しい物を、食う気にはならないな。元の世界であっても、食う気はしないけど」


太刀の刃を確認し、布で拭いを取って鞘に収める。これで、太刀が有効なことは判った。後は素手だが、少なくともぬるぬるなサンショウウオを、殴る趣味は無い。組み打つなんてもってのほかだが。蛇にしたって、あまり触りたいものではない。


「まぁ、生きるためには、調査がいるよな。一々確かめる他無いか」


背嚢を背負いなおし、再び走り始める。心拍数、呼吸、疲労、すべて、以前の世界よりも、変動値が少ない。異世界に来たからなのか、あの白い世界での訓練が生きているのか。


出来れば、努力の結果だと思いたい。狂うほど特訓をしたのか、狂わないように訓練を続けたのかは判らないが、無駄ではなかったと思いたい。少なくとも白い世界でのイメージどおりに居合いは出来た。あの感覚は悪くない。あそこまで、物を的確に斬れたのは初めての経験だ。


昼までには、何とか、発見したいと思っていると、岩の上で日に当たっている大蛇を発見した。3匹がとぐろを巻いている姿は、なんだか平和な光景だが、さっさとやらせて貰おう。


「仲間を呼ぶこともあるといっていたな。出来れば呼んでもらおう」


背嚢を下ろし、にじり寄っていく。ためしに銃を撃ってみたが、あっさり弾かれた、射角が浅かったのは確かだが、弾かれるとは思わなかった。やはり、穢れ物への効果は、薄かったようだが、こちらには気付いて貰えたようだ。


シャーシャーと威嚇音を出しながら、鎌首をもたげてくる。ちょうど1m程の高さに頭がくる感じだ。ちょうど良いと思い、一足飛びに懐に入り込んで、頭部に、発勁を徹す。思惑通り一撃で沈めることが出来た。


続いて、足元に這い寄ってきた1体の胴体を震脚で踏む。反動で、跳ね上がってきた頭部に、双把を叩き込む。全身に勁が浸透するのを感じた。悪くない。


相手が一体だけになったので、仲間を呼ぶのを期待して暫く避け続ける。


「蛇さん、蛇さん、当たんないよーだ。いやぁ、良いねぇ、いい訓練になるよ。蛇さんには御礼をしなきゃ。」


きっちりと始末してあげよう。良いお礼だろう。


多数の気配が来るのを感じたので、太刀を抜き打ちに斬って捨てる。頭骨に当らない様に、横なぎに背骨を斬ったが、刃にも、たいした衝撃は無かった。太刀も、十分に通用する。


気配が、近づいてくる。どうやら、同系統の気配なら感知できるようだ。さっき感じたウォルンバットと、今感じている気配は同種だ。三体目の首を、切り飛ばすと同時に、胸ポケットに入れていた依頼用の板が鳴る。


「ほー、なかなか便利な物だな」


感心しながら、胸を見ていると、増援部隊が到着した。


「思ったよりも多いが。まぁいい、ドンドン狩って殺ろうじゃないか」


体が、こんなにスムーズに動いたことは無い。敵を斬る刃先の末端にまで、神経が届いている様だ。敵を蹴る足も、撃ち付ける拳も、確実に一撃で倒せることを実感する。あの白い世界での感覚が、急速に実体に結びついて覚醒していく。


この世界に来てから、色々な事がずれていた。それらが急速にすり合わされる。俯瞰で全体を見ていながら、皮膚から気配を感じ取れる。最初は戸惑っていた、鋭敏化した感覚も心地いい。笑い出しそうな俺の胸で、時折音が鳴っている。律儀にカウントをしているのだろう。


拳槌を、頭部に打ち込むと同時に、足で牙を蹴り飛ばす。ナイフで口を貫き、地面に釘付けにする。


「これで、4回目。ハァ!!楽勝でかなわんな」


蛇たちが乱舞する中を、軽々とよけながら、太刀に拭いをかける。少しずつ、蛇の動きを、足で逸らして行くと、お互いにぶつかり合う。太刀を腰に収めて、バランスを崩している相手に向い、棒手裏剣を両手で投擲する。


「良い、実に、良い。手から離れた手裏剣にも感覚が繋がっている。刺さる瞬間まで知覚出来る。オラァ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラァ!」


楽しい、自分の周囲の空間をすべて掌握したように感じられる。これほど気分が高揚した記憶は、過去に類を見ない。


「これで13回そして、2匹と」


左右から噛み付いてくる蛇を、同時に弾き飛ばす。空中に浮いた瞬間には生命活動は停止している。


「チィッ。もう1匹いればきりが良いんだが。まぁ仕方ない」


合計41匹を倒して町に戻る民に歩き出す。背嚢を背負い、歩き出して暫くすると。



途端に落ち込んだ。



「何を恥ずかしいことをのたまっているんだ。俺は」


加速されていたような感覚が消え、正常な状態となった俺は、急速に落ち込んだ。ひざから崩れ落ちていきそうな羞恥心と、変な精神状態に落ち込み、危険を招いたかもしれない事実からの猛省に、その場にへたり込んだ。


「はぁ。能力が有効なことは判ったが、何をやっているんだ俺は、あの精神状態もわけがわからないが。それ以上に、悪目立ちをしてはいけないのに、こんなことしたら、下手に目立ってしまう可能性がある。というか目立つ。最も避けなければならない事を、何をノリノリでやっているんだ。反省しろ俺」


先ほどとはうって変わって、ため息をつきながらとぼとぼと町に帰る。朝も走れてはいなかったので、走っては見たが、気分的には、頭の中でドナドナが流れていた。沈み気分に拍車をかけるいい曲だ。ふぅ。


気分も多少は回復したので、町に入る前にもう一度能力の確認をしてみる。


知覚範囲はさほど変わらない。平常時で50m、集中すれば150m程だ。しかし、知覚する内容はあがっている。言葉での説明はし難いが、どんな生物であるかが大体把握できる。大きさや動きなどが何と無くではあるが判る。特定の人物の察知なども出来るようだ。莫大な時間の訓練は、やはり人間を研磨する。衰えることなく鍛錬が出来たあの時間に感謝すべきかもしれない。


だいぶ気分も良くなった、暗くなる前に町にも帰れたし、さっさと依頼の報酬を貰おう。


気を取り直してギルドに向かう。でもなんだか吹っ切れないので、途中で店により、軽く食事を取りながら、酒を一杯ひっかけた。


別に、ギルドに行って、変に注目されたらいやだなーとか思ったわけではない。禊みたいなものだ。……多分。



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