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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第2章
57/85

互いに立つ位置

「これから…ですか?」


「ああ、暫く留守にする。なるべく早く戻ってくる」


心配そうに尋ねるフレッドに、それ以上の不安を与えない様、努めてさり気無くアルトは応える。


「貴方には、過分なほどの職責と、そして辛い立場を背負わせてしまいましたね」


何かを堪える様に拳を握り締めるフレッドは、自分自身の不甲斐無さを悔やみ、頭を垂れた。


アルトは苦笑して、フレッドの頭に手を置く。撫でたりはしないが、軽くポンポンと頭を叩き、顔を上げさせた。


「俺が望んで、いや、半分以上俺の為にやっている事だ。それに、前も言っただろ、戦争で人が死ぬのは見たくない。自分の意思で戦う者は勝手に死ねば良い、しかし、日々を生きる事が目的の者が戦いで死ぬのは見たくない。俺は、その為に出来る事をしているだけだ」


頭から離れた手は、腰に佩びた刀に置かれる。軽く音が鳴った刀を見ながら、アルトの言葉は続く。


「これで守れるならば簡単だろうな、俺自身、俺だけを守るならばそれでも良い。しかし、他に守りたいものがあればそうは行かない。手を汚す事も、悪意を受ける事もあるだろう。それが俺自身の我が侭でないのかと言えば、それは我が侭なんだろうがな」


「ですが、貴方を悪役にしたかった訳ではありません。むしろ、貴方には英雄になって欲しかった」


その言葉に、アルトは体を振るわせ笑い出した。以前に自分が言った言葉を思い出し、人間の考え方の狭さにむしろ安心感を覚えたせいもある。同時に、自分が英雄とは一体どんな悪い冗談だろうと、それが単純に面白かったと言う事もある。


「なるほど、俺もバイエルラインに似た様なことを言ったよ。お前を英雄に仕立て上げるとな。しかし、俺には如何考えても似合わない話だ、俺に似合うのは憎まれ役ぐらいだな」


「しかし」


「それにな、憎まれ役と悪役は違うぞ。俺は憎まれ役にはなっても悪役にはならんよ」


この言葉はフレッドの理解からは外れていた様だ。そのどちらもが悪意を向けられる立場、ならばどちらにしても損な立場ではないか、何処に一体差があるのだろうと。


その様子を見たアルトは、自信も確信は持てないでいたが出来る限りの言葉を紡いだ。


「俺にも、詳しい説明は難しいんだが。悪役と言うのは敵であり、正義に対して反抗する者だと思う、勿論正義が一つである事など少ないし、そもそも正義と言う単語自体があやふやだ。しかし、思想…いや趣味や思考と言う物に沿って行動しているならば、それは悪役ではなく憎まれ役で良いと思う。少なくとも憎まれ役は仲間の中にいる、敵ではないさ」


「その結果が、あの恐れられかたと地獄のような訓練ですか?」


「そうだな」


フレッドの顔に、どこか突き抜けた様なさわやかさが加わる。


「貴方が仲間でよかったです」


「保護者だからな」


にこやかに笑いあう二人の姿は、近くで見れば兄弟のようにも見えた。


髪色や顔貌は明らかに違ってはいるが、お互いに通じ合っている空気と、お互いがお互いに思うところがありそうな、相反する空気を同時に纏っている。


それは、反抗期の親子や兄弟に見られる空気に近しい物だった。


「ところで、総将の娘さんを副将に就けて、行く行くは嫁に迎えると言うのは本当ですか?」


アルトの頬に一筋冷たい汗が垂れる。


「誰がそんな事を?」


「他の騎士将の皆さんや宰相が、楽しそうに話しておられましたよ。宰相は、子供の名付け親になると意気込んでいましたが」


返事を返す事も無く、ただただ深くため息をつくアルトの様子を、フレッドは楽しそうに見ている。


「なんでしたら、国家の雄と国家の大将の娘の結婚ですから、婚約から結婚まで派手に行いますが」


「冗談と言う物は、ある程度の一線を越えた瞬間から、一切笑えないと言う事を知っているか?」


肩口をギリギリと握り締め、鎖骨が悲鳴を上げるほどの力を込めているアルトに、流石にこれ以上からかうのは危険が多いと知ったフレッドは、素直に頭を下げた。


「すいません、冗談が過ぎました」


「冗談ではすまないから止めてくれ、少なくとも総将の前でやると、俺と総将とマリーンさんの業務が半刻は滞るんだ」


アルトは、先日の延々と間の縮まらない並行線上の会話を思い出して、胃の辺りを押さえながらうなだれる。


アルトは貴族どもを片付けた後、一旦爺さんの部屋へ向かって時間を稼ぎ、幾つかの懸案について話し合っていた。しかし、中々帰ってこないアルトに業を煮やした総将は、マリーンと共に宰相の部屋へと向かってきた。


本来なら総将に気配を感じる能力はないはずだが、娘に関わる状態においては、未知の力を引き出すらしく、真直ぐに宰相の執務室へと向かってきた。


当然アルトも気が付いていたが、逃げるのも何なのでそのまま待っていた。


その後巻き起こされた親馬鹿台風と、それに拍車をかける宰相の茶々はアルトの精神面を実に効率よく疲弊させた。


「あの、大丈夫ですか?」


自分の想像以上に、この件に関して被害を被っているであろうアルトの様子に、フレッドも流石に心配になったようで、気遣う様子を見せる。


しかし、その気遣いがかえってアルトに被害を与え、より落ち込ませる。


とぼとぼと城門の方に歩いていったアルトを見て、フレッドの口から言葉が漏れる。


「宰相の言っていた通り、思っていたのの5倍は面倒な人だな」


しかし、それならば自分にももっと支えられる所や、助けになれる所もあると思ったフレッドは、アルトとは逆に機嫌よく自分の仕事に戻って行った。



読んでいただきありがとうございます。


御意見御感想お待ちしています。

誤字脱字の報告を含めまして、いただけましたらば望外の喜びでございます。


それでは今後もどうぞよろしくお願いします。

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