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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第2章
56/85

壱先を殺して、万を排する。

「説明を聞こうか」


書類の事で話し合っていたアルトとマリーンに、シュトラウス将軍は腕を組んで威厳たっぷりに尋ねた。尋ねた内容が、娘に関してでなければ、それは非常に堂々とした姿であるが、一連の行動を見ていた周囲からすれば、その差に情けなさすら覚える状況である。


「何についてです?」


「とりあえず、娘さんに叩かれて赤くなった所冷やしませんか?」


マリーンはにこやかに惚け、アルトはため息混じりに尋ねたが、そんな冷静な返答を、親馬鹿は求めてはいなかった。


「説明を聞こうか?」


「プルミエールをアルト殿に付けたのは、私と宰相の判断によるものですよ。と言いますか、他に居らんでしょう、事務能力に長けた者であの場にいない人材といえば、凡そ推測は出来たと思いますが」


「レーベルンだと思っていた」


「レーベルンは、南方視察からまだ帰ってきていません。それに、帰ってきても宰相の元に預けます」


「ああ、爺さんの所の人員の薄さは致命的ですからね、そうして貰えれば良いでしょうね」


「それにしたって、人員数は足りていないのですがね」


もはやシュトラウス将軍は半ば無視され、アルトとマリーンは考え込む。根本的な問題として、中間層の人員不足は深刻だった。


理由の主な物としては、教育を受けた者の多くは、貴族の後押しによって教育を受けているので、その後貴族の子飼い化してしまっているのが一つ。識字率はともかくとして、そもそもの教育程度が低いのも一つ。先の戦争において、20代30代の働き盛りの世代が被害を受けているのが一つ。


「貴族を潰して、そこから溢れて来た人員を徴収しますか?」


アルトの、やもすれば危険な発言に、マリーンは首を振る。


「結局、その貴族の治めている土地の管理で人員が割かれます。結局人手が足りません」


「諸国から人手を募る訳にも行きませんしね」


「そうですね、隙を見せるわけにも行きませんし。目聡い人間なら、現状この国に関わろうとはしないでしょう。何らかの形で、ジギスムントに勝利を収めれば、話は変わりますが」


現状、周辺国から見れば、この国の状態は、ジギスムントにしてやられた国という印象を受ける。これは、初戦において敗退したと言っても良い。今後の巻き返しを見せなければ、さらに後の戦争を呼ぶ結果になる。


「即効性の高い方策は、現状難しいとしか言えないですね」


「あちらの言に乗るのは癪ですし、信用はしていません。しかし、しかし、現状は時間が何よりも欲しい」


それは、上層部全体の切なる願いだった。


内務は勿論、軍事面、経済面、そして貴族の力を殺ぐ為にも、時間は出来るだけ欲しい。


しかし、外務の面。ジギスムントとの関係においては勿論、その他の周辺諸国との関係においても、早急に勝利を必要としているのは事実。


そして、国民感情と士気の面においてもそれは同様だった。


時間を稼ぎたい面と、早急な開戦を欲する面、その釣り合いを如何取るかが現在の問題だった。


しかし、上層部としても、何とか戦闘は回避したい。無理なのは分かっているが被害を出したくは無い。本心で言えば、ジギスムント側が折れ、謝罪をすれば、多少のしこりは残っても、それを受け入れてでも戦闘を回避したいと言うのが本心なのだ。


それが起こる事の可能性が、絶無に等しくはあっても、理解をして戦争の準備をしてはいても、それは願いとして存在している。


流石に、真面目な空気を出しながら話す2人に、場を弁えたのか、シュトラウス将軍もそれ以上の言葉を続ける事が出来ずに聞きに回っていた。


その時、アルトの眼が細められ、口元には獰猛な笑みが浮かぶ。


「来ました。屑様のご登場のようですよ」


「思ったより遅かったな」


「脳の枯渇した連中です。馬鹿は馬鹿なりに、何かを話し合っていたのでしょう。時間の無駄ですね」


冷たく笑う、軍の最高責任者たちに、その場にいる面々は、恐怖を禁じえなかった。



「ええい、雑兵では話しにならぬ。将軍を出せ、もしくは王への謁見をさせぬか」


豪奢な衣裳に身を包んだ一団が、声を上げながら廊下を進んでくる。一応門に配置していた兵は止めようとはしたが、貴族の集団の前では強く出ることも出来ずに結局押し切られてしまっている。


無駄に金を使い、華麗と言うよりは下品に近しいほどの派手な衣裳の一団は、道を阻むように立つアルトの前で止まった。


アルトに向かい、尊大な調子で声を掛ける。


「そこの下郎、貴様、軍の一員であろう。将軍の元に案内せよ」


「申し訳ございませんが、ここに入る事が出来るのは許可された者のみです。あなた方は、予定を入れた上でお越し下さい。おとなしく帰れば今日のところは良しとしましょう。ですが、そうでないならば不審者として取り押さえさせていただきます」


アルトの言葉に青筋を立てた貴族達は、怒りも露わに怒声を浴びせた。


「貴様のような下郎が、その様な身も弁えぬ発言、万死に値する!」


「あなた方は、言葉も通じないのですか?既に通達した通り、事前の連絡無しに王への謁見は認めない。これは決定事項です。さらに王城への登城も、それに準じるため事前の連絡が必須、また、貴族の将軍への意見は文章の形で行うと、これらの事項は全てお知らせしてあるはずですよ」

 

慇懃無礼を絵に書いたようなアルトの発言に、貴族の1人が剣を抜き、アルトに切りかかってきた。


しかしながら、当然のようにそんな攻撃が通用するはずも無く、あっさりと首筋を叩かれて昏倒する。そんな様子を見て、他の貴族はやや不安に駆られている様だが、幼い頃からの貴族教育で肥大化した自意識は、それを無視してその場に留まった。


「城内で剣を抜くとは不敬の極み、司直の手で裁かせていただきます」


淡々と人の意識を刈り取りながらにこやかな笑みを見せるアルトの姿は、恐ろしさをいや増させる。すでに多くの貴族の腰は、完全に引けていた。


しかし、その中にも例外はいた。


「ほう、貴様が最近話しに上っている、ぽっと出の成り上がりか。ケーン・マライアを害したのは貴様だな」


笑みを顔に貼り付けたまま、アルトは頷く。


「確かに、あの下衆の処刑を命じたのも、そして結局首をはねたのも私ですよ。あの下衆のお友達ですか?」


明らかに挑発しているアルトの言葉に、尋ねた男の体が憤怒でガタガタと震える。眼は血走り、怒髪は逆立って、まさに怒り心頭の様子だ。


「私の甥を、よくも下衆などと!」


「おー、下衆のご親族で、それはそれはご不幸な事ですね。如何です、掃除が済んでスッキリしたでしょう。下衆もゴミも捨てるに限りますな」


「貴様ァァァァ!」


「おや?声を荒げて何ですか?頭の血管が切れますよ」


さらに挑発を続けるアルトに、周囲の人間の顔は、すでに蒼白を通り越して土気色だ。


「良くぞそこまで言った下郎、もはや我慢ならん。貴様に決闘を申し込む」


「良くぞそんな大それた事を言った、下種の血族。その決闘を、あっさりと受けてやろう」


「貴様!もはや生かしてはおかぬ。この伝家の宝剣の錆にしてくれる」


筋骨隆々、身長ではアルトより頭一つ以上高く、体重や力においても一回りも二回りも上に見えるその男は、ゴテゴテと飾り付けられた剣を抜いた。その体格に見合い、剣も長大で幅広の剛剣となっている。


「さぁ、来なさい。下衆の血族相手に武器を使うのは勿体無い」


唸り声を上げて切りかかる光景に、貴族の集団の誰もが真二つにされるアルトを想像した。しかし、その後の光景は、彼らの予想を遙かに上回る物だった。


貴族の中でも、剛勇で知られる男の腹には、彼自身の持っていた剣が突き刺さっている。いや、今もその手は剣の柄にあり、握り締めている。


「やはり下衆に連なる者、まともに剣も使えない様ですね。それとも、自分で自分を恥じて切りましたか?だったら少しは見直してあげましょう」


アルトが押さえているので、剣から手を放すことすら出来ずに、男の剣は腹に潜り込んで行く。ゆっくりと自分の腹が切裂かれる光景は、男の意識を摘みそうになるが、痛みが意識を覚醒させていく。


結果として、気絶する事もできず激痛の中で男は事切れた。


あまりの光景に、周りの貴族の中には失禁している者すらいる。


「さて、これだけ時間を差し上げたのに、未だにここに留まっていると言う事は、あなた方は侵入者ですね」


貴族達は、抗弁の暇もなく叩き伏せられ、気絶した。


そして、その光景を見た門兵によって、アルトの名は恐怖の代名詞として兵たちに広まっていく。


その強さも、その冷酷さも、全ては規律の上に。


兵士達は、瞬時の遅れが死に繋がると意識し、僅かな命令違反も命を投げ出す事に同義と一層訓練に精励した。



読んで頂きありがとうございます。


御意見御感想を頂けますれば恐悦至極。勝る喜びはございません。

誤字脱字なども、気を付けてはおりますが手が回らぬところがございます。

報告いただければ嬉しく思います。

今後もよろしくお願いいたします。

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