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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第1章
44/85

聞く怖さ

少し間が開きました。

もう少し早く頑張ろうと思います。

早く暗い展開を抜けたい・・・

爺さんは、本職の教授さながらに、白板に黒炭で文字を書いていく。


五芒星のそれぞれの頂点に時計回りに名前を書き連ねていく。


碧神・ナーガス


白神・ズヴォルニク


黒神・オルリアエウェク


黄神・ノリエンキュエス


紅神・アルケオス


「主神である碧神ナーガスについては、今は置いておこうかの。白神ズヴォルニクは男神で、配偶神は紅神アルケオス。黒神オルリアエウェクは、男神でその配偶神は黄神ノリエンキュエス。さて、ここまで考えて不思議に思った事は無いかの?」


真実、教育者であるのが楽しいのだろう。その問いかけは、正しく生徒を導く教導に心血を注ぐ教師の姿だ。


しかし、以前から当たり前のように知っている事に、今更疑問をはさむのは難しい事だ。全員の首は傾げられたままだ。唯一シュトラウス将軍だけは、そうかと手を打っている。


「ヴェルギエールとあるとは気付いたようじゃな。さて、年長を立ててヴェルギエールに聞いてみるとするかの」


「主神たるナーガスのみ、配偶神が居りませんな」


教師は、教え子の答えに満足したようだ。


「そうじゃの、中々気にもならんことじゃが、ナーガスのみが個として存在しておる。これは顕現などの際にも言えることじゃの、ナーガス降臨のみ単独で行われておる。他の神々は、常に配偶神と共に顕現されるからの」


「神教の授業か、この世界ではあまり行われていないと聞いたが」


「うむ、殆ど行われておらん。いわば、答えの書いてある推理物語みたいな物といえばよいかの。聞けば分かる事を一々研究はせんて」


「殆どと言う事は、している者もいるということか」


「そうじゃの。さて、レグリアス期の末期と言われておるから、今からざっと1300年から1400年前、ナーガスの神殿に務めておった神官は」


そこで、フレッドの口が入る。


「ちょっと待ってください。ナーガスの神殿とはなんですか?教会ではなくて神殿?初めて聞きますが」


「ふむ、そうじゃの。では一から説明するとしよう」


そこからは、延々爺さんの1人語りが始まった。フレッドは平気なようだが、バイエルラインなどは、途中で少し舟をこいでいた。長時間の座学には余り耐性が無いようだ。


―そもそも、最初に降臨された神はナーガスじゃった。


これはその後400年ほどは続き、当時の世界にとって神とはナーガスの事じゃった。


その結果として、ナーガスの神殿が出来たわけじゃが、当時は神の声を聞く事もなかったらしいの。


呪式も存在しておらず、神殿は単純な祈りの場として存在して居った様じゃ。


さて、そんな神殿じゃから神官の仕事とは神の研究になる。しかし、神の存在証明はあるわけじゃから、それまでの神教とは一線を画した物になるわけじゃな。


つまり、神との連絡を取る技術。宗教的に言うならば、いかに神に祈りをささげるかと言う所かの。


しかし、ある時世界中の人間に同時に声が聞こえたわけじゃ、神の声がの。それは5柱の神々の声で、わしらに指針を示した。と言うのは有名な話じゃ。


つまり、神教の変化とは、神の存在証明に始まり、神との交流を試み、神の声を聞いた事によって終焉したわけじゃ。


しかし、その神官たちや、一般民の中に、5柱以外の神の声を聞いたと言う者達が現われた。


その神の名は、オルゴルク。


無色の神と呼ばれておる。


彼奴らの言を借りるならば、本来オルゴルクとは世界の創生神で主神の座について然るべき神じゃったそうじゃ。


しかし、本来自身の配偶神であるナーガスに裏切られ、ほかの4柱の神々とも対決し、多勢に無勢でいずこかに封じられ、奉られたと言われておる。


しかし、何時の日か以前に倍する力を持って復活すると伝承にはあるようじゃな。


そして、この神の声を聞いた者達は、自らを真の主神の声を聞いた者、真の神の使徒と称した。


彼奴らは、自らがオルゴルクの庇護下にある者達として、無色の下色としての灰色を自認し、灰色の根を名乗っておる。


まぁ、知っておる者は教団と呼んでおるがの。


そしてその教団は、元々神教を研究して居った神官を中心に発展したわけじゃな。神教が現在行われておらんのにはそんな理由もある。


逆に言えば、教団内ではいまだに神教は行われていると言うわけになるかの。


おかげで、少数居た神教の真っ当な研究者や歴史研究者まで非難を受けた事実もあるんじゃよ。


先ほどの男に関しては、教団と言うのは、外部の者が便宜上名づけた物での、彼らに取っては蔑称に近しい物の様じゃ。


あの男は、教団と言われても否定せず肯定すらしおった。真実、教団の構成員であればそれを受け入れはすまいの。―


「そうであるならば、あの異様な男は直接の敵ではないのでしょうか」


シュトラウス将軍の意見は、一種の希望でもあった。その意見はこの場にいる全員に共通する項目だ。


「であれば良いのぉ」


「確約できないのは仕方が無い。事実として、ああ言った人間は居る、そして、向こうに雇われている以上、今回の情報に関しては間違いなくあちらに渡ると見て間違いない」


皆に重苦しい雰囲気が走る中、爺さんが将軍と目線を一瞬交わした。


ほんの一瞬であったが、何かを制するような目線を、爺さんが送ったと感じた。



城の廊下に、静かに歩く2人の姿があった。すれ違う者に気さくに挨拶をしながらるく2人ではあったが、その動きはどこか固い。


部屋に入ったリヒテンシュタイン宰相とシュトラウス将軍を迎えたのは、宰相の執務用の椅子に腰掛けたアルトだった。


「爺さん、それに将軍も、遅かったな」


「わしらが部屋を出た時には、まだあちらに居らんかったかの?」


「あいつの真似して、壁を這って見た。これで俺も、立派な変態の仲間入りというわけだな。だが、あの状態で完全に気配を消すのは難しい。何か、特殊な能力でもなければ説明がつきにくい、それと」


「なんじゃね?」


リヒテンシュタイン翁は、とぼける様に首を傾げる。


しかし、それに対して反応はせず、あるとは自分の話を続ける。


「最近、俺の事が噂になっている。色々と、話はあるのかと思いきや、きちんと纏まっているんだ、これが」


「ほぉ」


「南方のルクス諸島連合王国の没落貴族の三男に生まれ、修行と見識を深めるため、力を隠して旅をしていた。しかし、フランで世話になった人のために隠していた力を明かし、穢れ物を倒し、メイリンを助け、国王に気に入られ、一気に国の中心へ。中々の成功譚だな。言ってて恥ずかしくなってくる」


「よく出来た筋書きと言っても良いのではないかな?」


1歩前に出てきたのはシュトラウス将軍、そのまま口を開こうとする将軍の言葉を遮り、アルトの語りは続く。


「しかし、少し金を払って事情を調べると他の話が浮かび上がる。いわく、俺はヴェスター宰相が秘密裏に養育していた人間で、国外において力を蓄えていたと。そして、その生まれには王族も関わっていると言う、大げさな話。よくもまぁ、大きな話を広げた物だな」


「不味かったかの?」


リヒテンシュタイン翁は、ため息混じりに聞いてくる。アルトは、軽く首を横に振ると、椅子から立ち上がった。入れ替わりに翁が椅子に座り、将軍がその横に立つ。アルトは、窓際に歩み寄り、外を見回した。


「いや、ありがたい。あのままだと、城中の女官から求婚されそうだったからな」


「ほぉ、よい話ではないか」


アルトは、何かを思い出し一瞬身を震わせると。


「止してくれ、情報収集の為に、女官どものたまり場で話を聞いていたが…あれなら、戦場で千人相手に戦ったほうがましだ」


女性に対しての経験値が少ないアルトは、辛うじて維持していた女性に対する幻想を、少なからず打ち砕かれたようだ。


「それが話の内容かの?」


「いや、オルゴルクが封じられているのが、異世界と言うのを確認したかった」


突然の言葉に固まる2人と、逆光で顔が隠されたアルトは、しばらく動きを止めた。振り向くアルトの顔に笑みが浮かぶ。


「将軍は、演技には向いていない。人がよすぎるからな」


それはどちらかと言えば、自嘲に近い笑みだった。



読んで頂きありがとうございます。

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