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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第1章
43/85

時には昔の話をしようか。

と言うわけで、続きです。

昨日よりは少し長めです。

「ふざけるなぁぁ!」


テーブルに打ち付けられた拳は、打ちつけられた形のままブルブルと震えている。離れて座っている俺にも、歯の軋む音が聞こえてくるほど食い縛った口元からは、続けて憤怒の声が漏れる。


「くそ。くそぉぉぉ」


だんだんと漏れる声は息へと変わり、あたりからは音が消えていく。それぞれがそれぞれに、思いを受け止めようと、拳を握り、上を見上げ、頭を抑える。


シュルツをマウゼルの町の管理に残し、報告に帰還したキュリアら査察部隊の布告は、思っていた内容をはるかに超える悪報だった。


端的に言ってしまえば、ジギスムントの暗躍がはっきりとした形で証明されてしまった。文書に残り、傭兵の中にはジギスムント内からの依頼で行動した者も多く、その証言も多量に取れた。


そして、それらの事実は、噂として市井レベルで広がっている。異様に早く、しかも同時多発に起こった噂だ、如何考えても情報管理されている。それは、ジギスムント側の諜報組織が、多数国内に存在すると言う事実に繋がる。


唯一の救いは、あくまでも噂であるという一点のみだが、それすらも危うい。


「戦争か」


シュトラウス将軍の、呟くような声が静まり返った部屋にはやけに響く。


「すみません将軍。戦争を起こさない為にと、お誘いしたのに」


俺が謝った所で、どうにかなる問題でもないだろうが、謝らずには居られなかった。


「お前が謝る事ではない、どちらにせよ国のために何かをしたかったのは事実だ。良い機会だったという事だ。そのことと今回のこれは居てしまえば無関係だ」


将軍の言う事も、事実かもしれないが。俺にとっては約束を早々に破った事に他ならない。


「いや、わしもまったく想像すらしていなかったことじゃ」


「実はの」と前置いてから爺さんの話が続く。


「ジギスムントは、ここ半年ほど王位継承争いに近しい事が起きておった。王弟の造反に近しい事じゃが、表面化しておらんかった。そんな中では、こちらに出せる手にも限界があろうと見ておったんじゃが」


「ロッソクラスの奴が、少なくとも後1人、名前が出た奴でもう1人。最悪国一つなら落とせない事もないというレベルだな。隙を見て入り、王を落とせばできない事でもない」


さらに言えば、ロッソですら死んでいるとは限らない。


「さらに言えば、ロッソが死んだ確証は無く、ロッソを入れて3人とは限らない。いや、そんな少数とは思えない」


「国家間において、明らかにこちらに非が無いにも拘らず折れたとあらば、各国から舐められる。それは第2第3の戦争を呼ぶことに繋がる可能性が高い。悔しい限りですが、こちらから開戦するしかないでしょう」


フレッドの悲痛な発言は、悲しいが事実だ。多少の遅延や戦闘協定は結べても、開戦自体は避けられない。避ければ、回りに国から寄ってたかって食い物にされる可能性すらある。


「戦をかける。そのこと自体には、もはや抗えまいて、じゃがその落とし所を如何にかせねばならんが…アルトの言っておる連中が気がかりじゃの」


皆が一斉に頷く中、バイエルライン1人が顎に手を当てて考え込んでいた。


「如何した、バイエルライン。何か思うところでもあるのか?」


フレッドの尋ねる声に、バイエルラインは頭をかきながら応える。


「えーとですね。ロッソの仲間、まぁ、どう言ったら良いのかは分かりませんが、あの一党が居る以上単騎で高い戦闘能力を持つ者が要りますよね」


再び皆が頷く。


「そうなった時の事を考えると、少なくとも師匠の様な力を持った人が複数人要るかと思うのですが、如何しましょう。師匠は確定で良いとして、俺ではまだ相手が出来るとは思えません。どなたか心当たり等ありますか?」


皆が一斉に考え込むが、俺だけはその言葉に対して別に思うところがある。


「実は、今回の一戦で俺の刀が壊れた」


その場にいる人間全ての目線が瞬時に集中するというのは、控えめに言っても心臓によろしくない。皆言葉も無い様で、そのままその場の空気はさらに重くなる。


「実は、王都にマリッカさんを呼んだのも、それがあったんだ。ドワーフの鍛冶を紹介してもらおうと思っていた」


マリッカさん自身は、王城へ行くのはどうにも気分がよろしくないという事で、城下の宿に泊まっている。ドワーフが国に関与するのは、本来であれば好ましくないらしい。


「まだ詳しい話は詰めていないが、このままではあいつらと戦っても負ける要素の方が大きい。できれば早急に武器を手に入れたい。しかし、兵の訓練やこの城の守りもある、如何すればよいのか、正直悩んでいる」


バイエルラインもこれについては知っていなかった。同様に驚いたまま、自身の言った事が思ったよりも大事に繋がったと、内心は汗を流しているだろう。しかし、表面上は落ち着いた風を取り繕っている。足は震えているが。


そこで口を開いたのは、シュトラウス将軍だった。


「シュルツが今王都にいないのは少し残念だが、辞令を出して、明日か遅くとも明後日には王都に来る者がいる。アルトほどの腕は無いが…吸収が早く素直だ。そいつとキュリアに兵員指導方を仕込むのに、何日かかると予想する?」


「3日ですね。バイエルラインを残しておけば、もう一日短縮できるかもしれません」


「俺は師匠と一緒に行きます」


「という事なので、3日ですね」


「話は済んだかな?」


突然、俺の背後から声がかかる。全員驚いてそちらに目を向けるが、そこには誰も居ない。


「大体終わった所だ。窓の外にへばり付いているのは、変態か虫と相場が決まっているが、お前も変態か?それとも虫か?」


「変態とは酷いね。これでも気遣いの出来る紳士としてご近所でも評判なのに」


窓を開けてやると、素直に入ってきた。痩せ型長身の茶色をベースにしたつなぎの様な服を着ている。正直、特徴らしい物がない。武器らしい武器を持っている様子も無い。つかみどころの無い人間だ。


「それで変態は何の御用かな。当方においては、無断で壁にへばりつく物は洗い落とすのが常なのだが、モップで良いかな?」


「まぁそう邪険になさらずに。私はただの連絡員ですから」


「変態から通達される事に、耳を傾ける必要を感じないのだが。言いたいのなら、断末魔として叫ぶ事は許可するぞ」


どうにも敵意がまったく感じられない。と言うよりも、人間的な意識が感じられない。こんな世界のではあるが、SFのアンドロイドなどと言うのはこういった感覚なのかもしれない。戦闘などの障害で、感情をなくした人間などは見てきているがそういった様子も無い、まるで紙に描かれているかのように希薄な存在感。イライラする。


「遠慮します」


「では如何する?」


「そうですね、受け取り拒否された時の事はあまり想定していませんので。ところで、何時から私に気が付いておられました?」


さてと、如何答えたものかな。


「私の見解では、私が上から紐で降りてきた辺りではないかと思うのですが」


違うな、こいつはもっと変な方法であそこにいたはずだ。ロープワークなどで降りてきたとは思えない。しかし、先ほどの壁の位置に来るまで気が付けなかったのは事実だ、感覚は広げていたにも拘らず察知できなかった。


「壁の外にいる虫に気を配るほど、俺は暇じゃないぞ」


「虫でもないのですが、まぁ良いですよ。一応伝えておきます。ロッソの友人から、ロッソの敵へ。しばらく忙しいのでお休みするよ、準備をするなら3ヶ月以内でやろうね。との事です」


「だから?」


「連絡員に意図を聞かれても困りますね。連絡員の仕事は連絡のみ、言葉を正確に伝えるだけですよ」


「それはおかしいのぉ」


今まで黙っていた爺さんが口をはさんだ。


「真に情報の伝達を担う者とは、背景やその意図までも酌んで動くものじゃよ。それが出来ぬのなら、単なる手紙で良かろう?」


「痛い所を突きますね」


それでもまだ、男の顔には描いた様な笑顔がへばりついている。仮面ですらない、平面に描かれたような笑顔が。


「おぬしと話しておるのは、なにやら気持ちが悪いわい。年寄りの短い寿命をさらに縮めそうじゃ。本題は早めに済ますとしよう。ロッソらの与する集団、そしておぬしの受けた依頼元は、教団じゃな」


教団?この世界の宗教は教会一つだと聞いたが、新興宗教か、もしくは分派などが存在すると言う事だろうか?しかし、俺だけではなく、フレッドやバイエルライン、そしてキュリア、シュトラウス将軍に至るまで、知っている様子が無い。皆一様に首をかしげている。


「別段、守秘義務は有りませんからね。そのとおりですよ」


「ふむ、研究対象にしたいくらいじゃな。それはそうとして、城を管理している者の立場としては、このような形での報告は気に入らんの。連絡用の箱でも用意しておいてやるでの、そちらを使う様にするのがよいと思うぞ」


「ご親切にどうも」


そう言うと、男は床を蹴って窓へ飛んだ。窓ガラスが割れ飛んで、その破片が床に落ちきった時には、男の姿も完全に消えていた。気配も同時に消えている。


「気味の悪い奴じゃのぉ」


「強い奴が多すぎて嫌になるな」


「ほっ、こちらの陣営の切り札がそれでは頼りないのぉ」


「面目ない」


正直な所、この少ない人数で、国をまわしているだけでもすごいと思うのだが。その主動力がこの爺さんなのだから、むしろ切り札は爺さんではないかと思うが、爺さんに剣を振らせる訳にも行かない。先頭面では、当面俺が出張るしかないのだろう。


「その為にも、早急に武器を手に入れたい。しかし、ああ言った奴がいるのではな」


「少なくとも、さっきの奴は敵ではないと思うの。いや、少なくともロッソ達の一党の直接与している訳ではないと言うのが正しいかの」


「どういう事ですか先生?それに教団と言うのは」


「ふむ、歴史のお勉強をするとしようかの」


爺さんは、少し嬉しそうに話し始めたが。少なくとも窓ガラスを粉砕していったんだから敵ではないかもしれないが、見方でもないだろうに。自身の研究対象になりうる事柄が見つかったのが嬉しいんだろうな。


基本的には学者だな、爺さんは。



感想ご意見等お待ちしています。誤字脱字も大歓迎です。


新作を投稿してみます。意向<続きを書けと

新作を投稿してみました。報告<だから続きを(ry

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