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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第1章
42/85

燃え落ちる

時間が開いた上に短いです。

一応もう一話書けているので、確認作業後に明日くらいにはあげるつもりです。

一つの大きな穴が掘られている。


正確に長方形の形にくりぬかれた地面は、職人的な技で掘られたのであろう。直線的に下に伸び、底も綺麗に均されていた。


しかし、それを今見ることは出来ない。なぜなら、穴の上には材木が組まれ、その上には箱が載っている。二つの黒い棺桶が。


参列しているのは、俺とバイエルライン、メイリンとミリア、そして少女だけだ。穴の両脇には、青いフードをかぶった男が2人長いスコップを持ってたたずんでいる。


王都に着き、メイリンとミリアに預けた少女は、2日間かけて本人の名前は聞き出せた。しかし、何処に居たのか、何処に向かっていたのかそういった全ての事はわからなかった。


両親の名前すら分かっていない。ただ、お父様とお母様と呼んでいただけだった。


故郷も分からず。


両親の名前も分からず。


縁者や係累も全て分からない。


現状天涯孤独の少女は、シーラ。


家も、親も、一斉にたくさんの物を失っている。


棺の下の組まれた材木に火が点けられる。油をしみこませた材木は、一瞬で炎を巻き上げ辺りに熱気を撒き散らす。


「ああああぁぁぁぁぁぁ!」


先頭に立ち花を抱えていたシーラが、声を上げて走り出す。炎を上げる棺桶に、すがり付こうとして走り出す。


「シーラちゃん」


メイリンがとっさに抱き止め、背後から抱きしめるが、シーラは宙を掻き毟るようにして身をよじり走ろうとする。


「シーラちゃん」


何度も、何度も何度もシーラをメイリンが呼ぶが、ただ燃えていく棺桶に目を向けて、涙で頬を濡らしながら身をよじる。メイリンは後ろで涙を流しながら何度も呼びかけ、ミリアが前に回り優しく抱きしめる。


「やりきれない」


横で呟くバイエルラインに、顔を向けずに俺は言う。


「喋るな、情けない顔をするな」


俺の方を、信じられない物を見る様な目で見つめてくるバイエルラインに、俺は視線を向けない。


「あの子の両親を守れなかったのは俺だ。お前もその1人だ、受け止めろ。受け止めて耐えろ、それが俺たちには強要されている」


自分たちの無力さを思ったとき、人は誰しも顔をゆがめる。目には涙を浮かべ、喉から絞り出すように声を上げる。しかし俺たちはそれをしてはならない。


ガラガラと音を立てて、棺桶を支えていた材木が崩れ落ちる。その瞬間、一段と多く舞い上がる火の粉と炎はとてもゆっくりと動いたように見えた。


炎の勢いが弱まり、横にたたずんでいた男達が穴に土をかけ始める頃、シーラは気絶するように眠りに落ちた。


シーラを抱き抱えたメイリンと、その脇を歩くミリアの後を追って城に帰っていく。シーラの両親は、城からも程近い墓地に埋葬された。言ってしまえば、貴族や富豪、ある程度以上の権力を持った者達が入る墓だ。死んだ後に眠る場所に意味などは無いが、シーラの乗っていた馬車は中々の造りだった。本人たちが望むかどうかは分からないが、他に出来ることは無い。


城に戻った後、メイリンとミリアはシーラをベッドに寝かせに行った。2人と別れた俺とバイエルラインは、執務室へと向った。


執務室の中に入り、扉を閉めた瞬間。


俺はバイエルラインの頬を張った。


突然の張り手に、驚いたのだろう。バイエルラインの目は白黒している。


「情けない顔をするなと言ったろう」


「ですが、ですが!」


パンッ


もう一度、俺は頬を張る。高い音が響き、バイエルラインの顔に怒りの色が見える。


俺は、語気も荒く怒鳴りつける。


「馬鹿者が!情けない顔をするなと言ったろうが。今もそうだ、そう易々と感情を顔に浮かべて如何するつもりだ」


俺はそのまま喋り続ける。


「お前のその表情で、お前が負けることがあるかもしれない。お前のその表情で、お前の愛する者が分かった時、お前の敵がそれを利用したら如何する。お前の弱さが、お前の愛する者を傷つける原因になったら如何する」


考えた事もないのだろう。バイエルラインの顔からは、怒りの色が抜けて行き、同時に悲しみの色が映る。


「そんな事が…そんな事が起こりうるのですか」


俺はゆっくりと首を横に振る。


「分からない。起こらないかもしれない。しかし、愛する者が居るのなら、只管慎重に事を運べ、あらゆる被害を想定しろ。全ての状況に対応できるように、考え理解し行動しろ」


「怒りも、悲しみも、恐怖も、それらの全てを逆に利用してまで戦え。お前は戦士になりたいのではないのか、誰かを守れる者になりたいのではないのか」


首を大きく縦に振り、俺の目を見据えて、また首を振る。


「その通りです」


「ならば、痛みを感じたときこそ笑え、へらへらと笑い軽口を叩き戦え。敵に恐怖し、その力を忘れずに。怒りを胸に抱え、悲しみを背負って。それでもなお笑え、それらの圧迫を跳ね返せ。そしてそれらの感情すらも味方につけろ」


俺はバイエルラインの頬を殴る。今度のは、軽い張り手ではない。体重を乗せ、痛める様に殴った拳だ。バイエルラインは、体ごと飛び床に倒れ付す。口が切れ、端から血を流している。


肩を震わせ、ゆっくりと起き上がると、口元の血を拭いながら言った。


「これは、中々痛い授業ですね」


口の端はわずかに上がり、笑みを作ろうとしているのはわかる。しかし、如何見ても無理が出ている。


「お前も、俺も不器用だな」


「師匠には負けます」


「そうだな」


つまらない意地だが、それでもそれしか張れない時ならそうするべきなのだろう。俺は、少なくともそう教わってきた。


「俺たちが、誰かに守られるのならば、こんな事はしなくても良いのかもしれない。だが、俺は選んだ。守る者の剣であり、盾として生きる事を選択した。お前は違うのか?」


「無論です!」


顔の決意はみなぎるが、今の俺たちには重く、そして苦しい言葉だ。実際には、無理かもしれないと思いつつも虚勢を張る事に心血を注ぐ。


「ならば一振りの剣として、一枚の盾として在る様に、そうしなくてはならない。剣は弱みを見せない、ただ武器として在る。盾はその頑強さを示さねばならない。俺たち自身がそうならなくてはならない」


小心者の決意を俺達は固めた。自分のままでは、思いを成せそうに無いからこそ、道具としての役割を果たす決意を。同時に、それ以上に成長するための行動を。


しかし、その後俺たちの聞いた報告は、その決意を根底から否定する事実だった。




御意見御感想お待ちしています。

暗い展開が続きます・・・が、さらに続きます。


おかしいなぁー私はハッピーエンド重視なのに・・・何処で間違ったかなー?

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