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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第1章
36/85

マウゼル領の戦い(前編)

一応バトル回前編。

本番は後編。

「やたらと、杜撰ですね。こんなに簡単に内に入れても良いのでしょうか」


バイエルラインの心配はもっともだ。ギルドで昼に登録した所、そのまま邸内にいる、上役に挨拶して来いといわれたわけだが。中に入る時になんら確認もせず、こうして大荷物を持ったまま、武器も携帯したままで邸内に入っている。


中に入り、場所の確認をしてから、道具を持って侵入するはずだったが、何事も無く中に入れてしまった。


「嬉しい誤算とみるべきか。はたまた、その上役とやらの自信の表れか」


「どっちだろうな」と笑いながら、廊下を歩いていく。歩哨らしき者もいない。気配を確認したが、邸内にいる人間が異様に少ない、使用人などを除けば、50もいない様子だ。


「聞いたとおり、いや聞いた以上だな。しかし、好機だとでも思っておこう」


人数削減なのかもしれないが、通路に矢印で進路が記されているのは、気が抜ける。恐らく、この先にいる3つの気配のうち1人が上役なのだろう。マウゼルがそこにいる気配なら話は早いのだが、ロッソは何処にいるのだろう。


「まぁ、構わんか。相手によっては、お前に任せるから、そのつもりでいろよ。これも修行だ」


自分に振られるとは思っていなかったのか、バイエルラインが驚いている。


「えっと?自分はマウゼルの確保では?」


「相手が、お前でも勝てそうな奴ならお前に任せる。仮に任せても、危なくなったら俺が始末してやる。実践での経験は、何物にも変えがたい訓練だ」


「まぁ、がんばれ」と肩を叩くが。「はぁ」となにやら腑に落ちていない様子だ。


「何だ?不服か」


「いえ、ですが師匠の戦いが見れるかと思っていたので」


「ロッソが出たなら見れるんじゃないか?それにこれから幾らでも機会はあるさ。その為にもお前が、早く付いて来れるようにならないとな」


「はい!師匠」


「機嫌を直したところで、そろそろだ」


角を曲がると、廊下の中ほどに、扉とそれを護るように、鎧を着た兵士が一人立っている。たった一人か、分かってはいたが、少ないな。ここの司令官は、よほど自信があるのか、もしくはただの馬鹿か。


「今日入った、挨拶に来たんだが此処で良いのか」


そう言って、兵に話しかける。そいつは、無言で脇に避け、扉を指し示す。


「どうも、ご丁寧に」


軽く皮肉を言って、中に入る。恐らく立て篭もるためなのだろう、扉は厚くて重い。中に、鉄板等が入っている事は無さそうだが、十分な強度だろう。王城のときも思ったが、この世界では、基本的に重要な扉は頑丈で中から閂がかかるのだろうか?城門等ならともかく、中に入られた後に守りを固めても意味は無いと思うが。


「さっき登録しました。私はラギこっちはベイルです」


俺もバイエルラインも、肩にかけた荷物を下ろしながら、正面に座る、悪趣味な赤と金を多用した服を着込んだ痩身の男がマウゼルだろうか?そして恐らく、斜め向かいの席についている男が司令官だろう。


マウゼルらしき男が、言葉を発しようとした瞬間。マウゼルの顔を知っているバイエルラインから、合図があった。やはり、この男がマウゼルか。


そう思うや否や、棒手裏剣を投げ打つ。


「私がぁ!ぐあぁぁ」


悲鳴を上げるマウゼルを気にもせず、司令官らしき男が、こちらに突っ込んでくる。確かに中々だが、十分バイエルラインでも勝てるだろう。俺は速やかに、マウゼルの確保に向う。


バイエルラインのグレイブと、男の持つ長剣が火花を散らす。本来室内戦には向かない長柄物だが、此処は十分な天井の高さと広さがある、特に問題にはなっていない。


「どういうつもりだ」


武器を交差させながら、男が息も荒く尋ねる。どうやら単純な力では、バイエルラインに敵わない様だ、体重をかけて押されると苦しそうに顔をしかめている。


「当然、反乱を防ぎに来ただけだ。本来なら師匠一人でも、十分な所だが、修行代わりに俺も来たんだ。だが、お前では修行になりそうに無いな」


中途半端な挑発ではあるが、男には効果十分だった様だ。さらに鼻息を荒くし顔を赤くしている。


「何だと貴様!この、ロッソ様の1の下僕マルティンをなめるなぁ」


「お前を下僕にして喜んでいるのなら、ロッソとやらも高が知れているな。師匠には到底敵わん、今の内に鳴いて知らせてやれ、さっさとお逃げ下さいとなぁ」


中々良いぞ、バイエルライン。少なくとも主導権は、握っている。これならば、手を貸す必要は無いな。そう思いながら、マウゼルを縛り上げていく。なんとも情けない事に、肩口に刺さった棒手裏剣の痛みで、あっさりと気絶している。


縛ったマウゼルを引きずり、扉の前まで行く。厚い扉と壁に遮られ、何があったのか全然分かっていない兵は、そのままそこに立っていた。あっさりと、一発で気絶した男を部屋に連れ込み、同様に縛り上げる。多少腕が立ちそうだったので、両鎖骨も折って置く事にした、これで縄からは抜けられない。


「あっけなかったな」


バイエルラインのほうを見ると、終始圧倒している。昨日教えた、円の動きと脱力も、そこそこ形になっているようだ。やはり吸収は早いな、これは結構早く物になりそうだ。


「バイエルライン、余裕はあるから、ゆっくり戦っても良いぞ」


そう言いながら、周囲の気配を慎重に探る。特に変化はない、おかしいなロッソは何処にいる?


マルティンは、突きを主体とした攻撃を仕掛けてくる。どうやら、足技も含めたスタイルらしく、足技が来る度に、バイエルラインは少しバランスを崩す。それを好機と見たマルティンは、突きを囮に、足技でバイエルラインの手を蹴ってくる。


しかし、それは迂闊だったとしか言えない。とっさにグレイブから手を放したバイエルラインは、腰の剣を抜き打つ。


マルティンの膝から下は千切れ飛び、部屋に絶叫が響く。それでもなお、果敢に攻撃を仕掛けてくるマルティンの腕を、未だに空中に留まっていたグレイブを掴み直したバイエルラインが叩く。


腕はあらぬ方向に曲がり、更なる絶叫が部屋に響く。弾き飛ばされた長剣は、不幸にも寝かされていたマウゼルの尻に当る。刺さりはしなかったが、少し切れたようで、マウゼルが目を覚ます。


部屋に響く絶叫と、身動きの取れない自分に、混乱したのだろう。


「なぁ、なぁ、なぁ、な」


美味く喋れずに、只管なにかを言おうとしては、詰まっている。どうせ寝てもらうが、今後の尋問などのために、恐怖を叩き込んでおこう。


「こんにちは、マウゼル卿。お元気かな?」


「だ、だ、だれ」


「誰か?そうお尋ねならば、お答えせねばなるまい。フレデリック新王陛下の命で、貴方を捕まえに来た者だ。一々名前までは言う必要があるのかな?」


「な、な、な」


「何故か?そう聞かれているならば、応えは簡単だ」


俺は、やや薄くなっているマウゼルの金髪を鷲掴み、顔を寄せてこう言った。


「直ぐ死ぬ貴方が、今更なにかを知る必要はあるまい」


目線に殺気を乗せると、マウゼルは泡を吹いて気絶した。舌をかんで死なない様に、猿轡代わりに、服を切って噛ませて置く。未だにマルティンの絶叫は続いているが、既に背景効果としての役割も果たした。


「バイエルライン」


「はい、師匠」


「お前が、治癒呪式を使えば、そいつは助かりそうか?」


生かして置いてもあまり意味は無いかもしれないが、何か話が聞ける可能性はあるかもしれない。だが、可能性としては低そうだな。


「無理でしょう。俺の呪式では、治癒は出来ません」


「そうか」


それならば仕方が無いな。いっそ、一息に殺してやるか?


いや、そこまでしてやる義理も無いな。


「行くぞ、マウゼルはお前が担げ。気が付いたら、殴って気絶させて構わん。だが、殺すなよ」


俺は自分の持ってきた背嚢を担ぎ、バイエルラインがマウゼルを担ぐ。結局用意した紐は、あまり使わなかった。邪魔になるので、置いていこう。


「このまま、走って抜けるぞ。中庭に出たところで、発光呪式を行え、順番は分かっているな」


「はい、赤赤紫ですね」


「そうだ」


確認を済ませると、未だに床で呻く男に目を向ける。


「どうする?」


「俺の命は、とうにロッソ様に渡している。お前達に如何こうする事はできない。させない。それに」


「それに?」


「ロッソ様が、お前達を始末してくれる。あの方らしく・・っく。美し、美しく、かっ華麗にお前達を、殺、して下さるだろう」


失血の所為だろう。青い顔を通り越して土気色になりながら、吐く言葉は、まさに呪いのそれだ。


「おま、え、たちが、こ、ろされる、の、をたのし、みに、し」


死んだか。


最後まで毒を吐くその精神にだけは、敬意を払っても良いかもしれない。しかし、お前はあくまでも敵だった。俺が戦えば、殺さずに捕らえる事も可能だったが、それを望みもしまい。


たった一人が死んだことに、不思議なほどの感慨を覚える。これは弱くなったのか、それともこれが正常なのか。どちらにせよ、俺はこれからも殺すし、壊す。それ自体は変わる事はない。


「行くぞバイエルライン」


「はい」


ふと、思いついて振り返る。


「中々の奴だった。だが、わざと隙を見せて攻撃を誘うのは、失敗した時の被害が大きい。今後は、そこまで考えて戦え。しかし、あいつを倒せたのは上等だ。よくやった」


「はい、師匠」


褒められた事が嬉しいのだろう、顔を綻ばせている。人を殺す事による、精神的な問題は無いようだ。動きからして、以前に経験もあったようだし、現代地球の若造とは違うのだろう。少し心配していたが、良かったとも言える。


しかし、人を殺す事に慣れすぎてもいけない。少なくとも自分の弟子を、そんな事にはしたくないとは思う。なるべく、フォローに回れるように考えていこう。


「行くぞ、駆け抜ける」


扉を開けると、一気に走り出す。中庭まで気配が少ないのは確認済み、しかし皆無ではない。


室内を駆ける俺たちに、疑問の声を上げるまもなく、俺の勁の一撃が男達を昏倒させていく。女性に関しては、胸に勁を通すのは躊躇われた為、全て首筋に手刀を叩き込む。


戦場に生きる男が死んでも、それは自業自得と言う感じがするが。流石に女性に関してはそこまで割り切れない。これも女性差別なのだろうが、感覚的な物なので、いかんともしがたい。


中庭に抜けた。


バイエルラインが速やかに、発光呪式を展開、空に三条の光が走る。


町の外に隠れている部隊がこちらに到着するまで、およそ半刻。それまで、マウゼルを抱えて、逃げ回るか隠れるか。そう思ってはいたが、その余裕はなくなったようだ。


「バイエルライン。悪いが戦いをお前に見せるわけにはいかなくなった」


さっきまで、ほぼ完全に隠されていた気配が膨らむ。気配を消すならともかく、一般人と変わらない域まで抑えて偽装するとは。流石に背中に汗が浮かぶ。此処まで大きな存在感になれば、無論バイエルラインにも分かっている。毛穴が開くような緊張の中に居ることだろう。


「ロッソか」


中庭に面した二階の窓の影に声を掛ける。


「他に誰が居るって言うんだい?」


「遅いお出ましだな」


「美容のための、お昼寝の最中だったのさ」


「それは悪かった、そのまま寝てくれても良いぞ」


冗談交じりに返すが、既に気配だけでバイエルラインの顔色は真っ青だ。此処までの殺気を放ちながら、引くはずがない。


「魅力的なお話だけど…遠慮するよ。僕の奴隷が減っちゃったからね。代わりに君を奴隷にしてあげるよ」


「遠慮しておく」


「だめだよ、決めるのは僕さ」


「それでは、お相手しよう」


霧のように立ち込めていた殺気が、さらに液体のように濃くなった。



読んで下さってありがとうございます。


御意見御感想、さらには誤字脱字の報告など、なんでもお待ちしています。

ぜひぜひ、お願いします。

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