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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第1章
30/85

今時10代で結婚する人は稀少って言うかワケありだよね。違うの?後ついでに花嫁修業や花婿修行はしておいた方がいいよね。違うの?

「走って来い」


気絶から目覚めたバイエルラインに、最初の修行課題を与えた。


「はい、何処まででしょうか」


「フランだ」


「……」


無言ではあるが、嫌そうな雰囲気が、返ってくる

「聞こえなかったのか。フランだ。フランまで走って行って帰って来い」


「フランまでは、片道57里ほどあるのですが」


「ああ、呪式は使わず、3日で戻って来い」


「無理ですよ、殺す気ですか」


「簡単だろ、1刻5里走れば大体23刻、二日で無いだけ感謝しろ」


なんて優しいんだ、俺は。


「そんなキツイ話は聞いたことがありませんが」


「俺は経験してる。大丈夫だ、死ななかった」


「ですが」


まだ、何か言うことがあるのか…しょうがない、説明してやるか。


俺は、書き物をいったん止めると、机に、新しい紙を一枚置いた。


「一寸説明してやる、聞け」


「ハイ、師匠」


居住いを正すバイエルライン、こう言う所はまじめだな。


「いいか、一般的な、兵士。軍に入って、基礎的な訓練を受けた、一般兵、それの力を、仮に10とするぞ。無意味な数字だが、あくまでも、例えとして聞け」


俺は、紙に人型を書き、10と入れる。


「この10の奴に、圧倒的な差をつけて勝つ為には、どのくらいの力がいると思う?」


「圧倒的となれば、30くらいですか?」


俺は、静かに首を振る。


「12から13って所だな。それだけの差が有れば、圧勝できる」


不思議そうだな、まぁ、俺も以前は、そう思っていたからな、そうだろう。


「納得行かない、と言う顔をしているな。まぁ、分からなくも無い。そうだな、仮に、一騎当千といえる人間がいるとしよう。要するに、1人で、千人の10の力を持った相手を倒せる人間だ」


 バイエルラインが頷く。


 「では、その人間には、1000の力が必要か?答えは否だ」


 「ですが、たとえば、100の力を持つ相手を、倒すには、100を超える力が要りますよね」


 俺は、ゆっくり頷く。確かに、だが。


 「それが盲点だ。強者を倒すのと、数をこなすのでは、まったく別の力が要る。それらは、併用させることも、両立させることも出来るが、考え方としては、真逆だ」


ここで、俺はいったん言葉を切る。そして、紙に、100と入れた人型を書く。


「さっきと同じ質問だが、この100と書いた人間を倒すには、いくらの力が要る?」


「先ほどと同じ比率なら、120から130ですか?」


「違うな、ほんの少しでも上回れば良い。だから、答えは101から102と言う所だ」


酷く単純だからこそ、中々気付かない。気付いたとしても、実際に、それを、現実に適用するのは難しい。だが、この考え方を持っているかどうかで、大きく効果は変化する。


「強者を1人倒すなら、一瞬で、全力を出して、相手を上回れば良い。それこそ、それは一瞬で良い。しかし、数をこなす為には、少ない力を、断続的に出し続け、その力で、効果を発揮するようにしなくてはならない。言ってしまえば、力の配分と、時間効率の差だな。これは、とても難しい。だからこそ、単騎で、魔王を倒す勇者はいても、単騎で、敵陣を切り開く英雄は中々いない。ある種のコツが必要になる、そして」


「そして?」


「此処まで言っても、まだ分からんのか。つまり、瞬間的な能力よりも、断続的な能力を上げさせたいから、基礎体力以上に、長時間の効率的な運動と、集中力の維持を、覚えろと言っているんだ。だから、効率的な運動のために、走って来い。コツをつかめ。それをつかめば、今のお前でも、十分に英雄になれる。今のお前の力でも、コツをつかめば、一般兵の100人くらいは片付けられる」


「はっ、はい」


「この国で生まれ、育ち、家柄を持つ。そんな、お前の方が、英雄に、旗頭に向いている。さっさと、成長しろ」


「旗頭ですか」


なんだ?不満なのか?そういえば、こいつは、どちらかと言えば、強者に打ち勝つ勇者の方が好みのようだな。しかし、今必要なのは英雄だ。


「良いから行って来い、命令だ。それから、アリシアさんに書状を届けてきてくれ。ついでに、挨拶もして来い。メイちゃんとも友達なんだから、知り合っておいても損は無いだろう」


「はい、喜んで行ってまいります」


急に態度が変わったな?何か心境が変化する様な事でも言ったかな?


確か、出した名前は、アリシアさんとメイちゃん。他には、何も言って無いが……


あぁ、メイちゃんが好きなのか、こいつ。まぁ、アリシアさん狙いも、考えられなくは無いが、まぁ無いだろう。


「バイエルライン、お前、メイちゃんが好きなのか?」


顔が赤くなった、さらには、目が物凄い勢いで、上下に動いている。分かり易いな、こいつ。感情を、表情に出さない訓練や、動揺を隠す訓練も必要だな。嘘もつけない様では、道のりは遠そうだが。


「なっあ、な、なぁ、な、何を言っているんでしゅか。ししゅう」


噛むのか。緊張から来る、どもりもあるな。フェイント等も、教えるつもりだったが、難しいかな。


「まぁ、それは良いか。個人的に頑張れ。フランの酒場のウィルキンズさんが、昔から良く知ってるみたいだから、話でも聞いて来たらどうだ?」


「なぁ、何を聞いて、くっ、来るんでしゅか」


「だから、メイちゃんの好みとか。好きな物とか。俺はそう言う事良く分からんからな。俺に相談しても無駄だぞ。一応言っておく」


なにやら、えらく逡巡している、言いたいことでもあるのか?


「何だ、何か言いたいことでもあるのか?あるなら早めに聞いておけよ。後一刻も経たない内に出立してもらうぞ」


「その、師匠は、何でメイリンを、愛称で呼ぶんですか」


何でそんなことを聞くんだ?


「特に理由は無いな、年下の娘を呼び捨てるのも、何と無くおかしかったからだ。後は、アリシアさんには世話になったし、彼女の娘さんだからな。何と無くの妥協点が、そこだっただけだな」


「出来れば、気になるので止めていただけないかと」


「別にかまわんが、それなら何と呼べば良い?メイか?」


「あの、メイリンさんとかではどうでしょう?」


「面倒だな、まぁ良い。また考えておこう。それより、用意をして来い。今書状書いてるから、その間にな。帰ったら稽古をつけてやるから」


「はい」


なんだか、複雑そうな顔をして、部屋を出て行った。問題でもあるのか?




軽い気持ちで送り出したバイエルラインだが、思ったよりも早く、2日後の深夜には帰ってきた。仕事を果たし、確かに返書も持ってきたバイエルラインだったが。


それ以上に、深刻な報も持って帰っていた。



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