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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第1章
28/85

敵と敵 内の敵

「アルト。その、その、なぜ貴方ばかりが、非難の矢面に立つような事をしようとするのですか?私も、私達もそれぞれが出来るはずです。貴方ばかりが、つらい事をしなくてはならないなんて事は無い。無いはずです」


城に戻る途中、馬車の中でフレッドは声を荒げた。俺は、言うべきかと爺さんに問いかける。だが、爺さんは目線を返してきただけで、何も言おうとしない。俺はため息をついて、馬車を止めさせた。御者を残し、脇の小路に爺さんと連れ立って歩き出す。フレッドは後をゆっくりと着いてきた。


静かな小路は、左右に畑が続き、農夫が子供達と畑を耕している。その妻だろうか、女性が大きく手を振っている。穏やかな田園の風景、遠くから見れば幸せと平穏を絵に描いた様な世界だ。だが、そこに真実が見えてこない時もある。


「フレッド。平和な景色だな。どう思う?」


「この景色を護らなければと思います」


確かに、平和な良い景色だ。フレッドにとっては、まさに決意を新たに、とでも言う所だろう。だが、言わなくてはならない。


「誰かが、憎まれ役をかってでなければ、彼らに戦禍が訪れる事もある。単純に餓え、下手をすればあの親と子が合い争うことにもなりかねない。なぜだと思う?なぜそんな事が起きると思う?」


「貴族ですか?」


顔には苦渋のしわが浮かぶ。フレッドは賢い、理解はできるだろう。だが、同時に自分の非力さにも気付くのだろう。俺も、いや誰であれ、どうしようもない出来事を直視した時、そこで感じるのは無力感だ。


「自分でも信じていない事を、人に投げかけても、騙せはしないぞ。いや、人は誤魔化せるかもしれない、騙せる時もある。だが、自分は騙せない」


言葉が詰まり、顔を赤くして俯く。周りの木々を揺らす風が、別世界のように俺たちを隔てている。僅かな距離にいる農夫達と、自分たちがいかに違う場所にいるのかと。


「貴族が立ち上がるとき、その多くは利益で動く。だが、国民が動く時は何だ?彼らは何で動く、何を望む」


「愛国心」


横で、泰然自若と佇む爺さんが怨めしい。


「だから、生贄が必要なのさ。貴族にも、糞みたいな貴族にもその矛先を向けてもらう。だが、どんな場合でも、成功の中にあっても怨みやねたみはどこかに向く。その時の矛先が必要になる。俺がそれになれば、都合が良い」


「それは、終局的に貴方を敵にしてしまう事になりませんか」


そこで、初めて爺さんが口を開く。


「国家に敵も見方も無いのじゃよ。敵をも利用し、同胞に足を引っ張られ、敵の敵が敵であったり、その敵はやはり敵であったりする。ならば、その場で有用かどうか、それしか判断の基準が無いのじゃ。終局などと言うものもない。足を踏み固めて、道を歩き出した時から、投了も終点も無いのじゃよ。じゃから、死ぬまで頑張ると言う事だけじゃ」


「子供の目標みたいじゃがのぉ」と爺さんが笑う。


「ガキだろうが餓鬼だろうが、変わらない世界だから、構わんさ」


最近この爺さんと笑いあう事が多い。周囲に年寄りが多過ぎるのは気になるが、自分としては嫌いではない。


「フレッド。俺は覚悟している。爺さんも。そして今後、お前に従う人間や、お前が護るべき人間は増えていく。だからお前も覚悟しろ、最悪の場合を考える癖を付けろ。時には切り捨てる覚悟がいる。それは必要になる」


情けない話であるのは、間違いない。それでも、それがつまらない現実なのだろう。


「私は認めない。理想を持ってそれを、その道を行けないのなら、王である価値などありません。だから、切り捨てる選択は一番最後です。それを選ばないための努力を最優先します」


言い切れるのが幸せか、それとも不幸なのか。


理想を追いきれなかった時、どうなるのか。何に絶望するのか。


自身にか?


他人にか?


それとも世界にか?


だが、その道を歩むと言うのなら、何も言わずに居よう。


いつか、言葉を変えなければならない時が来るかも知れない。曲げるべき時も来るだろう。だが、折れないように見守っていこう。


問題は、俺が先に折れてしまいはしないか、と言うのが心配だが。まぁ、そこは自分で頑張ろう。


「ならばそうしろ」


俺は、先ほどの農夫達を指差した。仕事が一段楽したのだろう、皆でお茶を飲んでいる農夫の家族達は、幸せそうだ。


「彼らを護り、災禍から護れ。割らず、危険を感じさせず、また不安を抱かせることなく、あの平穏な光景を護りぬけ」


いつか、あの光景を羨望をむけることなく、穏やかに見れる日が来るのだろうか。嫉妬とも違うどこか後ろ暗い気持ちと、黒い衝動を感じなく来る日が来るのだろうか。その時は、俺は幸福を感じているのだろうか。その日が来て欲しい、その日々を酷く待ち遠しい。


「アルト、大層な者を護る事にしたのぉ。わしもお前さんも大変じゃの」


爺さんの笑いは快活だ、俺はどこか笑いきれない感情を隠して笑みを作る。


「応」


爺さんには、ばれているだろうが、フレッドの気持ちを大事にしたい。情けない話だ、本当に情けない。俺はまだ振り切ってはいないのだ。過去の俺は、未だに足元の陰から手を伸ばす。何時までも伸ばして来る。


「爺さん、楽しく生きよう。望みはその位だ」


「そうじゃな、嫁でも見つけるか。その歳なら結婚も考えんと。趣味はどんな娘じゃね?教え子には美人がいっぱいおるぞぃ」                                                                                                                                                                                                                                                                                      


「爺さん、それはよけいだよ」


「後で後悔するぞぃ」


空気が途端に軽くなったが、同時にしまりも無くなった。


よく分からないまま馬車に戻り、城へと帰る。



城に戻ると、城の中がざわついている。ちなみに、俺や爺さんは面倒な事も多いので、城へは裏口を利用して出入りする事が多い。ところがフレッドは王なので、面倒であっても正門から、皆に傅かれながら入城する。フレッドは、後々廃止していくつもりのようだが、現状はそんな細々した所まで手が回らないので放置している。


「おお、新王陛下。この度はお目にかかれましたる事、まさしく恐悦。申し訳なくもご挨拶が遅れてしまいました。どうかお許し下さいますよう」


深々と礼をする男がいた。


年の頃は、30代も後半というところか。細身の体つき、どちらかと言えば長めの髪はオカッパとでも言うのだろうか、一直線に整えられており、無駄に光っている。美男子といえばそうなのかも知れないが、華美な衣装と芝居のような動きが、軽薄さを。そして、やたらと動く目とまくし立てるような早口が、小心さを表している様に見える。


前の方で、フレッドにしきりに話し掛ける男は放置して、爺さんと話をしていた。フレッドから目線がきてはいたが、そちらも放置しておいた。


「誰だ?あれ」


「先だって話に出てきたリューベック家の倅、いや、今の当主じゃよ」


「例の恋愛争奪で負けて嫌がらせしてた所か。爺さんのご意見は?」


とりあえず、問題の多そうな家なので、一応聞いておいた。


「まぁ、彼奴はただのお飾りじゃからして、たいした問題にはならんの。問題は先代かの。言うておったように、貴族派のまとめ役じゃ」


「当主じゃないのにか?」


「うむ、あの王子のお妃様があそこの家の出での。まぁ、それをする代わりに、野心の多かった先代を引退させて、まだ子供の彼奴を当主にしたのじゃが」


「裏からでも、十分な影響力を残したと。そして奴は傀儡という所か。確かに、幾らでも代りは居そうだな」


「まぁ、そう言う事じゃの。黒幕をやっておるエルンハルト・リューベックの誤算といえば、その妃になったエルエネイア様の事ぐらいだったんじゃろう」


フレッドとミリアの母親にあたる人か、見てはいない訳だが、もう亡くなっているのか?


「誤算とは?」


「うむ、子供を生んで、性格が逆転と言っても良いほどに変わっての。ただ只管子煩悩な母親になった。おかげで、お二人も良い子に育ったわい。政治方にも興味を完全になくされての、むしろ嫌いになっておったようじゃて」


「そうか、良い母親だな。ぜひお会いしたかった」


「そうじゃの、良いお方じゃった。多少過保護であったことは否めんがの」


二人が、真面目で能力の面でも問題無く充実しているのに、どこか抜けているのはその辺りが原因かな。まぁ、十分な親の愛が受けれたならそれで十分だろう。


そのまま、30分程も経っただろうか。ようやくその男は去って行った。去り際にまで芝居のように、大きな声で愛国を唱えて行ったが、何処までも嘘くさい。まるで色紙の様な男だ、薄っぺらで、周りだけは派手で、使い道も少ない。


「助け舟くらい出して下さいよ」


フレッドは非難の目を向けるが、どうしようもない。


「無茶を言うなよ」


「無理じゃな」


さらりとあしらう俺と爺さんに、フレッドがため息を吐く。まぁ頑張れ。


とぼとぼと歩くフレッドと、その後ろに続く爺さんに先んじて、部屋の扉を開ける。


「まだまだだな」


扉を開け、声を掛けた瞬間に、上からバイエルラインが飛んできた。扉の上の飾り窓から、廊下を歩く俺たちの位置を確認し、急襲してきたのだ。


短めのグレイブを構え、天井を蹴って加速をつけたバイエルラインは、俺の肩口に切っ先を向けた。俺が、横に動き避けると、床で反転足元を薙いで来る。さらに跳躍してかわす、足元で急停止した切っ先が、股間を目掛けて突き上げられる。


「だが、甘い」


グレイブの柄の根元を踏みつける。動きを止めたバイエルラインが、柄から手を放し後ろに跳躍、同時に俺も同方向へと跳ぶ。抜き打ちに、腰の剣で切ってくるバイエルライン。だが、距離がまだ遠い。こちらも、刀を抜こうと腰に手をかけたその瞬間。


口からふくみ針が飛ぶ。味な事をしてくる、射線上には爺さん達がいる。避けずに刀で打ち落とす。既に手がなくなったのだろう。そのままがむしゃらに、切り込んでくる。


「中々良かった」


が、中々止まりだな。手首を打って剣を落とさせ、顎に当身を入れる。両腕の肩口を打って痺れさせ、足を踏んで動きを止める。


「確かに中々良かった。まだ手はあるか」


「ありません」


悔しそうに、応える。


「そうか、それでは、合格だ」


頚動脈に指を添え気絶させる。最後の言葉は聞こえたようで、満面の笑みで気絶した。


「誰か呼んでやって、いや、俺が運ぼう」


そのまま、寝室まで運んでやる事にした。


フレッドは、何が起こったのかと、未だ呆然と見ていた。



一寸難産。

結構変わりました。どんなもんでしょうか?

次は、もう少し早く行くと思います。


御意見御感想、誤字脱字など何でもお待ちしています。

ぜひぜひ、お願いします。

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