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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第1章
24/85

行く覚悟 見る覚悟

大幅改稿第一弾。

え?24話目にしてやっと?



「目が覚めたのか」


親父、ありがとう。ゆっくりと走ることは無いかもしれない、迷うこともあると思う、それでも何とかやってみるよ。向こうに行った時、ほめて欲しいから。だから、もうチョット見て置いて欲しい。


「んっ」


うかつだった、何かがいる。ドキリとして周囲を見渡す。


すると、ベッドの両サイドに、メイリンとミリアが居る。ため息をついて、身体を起こす。二人は、俺の看病をしてくれていたようだ。額にはもうぬるくなっているが、水にぬらした布が置いてある。


「ありがとう」


二人はよく眠っているようで、目を覚ます気配はない。このまま、寝ていて貰おう。ベッドからすり抜けると、予備として置いてあったであろう、毛布を二人の肩にかける。


「お休み」


部屋を抜け出し、フレッドの気配のあるほうへ歩く。まだ起きている様だ、外はもう既に、月が高く掛かっている。ドアをノックし、部屋へ入る。


「アルトさん、もう起きて大丈夫なんですか」


「ああ、すまなかったな。チョット変な事になった」


「心配しましたよ。体は大丈夫なんですか?」


「ああ、大丈夫だ。すまないな、心配をかけて。そのことに関しては、後で二人が起きてから、説明するつもりだ。それより、そっちは順調なのか?」


フレッドの顔は暗い。


「王位には着けました。元々、あの父が、王位を継ぐことには反発が多かったから。内政に関しては、父に加担した人間は今洗い出しています。むしろ大掃除が出来て良い位と言った所です。ただし」


そう問題は、内政よりも。


「問題は外政。ジギスムントか、幾らなんでも、直ぐに戦争を仕掛けてくる、ということは無いだろう。そもそも俺はどのくらい寝ていた?」


「およそ1日です。いや、今は夜だから1日半になりますか」


寝ていた時間と考えれば長いが、国家の政策が転変する、と言うには短いな。


「それでは、なんら進展はしていないな。急使を送ったぐらいか。お前の読みでは、どうなると読む?戦争か?外交ですむか?外交の場合どの程度の譲歩なら飲む?」


落とし所というものが肝心だ。今回の場合、国としての落ち度は、双方にあるとは言えど、こちらの分が悪い。


「それが問題です。他国の支援は、この場合期待できません。向こうとしては、戦争も辞さないでしょうね。実際に戦になれば、負ける公算のほうが大きいと思います。完全な敗北は無いでしょうが。相当のものを奪われるでしょう。その後は、じりじりと飲み込まれて終わります」


「現状、国外の勢力を呼び込むのは、下の下の策だな。仮に、善意の王がいたとしても、国家として借りを作るのは不味い。そのあたりは、積極的に排除するように動かなくては」


「ええ、そうしなければ」


外から、二人の気配がこちらに近づいてくる。どうやら起きて来た様だ。


「お兄様、アルトさんが、ベッドから消えました」


フレッドが笑って答える。


「大丈夫だ、ここに居られる」


「ああ、アルトさん、体は大丈夫なのですか?どうしてあんな事に」


ちょうど良いのかも知れない。ここで明かしてしまえば、それはそれで良いのかも知れない。俺は選んだのだから、生きると。楽しく幸せに生きると約束したのだから。


「皆に、聞いて欲しいことがある。荒唐無稽な話だ、信じるか信じないかは、君たちに任す。だが、他の者には話さないで欲しい、聞いてもらえるか?」


皆が一様に頷く。彼らなら、俺を狂人とは見ないだろう。


「まず、どう言ったら良いのか……そう、俺は、この世界の人間ではない。他の世界、この世界ではない所、そこから来た人間だ」


皆が、それぞれ息を呑む。


「フレッド、ミリア、俺がお前達に貸した銃、あんなものがここで作れると思うか?この時計はどうだ?俺の背嚢の中には、もっといろいろな物がある。それらは、この世界では作れないものだ。証拠というなら、それが証拠だな」


二人は顔を見合わせて、メイリンは唖然としている。


「俺は、ずっと戦っていた。以前の世界では、全てが、ほんの一握りの人間、親父と、両親と仲間以外は、全て俺に敵対していた。俺は、攻撃して、攻撃して、戦いを続けた。覚えきれないほど戦っていた」


顔には、自嘲の念が浮かび、眉がひそめられていた。自分でも判る、人に話すのも、俺にとって大きな覚悟が必要なのだ。


「きっかけは、俺の当時住んでいた国だった。記憶も定かではないが、当時、まだ幼い俺を連れて、両親はその国に移り住んでいた。そこで革命が起こり、父も母も囚われて、国から出れなくなった。そして、革命後その国を牛耳った一族の男。分かりやすく言うと王弟とでも言うのかな、その男に母が汚された。俺が、まだ3歳になるかならずかの頃だ」


話しているだけで、胃が煮える。思い出して、腹が煮え返る。


「3年経たず母は死に、父は殺された。俺は、死に目に会えなかったな。当時、俺は既に、軍事訓練、暗殺者養成、兵士育成、どう言っても構わないが、要は幼児虐待だな。そんな生活をしていた、今思っても死ななかったのが不思議だな、そんな神を怨む様な日々だったよ」


そうだ、俺は神なんか信じていない。だが、いないなら逆に驚くほどだ、こんなめぐり合わせは、悪ふざけとしか思えない。ため息をついて、周りを見る。そうだろう、声も出ない。そんな話だ。


「そして、そう、両親が死んで、俺は復讐を決意した。あの外道、あの下衆を殺すためなら、何でもすると誓った。待つ時間は長かったよ、嗚呼、長かった、凡そ3年、それだけ待った。俺が、9歳の頃だ、反政府勢力と言えば良いのか革命軍と言えばよいのか。つまるところは、その下衆に取っての対抗勢力だ、それが、俺達の居た施設を攻撃した。機会だと思ったよ、だから行動した」


最初の復讐を、果たしたときだ。達成感、あったのだろうか。感情は、憎しみに塗りつぶされて、覚えていない。ただ、憎しみがあった、そう記憶しているだけだ。


「これも、成功した。まぁ、今俺が生きているんだから、当然だな。俺は、下衆を殺した、惨たらしく、陰惨に、徹底的に殺した。そう、一応の復讐はなされた、直接的に俺の家族を殺したのはそいつだった。だが、それだけじゃあない、そう、下衆は他にも多く居た」


あの一族は、腐っていた。殺しても、殺しても、雲霞の如く下衆が沸き出た。


「俺は、その対抗勢力に協力した。馬鹿馬鹿しい話だ、まだ9歳、子供のとる行動じゃあない。だが、一つだけ良い事があった、たった一つ、良い出会いがあった。俺の師匠で、俺の親父だ」


血は繋がってはいないが、親父は親父だ。


「親父は一流の傭兵で、俺に戦い方を叩き込んでくれた。一々語ることでもないが、よく殺した、それによく壊した。そんな日々でも、俺が生きていられたのは、師匠が、親父が俺を教育してくれたからだ。殺して、壊した結果、俺達は国を取り返した。まぁ、俺には祖国なんてものは無いが、その組織としては取り返した」


あの時は、喜ばしかった。事実を知る、それまでだったが。


「しかし、首魁は逃げ延びていた。俺と親父は、奴を追い、その中で仲間を得た。しかし、仲間も、親父も、俺が罠を作動させてしまって。俺の代わりに死んだ。そして、その敵も取れなかった。首魁は勝手に死んで、俺の復讐は取り残された。」


「後は、死ぬために生きていたようなものだな。無茶な修行と戦闘、相次ぐ戦場に戦場。そして、ついには残った仲間とともに、吹き飛ばされて、死んだはずだった。ところがだ、変な世界にいったんだ。そこで飛ばされたのは、変な世界だったよ、何も無いんだ。周りには、物も人も何もかも、時間や空腹さえも無かった。何度か狂ったみたいだが、不意にまた飛ばされた。何の因果か、死なずに今は此処にいる。俺のいた世界ではない此処に」


本当に、ふざけた因果だ。


「この世界に来てから、不思議といろんな人に親切にされた。バドウィックさん、アリシアさん、ウィルキンズさんにライオネルさん、世話になってしまった。幸せかもしれないと思ったんだ。そう、こんな生活も良いかなと、そう思った」


楽しかった。それだけで、俺には珍しい感情だ。


「だから、気付いてしまった。気付いちまったんだ。自分が、いかに不幸だったか、いかに切り捨ててきたか、いかに自分が間違っていたのか」


座っていた椅子に、深くもたれかかる。質の良い椅子は、俺の体重を支え音も鳴らさない。不思議と落ち着いた気分だ、こんな事を話すこともないし、もしかしたら、話すことによって自分の中でも、整理されたのかもしれない。


「先ごろ倒れたのは、そういった感情が一気に噴出したからだ。耐え切れなかったんだろうな、一度に来たから。もう自分でも自覚したし、大丈夫だと思うよ」


「大丈夫なんて、そんな、軽く言わないでください」


「そうです、助けて貰って置いてなんですが。もっと人を信用して下さい」


ミリアとメイリンが、口々に言う、涙を流しながら、女に叱られるのは、初めてだ。気圧されて、背筋が伸びる。


「信用などは、別としても。なぜ、このような危険な事に加担したのですか?貴方の腕ならば、何処に行っても、何処の国でも食べていくのは簡単でしょう。冒険者としてではなくとも、もっと幸せな所を目指せたはずです。なぜ、もっと幸せになろうとしなかったのですか?貴方は幸せになるべきです。なぜ、私達に力を貸してくれたのですか?」


フレッドも、目を潤ませて詰め寄って来る。言葉の最後の方は、だんだんと涙声だ。不思議と、当の本人である俺が落ち着いている。開き直ったのだろうか?妙に冷静だ。


「そんなことを、言われてもな。この間までは、特に。そう、別段何とも思ってなかったわけで。助けたのは、まぁ成り行きと、後はまぁ、頼まれたからか?」


自分でも良く分からん、主に成り行きだと思うが。


「貴方が、何であれ、たとえ外の世界から来た方であろうが、たとえ神であれ、そんな事は、貴方が恩人であるという事には、何のかかわりもありません。私も、兄も、メイリンもそんな事で、貴方に何等かを思う人間ではありません」


ミリアが言い、後の二人が首を強く振っている。その目からは、何の悪意も猜疑心も感じない。俺は、もっと他人を信れる様になるべきだろう。ここが、俺の岐路なのかもしれない。


「フレッド、お前に聞きたい。お前は今困っているか?」


困惑したかの様に、沈黙がその場に漂う。しかし、俺の言わんとする所が判ったのだろう。ゆっくりと、目を閉じて考え込んでいる。


「どうした、フレッド、いや、フレドリック・ウルト・アイゼナッハ、お前は宣言したのだろう、国を背負って立つのだろう。ならば答えろ、お前は困っているか、力が必要か、助けが必要か?」


ミリアは、静かに俺を見てくる。メイリンは、フレッドを心配そうに見つめている。フレッドは、上を向き、唇をかんでいる。


先ほど、彼は俺にはもっと楽な生き方を、もっと手軽に幸せになる生き方を、なぜ選ばないのかと聞いていた。本当は、大丈夫だから幸せを望めと言いたいのだろう。だが、俺はそれでは幸せにはなれない、と感じている。だから、言え、たった一言で良い。


言え。


「困っている。力が、助けが必要だ」


「そうだ、覚悟を決めろ。俺も、今覚悟を決めた。俺は、俺の周りの人間を幸せにするために、その為に生きる」


これは宣誓だ。宣言にして、俺の覚悟の表れだ。


「俺は、俺の持つ全てを駆使して、俺と俺の周りの者の幸せを創る。おれ自身のため、俺の周りの者のため。俺は、昔護られるべきもので、今まで護る者も無かった。だが、今からは、俺が護る者だ。俺と俺の周りの者、その護り手だ。覚悟は良いか、フレドリック」


「貴方が、私たちを助けてくれるなら、力を貸してくれるなら、私たちも、貴方を支えよう。私たちは、それぞれがそれぞれの助けになる、それぞれがそれぞれの支えになる」


求めた場所と仲間は、今まさに此処にある。


此処に、俺の居場所と、俺の仲間を作る。


「それではフレデリック王よ、最初の契約だ、俺のことはアルトと呼べ、俺もお前をフレッドと呼ぶ、友誼と信義によって、俺たちに遠慮は不要だ」


兄としての立場というのが、味わえるかもしれない。これは中々楽しみだ。





今日は、これで精一杯。

明日も一話あげれるように頑張ります。

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