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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第1章
21/85

破城の剣 破情の槌


結果は、あっけないほど簡単に付いた。


「私は、貴方が父とは認めたくない。だが、貴方が王子であるのは事実だ。そして王をないがしろにし、自らを持って国を売り、民を惑わせ、一部の者の専横を招いた。これは、貴方から受けた復讐でも、ましてや、身内としての恥を雪ぐ行為でもない。天意によってだ」


フレッドは、王子に剣を突きつけている。堂々とした態度だが、内心はどの様に思っているのか。もはや、謁見の間には、俺たちと王子しか動く者はいない。他の者は俺が縛り上げ気絶させた。


大扉は塞いである。まさか、謁見をする場所の扉が、閂を掛けれる様になっているとは、どれだけ人を信用していないか、その現われとも言える。嫌な話だ。


「最後に聞く。王は、お爺様はまだ存命か。どちらにせよ、お前は此処で討たれる。王家に連なるものとして、せめて最後に見苦しいまねはするな」


王子は、この国の悪因は、腐っても王族としての矜持は持っていたのだろうか?最後に静かに笑う。否と、王はもう生きてはいないと。フレッドも、それはすぐに理解できたのだろう。


「そうか、せめて死んで誤って来て来い。神の御前では、お爺様と再会できることでしょう」


フレッドは、剣を心臓につきたてた。剣と遺体を玉座に残し、そのままその場に崩れ落ちた。ミリアも、目元を押さえ隠し切れない嗚咽を漏らしている。出来れば、このまま悲しみに浸らせてやりたい。だが、それをする為の砂時計の砂は、今同僚のダイヤモンドの粒よりも重く価値がある。


「フレッド、ミリア。王も王子も既に死んだ。お前たちの王族としての仕事は涙を流すことか。お前たちが、王と王子を救えなかったことを、悔やむのならば、せめてその死を利用しろ。国家と民のために、お前たちの祖父と父の死を活用しろ。そうでなくては、彼らも無駄に死に、お前も無駄に殺したことになる。せめてと思うなら、せめてもと思うなら、無駄にしない為に動け。それが一番の供養にもなる」


年若い2人に、この言い様は酷だろう。わかってはいるが、それでもこのままでもいられない。フレッドに父を殺させ、その姿をミリアに見せたのは、俺が出した案だ。此処で無責任と言える訳も無い。


「わかっています。即座に声明を発表し、王位を継がなくてはいけません」


「その通りだ。呪式を使用し、まずは王城内に伝達しろ。その後は王都だ、ジギスムントとの事もある。余裕は無いぞ」


深く頷くフレッド。強い、強いな。


俺は、羨ましいのかも知れない。少なくとも俺は、師匠が死んだ時、敵が目の前でいなくなった時、冷静に何かを出来たりはしなかった。


ついつい苦笑が顔に出る。死ぬ様な目に合おうと、世界が変わろうと、狂ってはいても、俺の世界はあそこで何かが壊れた。恐らくは、小さな、それでも決定的な何かが壊れた。だけど、もしかしたらもっと前に、壊れていたのかもしれない。狂っていただけではなく、圧倒的に壊れていたのかもしれない。だが、それはいまさら言っても仕方が無い事だ。


「アルトさん。大丈夫ですか」


よほど顔に出ていたのだろうか。ミリアに心配されてしまった。情けないことだ。本当に、情けないことだ。


「なんでもない。そう大した事じゃない。大丈夫さ」


フレッドが呪式を展開し、王城内に声を伝える。同時にミリアは、外で待機している仲間に成功を伝える。外で待機している連中は、外でも同じように、状況を伝える。


「我らが、アイゼナッハに住む者たちよ。突然の事だが聞いてほしい。私は、フレデリック・ノル・アイゼナッハ。王族として、皆に伝える事が有る。悲しむべき事に、われらの王はもういない。私の父にして王子たる人間が、国父を実の父である王を殺めたのだ。私はこの事実を知り、父を討った。王はもういない、王子ももういない。私は、今ここに王位を継承する」


「我が名は、フレデリック、第16代アイゼナッハ国国王」


「フレデリック・ウルト・アイゼナッハ」



堂々とした宣誓だ。あれが生まれ持っての王族と言うことなのだろうか。


フレッドが、静かにこちらを向く。


「国王ですか。父を殺し祖父を守れなかった男が。国王とは、国王とは・・」


「何が悪い。お前は、既に何かを成した男だ。王の証は、王の資格とは何だ。それは、何だと言うんだ。そんな事が分かるのは、お前が王として、全てを治め、平穏の上で死に行く時だけだ。今のお前は、既に事を成したのだ。それで良いじゃないか」


多分、俺はこいつが羨ましい。いや、間違いなく羨ましい。フレッドは、復讐をなし、祖父の敵を討ち、父を最悪の結果を生む前に救ったのだろう。


俺には出来なかった。無情なほど、全ては通り抜けていった。


まともな家族も、まともな生活も、まともな友も。


新たに掴めたかも知れない家族も、新たに掴めたかも知れない生活も、新たに掴めたかも知れない友を。


考えることを諦めていた向こうの世界。


考えたくもなかった前の世界。


こちらに来てから思い知らされる。


俺がいかに、不幸だったかを。


俺がいかに、諦めていたかを。


父を、母を、師匠を、ラッセルを、仲間達を。


もとより少ない身内を、俺の家族たちを殺したのは、俺の不運からかも知れないと。


そんな事は感じたくなかった。


そんな事は思い知りたくなかった。


ただ機械の様に、何かをしていればよかった。


こちらの世界に来てから、世界は俺に優しかった。


人たちは優しく。俺を助けてくれて、頼ってくれた。


だから俺は、一からやり直せると思った。


手に入れられる、手にすることが出来る、そう思った。


希望を持ってしまった。希望を思い出してしまった。


だからこそ、前の世界の絶望を思い知った。


俺が、俺なんかが、こんな良い人間に何を言っているのか。


俺如きが、誰かを助けるなんて、手が貸せるなんて。


嗚呼、俺は気付いてしまった。


そんなことをして良い人間ではなかった。そんな、そんな、そんな、そんな、そんな、そんな、そんな………


韜晦と、後悔と、希望と、絶望と、恥と、喜びと、悲しみと、ない交ぜになった感情が、俺の目から涙を流させ、口からは絶叫を搾り出していた。


握り締める拳が熱い。目の奥が焼けている。腹には灼熱の塊。胸には万本の針。全ての感情が、俺を焼いていく。


「おれは、おれは、そんな。そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


俺は、意識の混濁を覚え、ゆっくりと倒れた。


「アルトさん」


声が、遠くに聞こえる……


音が、広く響く……




此処からは、改変度が上がっていきますので、少なからず時間が掛かります。

気長にお待ち下さいませ。何とか今月中には、何とか今月中にはぁーー

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