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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第1章
20/85

ミリアの視点

姫様の目から見た一連のお話。



私は、ミリアリア・エル・アイゼナッハと申します。僭越ではありますが、国家を治める王家の人間です。


ですが、あの男、恥ずかしい話ですが、私と兄の父に当たるあの男は、国で唯一の王子という立場でありながら、国のことを何も考えていません。


あるのは自分のためだけの欲です。国も、民も、そして私たち家族ですらも、なんとも思っていないかのような振る舞いをします。


ヴェスター宰相閣下は、早くからその危険性に気付いておられました。早くから、王位継承者から外し、兄を第一位王位継承者にするように、王であるお爺様に進言されていました。


しかし、お爺様は、とても優しい人でしたし、自分の息子を信じたかったのでしょう。その決定を先延ばしにしてきました。


しかし、宰相閣下がお亡くなりになり、お爺様の体調も悪化して、国政への影響が少なくなってから、あの男は、我が物顔で好き勝手な行動をしました。


私たちも、何とかしようとしたのですが、非才の身では、たいしたことは出来ず、ついにあの男が、国家を売るような行為をすることを、止める事は出来ませんでした。


それでも、せめて囚われていると言うお爺様を、助け出すことが出来れば、あの男を処断することも出来たでしょうに。


その計画を実行に移すことも出来ず、王都では、援助を得ることも難しく、日に日に集められてくる情報は、悲観的な報ばかりでした。


そんな中、私の親友であり、妹のようにも思っているメイリンが、フランの町のお母上に援助を頼むと言い出したのです。


フランの母であるアリシア様とは、私も何度も会ったことがありますし、兄は、昔あこがれていた時期もあったようです。独自のコネクションを持つ彼女なら、何か良い手建てがあるかも知れないと言う事でした。


私たちは動けませんので、メイリンがいくしかありませんでしたが、私たちは、見張られています。王都の中なら、まいて身を潜めることも出来ますが、都を出てしまえば、方法はありません。彼女を危険にさらせるわけも無く、私たちは反対しました。


しかし、彼女の意志は固く、また私たちも、計画がなんら進展しないことから、彼女の計画に乗ることにしたのです。私たちは、せめてもと、王都内で派手に動き注意をこちらに向けさせました。それでも、彼女は危険だったのです。


心配をしておりましたが、3日後彼女から、助っ人を連れて戻ってきたと連絡がありました。しかし、それはたった一人だということで、私と兄は落胆していました。


そんな兄と私の前に、メイリンと共に現われたのは、どこか穏やかそうな青年でした。珍しい黒い髪と黒い瞳、背もあまり高くなく、体つきもあまり強そうには、見えませんでした。呪式が専門なのかとも思いましたが、腰には変わった剣を挿しています。


弱そうな青年の姿に、兄は気分を落としたのでしょう。青年へ、愚弄するとも言える態度を取りました。すると青年は、見た目からは想像も出来ないほどの迫力で、兄を叱咤しました。


「そうだな、少なくとも恩の有るアリシアさんの期待は裏切らない。だから、メイリンには危害は加えさせない。メイリンに頼まれるなら、お前らにも力は貸してやる。だが、現状お前らに力を貸す者は少ないと言うことを忘れるな。隣の部屋に潜ませている奴や、天井にいる奴らが仮に5倍いても、俺には触れられもしないと言うことも覚えておけ。首魁を守るものが、たった5名とは。今の立場を、確認しておけ」


私の謝罪に対し、彼はさらに言葉を続けました。


「構わない。だが、開口一番に発するのは、俺に対する言葉ではない。命を懸けてフランにまで赴いたメイリンに対しての謝辞だ。俺に謝る前に、メイリンに感謝すべきだ。そこを履き違えるな。傭兵は使うものだ、だが友人には友誼をもって接しろ」


私達は、あれほど心配していたメイリンに、まだ謝辞も述べていなかったのです。これには、兄も私も深く反省しました。メイリンのことは、親友と思っていました。その彼女の善意に対して、私達は、まだ何も返していなかったのです。彼の言葉はその事を思い出させてくれました。


私と兄は、まずメイリンに謝り、感謝を伝えました。そして、その青年に対しても。


青年は、私たちの行動を許してくれました。アルト・ヒイラギ・バウマンと名乗る青年は、私たちに対して、大人として叱ってくれた、そして許してくれた、数少ない人間でした。


しかも、隠れていた人間を見抜き、さらにはその人数まで言い当てたのです。これだけでも彼が、並の人間ではないと分かります。その後で、100フィール以内には、敵対者がいないと断言までしました。武術の達者が、隣の部屋や天井裏の気配を察知したと言う話は聞きますが、100フィール以内のことが判るなんて聞いたことがありません。


アルトさんは、その後理路整然と問題を整理し、あの男を直接叩くと言う方針を出しました。私たちも、このまま進展しないよりはと考えその計画に乗ったのです。ところが、計画変更のために集まった仲間の中から、バイエルラインが反対を申し出ました。


話の流れで、バイエルラインと軽い勝負をすることになったのですが、そのルールは、圧倒的にアルトさんに不利でした。3数える間、アルトさんを見失わない、バイエルラインは、まさしく武術の達者です。私たちの仲間では、一番の腕利きと言えるでしょう。そのバイエルラインを相手に、そのルールは無理だと思いました。


ところが、バイエルラインは負けました。傍で見ている私にも、アルトさんがどう動いたのかは、一切判りませんでした。後で兄にも聞いたのですが、兄も見えなかったようです。負けたバイエルラインは呆然としていました。私や兄も唖然としていましたが、唯一、私たちの恩師でもある、リヒテンシュタイン翁が、声を掛けられました。


その後あったことは、今でも信じられません。アルトさんが、緩やかに動き出したかと思うと、体が、どんどんと透けていったのです。呪式を使うことも無く、ただ身体の動きだけで姿を隠す。そんな事が本当に出来るとは、思ってもいませんでした。


跡で話を聞く機会があったのですが、アルトさんは、ハエの動きの応用、と仰っていました。私には何のことか判りかねますが、すばらしい方が、来て下さったと、皆で大いに安心しました。


その後、反対者もいなくなり、明日決行となった作戦ですが、私は緊張して寝れませんでした。そうしていると、アルトさんの部屋の方から声が聞こえます。様子を、気になって見に行くと、兄とメイリンも来ていました。


部屋の中では、バイエルラインが、弟子にして欲しいと泣きついています。アルトさんは、嫌そうですが、バイエルラインは聞いていません。兄も私も、バイエルラインの性格は知っているので、困っているアルトさんに、助け舟を出すことも出来ませんでした。


何とか話が済んだようですが、アルトさんは、私と兄に付いて来る様に言いました。アルトさんの話では、明日のために、特別な武器を貸してくださるそうなので、その説明と練習をするようです。


黒い曲がった棒を渡されました。何なのか分からなかったのですが、銃というそうです。確かに、これなら持っていても見咎められはしないでしょう。


銃は撃つものらしいのですが、その説明を聞いていると、いきなり背後から抱きしめられました。男性に抱きしめられた事等無かったので、赤くなってあわてていたのですが、あくまでも、説明の為の様でアルトさんは淡々と、説明してきます。


銃が発射された衝撃で、少し冷静になれました。同時に銃には驚きました。こんなに小型で、呪式も使わずこんな威力を出せる武器なんて知りません。こんなすごいものを持っているなんて、アルトさんは何者でしょうか。少し、考えていると、気が抜けているとでも思われたのか、喋るのが耳元に近くなりました。これは反則です。こんなの反則ですよ。


やっと、私への説明が終わりました。今度は兄が同じように説明を受けています。やはり、優しく後ろから抱きしめていて、さっきは、私があれをされていたと思うと、顔が真っ赤になりました。


その後、13回銃を撃って、練習は終わりました。兄も不思議に思ったのでしょう。アルトさんに銃のことを聞いていました。ですが、アルトさんは、


「秘密だ」


といって教えてくれませんでした。


眠れと言われましたが、先ほどのことを考えると眠れそうにありません。せめて横にはなろうと、ベッドに潜り込んだ所、服にしみこんだ、アルトさんの匂いが感じられるようで、余計寝られませんでした。


どうしましょう?


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