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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第1章
18/85

王都での出会い、そして計画

「まずは、方針を決めなくてはならないな。メイちゃん、君が助けたいといっていた二人。彼らには会えるのか?」


そもそも、敵対勢力の規模を、軽く聞きかじりしただけ、見方の戦力や、理念も探らないで依頼を受けるなんて、お話にもならない。そもそも報酬も決めてはいない。自分でも、御笑い種としか言えない様な事をしている。


「はい、連絡は取れるようにしています。と言うか派手に動いてるので、あちらの動きはいやでも知れるでしょう」


「そうか、それはそれで問題だが、今はどうしようもないな。それから君に聞いておきたいのだが。集められる情報から推測すると、王は3ヶ月前から公には出ていない。それは間違いないな?」


「はい、夏の建国際を境に、病状が悪化したと言う理由で。ですが、ミリア様は、2ヶ月ほど前にドア越しですがお話なされたようです。ですので、それが最後の確認ですね」


2ヶ月か、しかしドア越しとは、かえって怪しいな。脅して言わせたか、もしくは呪式で何か出来ないのだろうか。教わった物の中には、そういったものは無かったが、音を出す呪式はあった。応用で出来ないことも無いだろう。


「そうか、それでは君には言っておく。王はすでに殺されている可能性が高い。最悪このタイミングで情報が漏れているのは、罠の可能性も有る。王子は、他人の言葉は受け入れないそうだが、周囲の人間が独自に動くことは否定できない。それは、分かっているか?」


思い至らなかったわけでは無いのだろう。暗い顔はしているが、驚いてはいない。


「言うまでも無いが、王が生きていて、なおかつ王を奪還できてこその起死回生だ。王が死んでいた場合、実力行使に踏み切るしかない。最悪の場合、王子が、王の死の原因をフレデリックとやらに押し付けることも考えられる。その辺りのことも含めて、フレデリックとミリアの二人には、会って話さなければならない」


そのほかの場合は、多くの地を見る可能性、最悪国が割れ、壊滅する。


「はい、わかっています」


気丈な娘だ、さすがはアリシアさんの娘。ならばこそ、全力で行動しよう。


「それでは、行こうか、休憩はここで終わりだ、残り23里、一気に駆けるぞ。夜にはつけるはずだ」


現在地は、フランから約140kmの村だ。宿場町としては中々の規模を誇る。ここまで来た馬は潰れてしまった。駆足でずっとは知らせていたためだ。これ以上酷使すると死んでしまう。中間種の馬は、サラブレッドなどの軽種に比べれば丈夫だが、それでも限界がある。ここで馬を替え、残りの道程も一気に走りぬく。現状、時間が何よりも欲しい。


朝の6時に出発して、夜の10時には着ける計算になる。こんな強行軍は、女性にはきついだろうが、メイちゃんは、馬術は得意との事で、問題なく付いてくる。


予定より早く、九時過ぎには王都についた。替えた馬が予想よりもよく走ってくれたのだ。門はすでに閉まっていたが、フランのギルドより緊急の連絡と言うことで開けて貰った。朝、アリシアさんに文書を頼んでおいたのだ。これで問題なく都に入れる。


「さて、予定よりも早いが、到着した。早速方針を決めよう。だが、その前に、すまないがメイちゃんあそこの店で、食事でもしていてくれ。俺は、情報をチョット集めてくる」


「分かりました。ですが急いで下さい」


「ああ、分かっている」


メイちゃんを店に送り、ウィルキンズさんが教えてくれた店に向かう。


そこは、酷く高級そうなバーで、裏の家業に通じているようには決して見えない。中に入り、一番の年配のバーテンダーに話しかける。


「フランの町から来たんだが、ウィルの所と同じ酒はあるか?」


「辛い方かい?それとも甘いの?」


「辛い方に決まっている。グラスではなく、錫のカップで頼む」


老バーテンダーが、酒を注いでくれる。注がれたカップを、右に半回転、続いて左に一回転、さらに左に一回転。ゆっくりと、右手で酒を干す。美味い、のどから、声が絞り出されそうになる。美味い。


「ウィルの紹介は久しぶりだな。もう隠居したのかと思っていたよ」


「元気で、うまい酒を飲ませてくれますよ。勿論、面白い話も聞かせてくれます」


「そうかい。では、どんな話が面白いのかな」


「勿論、無駄に年を食った王子様の話さ」


老バーテンダーと、にやりと笑い合う。


「あのバカ王子も、落ちるところまで落ちたな、まさか国を売るとは」


「やっぱりその話は、確定なのか?」


話は広まり、さらには裏まで透けている。情報は流れた時点で広まることを防げない。時間が無い。


「ああ、もう調印もしちまったらしい。秘密裏にだがな。ジギスムントの王は、変態だが少なくとも、政治に関してはそこそこだ。うちの国のバカ王子とは比べ物にならん。ぺろりと食われておしまいさ」


「ジギスムントは、この国を欲しがっている。だが、それはどの程度だ?全部か?国力差を考えれば、半分も取れれば大成功だろう」


「だから、侵略が本来の目的ではないのさ。婚姻で王家をまとめてしまう腹だろうな。そのために、ミリア様が欲しいのさ」


「やはりそこか、誇大妄想癖のある人間はすごいね。どうやったら、そんなに都合よく考えられるのか、教えてもらいたいよ」


「まったくだね」


「それでは」


カウンターに、銀貨を2枚置き店を出る。


予想通りは予想通りでも、最低の方向だ。これで王が生きている可能性はまた減った。くだらないバックボーンを見つけてしまった様だ。強気にもなるだろう。


メイちゃんの待っている、店に戻る。食事を取りながら話をする。


「多少ながら、情報の裏づけが取れた、悪い方向でだが。で、何時ごろ2人には会えそうなんだ?」


「先ほど連絡を出しましたので、ここで待っていれば連絡が来ます」


「そうか」


食事を食べていると、突然メイちゃんがぶつぶつと呟き出した。通信の呪式を受けているんだろうが、傍から見れば危ない人だ。彼女は、呪式には慣れていないのだろうか?無意識に声が出ているようだが、こうも怪しいと問題だ。俺も気をつけよう。


「連絡が来ました。付いてきて下さい」


メイちゃんの後を付いて行く。暫く歩き、大通りの中心にある商業ギルドに入っていく。入る前に周囲を感知する、特別な気配は感じない、尾行も注意していたので問題は無い。


中に入ると、金髪碧眼の見目麗しい2人組みがいた。


「君が、アリシアの推薦を受けたものか。本当に使えるのか」


男のほうに声を掛けられた。なにやら敵意があるな。しかし、こちらとしても、年下の男になめられるのも面白くない。まずは、立場をはっきりしなければ、元々権力を持っている人間は、図に乗ることが多い。


「そうだな、少なくとも恩の有るアリシアさんの期待は裏切らない。だから、メイリンには危害は加えさせない。メイリンに頼まれるなら、お前らにも力は貸してやる。だが、現状お前らに力を貸す者は少ないと言うことを忘れるな。隣の部屋に潜ませている奴や、天井にいる奴らが仮に5倍いても、俺には触れられもしないと言うことも覚えておけ。首魁を守るものが、たった5名とは。今の立場を、確認しておけ」


ため息を交えて、言い放つ。控えているものは、不意を撃てば何とか戦えことも無いのだろう。実戦経験も無いわけではなさそうだ。だが、一線級には程遠い。俺の相手など出来るはずも無い。


「申し訳ありません。兄に代わって謝罪します」


娘の方が、謝ってきた。こちらがミリアという姫なんだろう。派手さが無いので、類まれなる美姫と言うほどではないが、十分に美しく穏やかなやさしさを感じさせる女性だ。


「構わない。だが、開口一番に発するのは、俺に対する言葉ではない。命を懸けてフランにまで赴いたメイリンに対しての謝辞だ。俺に謝る前に、メイリンに感謝すべきだ。そこを履き違えるな。傭兵は使うものだ、だが友人には友誼をもって接しろ」


さすがに自分を恥じたのだろう。男の態度が極端に軟化した。


「メイリン。すまなかった、そしてありがとう。アリシアを信じお前を信じている。今回は、危険な役目を押し付けてしまった」


「いえ、滅相もありません。アルトさんは、母が太鼓判を押してくれた方です。必ずや、フレデリック様のお力になると信じています」


すぐに反応する辺り、根から善人だろう。それに素直だ、俺には願うべくも無かったことだ。命をかけてくれる友人がいるのは、素直に羨ましい。


「すまないな。俺も言葉が過ぎた。アルト・柊・バウマンと言う。今回は、君たちの依頼を受けよう。さっきも言ったが、アリシアさんには、世話になっている。彼女を悲しませる様な事はしない。そこについては信用して欲しい」


「こちらこそ失礼した。私は、フレデリック・ノル・アイゼナッハ。依頼を受けてくれて感謝します」


「私は、ミリアリア・エル・アイゼナッハです。アルトさん、お力を貸して下さってありがとうございます。そしてメイ、ありがとう、何もかも貴方のおかげね。貴方と友人であることを、神に感謝します」


「いえ、ミリア様。貴方のお役に立てるのならば、これほど嬉しい事はありません」


「メイ、いつも言っているでしょう。様なんてつけないで欲しいの」


「いえ、そう言う訳にも」


なにやら姦しくなって来た。話を戻そう。


「親友二人組みの話は、また後にしよう。取り合えず、方針を決めなくてはならないな。その前に、フレデリック殿、少人数で話したい、あまり多くに話すことではないのでな。可能か?」


「はい、と言いますか、他の者は独自に動いていますので。ここでは私とミリア、それにメイだけです。それとフレッドと呼んで下さい」


フレデリック・・・師匠と同じ名前か。


「フレッドか、いい名前だな。それでは、他の奴らは外して貰ってくれ。大丈夫だ、半径100フィールに敵意があるものはいない」


「分かるのですか」


笑って返す。


「アリシアさんのお墨付きをなめるなよ」


机の上に王城の見取り図を広げて話し合う。


「まず、あまりよくない話からだ。すでにジギスムントと、各条約を調印してしまったらしいと言うのは知っているな?」


皆が頷く。


「そこで、問題が二つ増える。一つは、王がすでに殺されている可能性が増える事。もう一つは、仮に王を奪い返せてもジギスムントと険悪な関係になるということだ。最悪は、そのまま戦争だが、このままでも、戦争まで行く可能性が高い。条約の一方的な破棄という大義名分を与えるし、国内が混乱することは、アイゼナッハの国力低下、戦力低下に繋がる。ジギスムントでなくても、周辺国は落とし易いと取るだろう」


「王が、お爺様がすでに殺されていた場合、直接父を倒すしかありません。ジギスムントとの事は、その後のことですね。少なくとも、王位を取ってからでなくては、対処の仕方がありません」


確かにそのとおりだ。そもそもの問題は、王が直接的に政を行えていないゆえに起きたことだ。強権を発動できる指導者がいる。それならば、むしろ。


「2つ選択肢がある。確率の少ない王を救出に行くか。もしくは、王子を倒すかだ。俺は、後者を押すね。まだ、王が存命ならば、それで助けることも出来る。どうする、自分の親を殺せるか?」


「あれを、親と思ったことはありません。恥となら思いもしますが。しかし、王宮の中でも最も警護が厚いところです。どうやって倒すのですか」


「俺ひとりで行くならば、何の問題も無いが、暗殺では意味が無い。フレッド、お前が直接行かなければ意味が無い。そこで、だ」


一堂をぐるりと見回し


「正面から行く」


「無茶です。現在の私たちには、80名ほどしか」


「誰が、正々堂々戦うと言った。お前たち二人が、会いに行けばいい。恥でも何でも、子供は子供だ。会いたいといえば無碍にも出来んだろう。俺は隠れて付いていってやる。武器も俺が持っていく。奴と会ったところで俺も姿を現すから、宣言をかまして斬って来ればいい」


「そんなことが出来るんですか」


3人とも、呆けた顔をしている。


「言っただろう。アリシアさんの太鼓判をなめるなって。分かりやすく言えば、俺は3日でギルドのランクをFからBにした。そのくらいの力はあるのさ。今は呪式も使えるしな」


最悪でも、二人を抱えて逃げるくらいのことは造作も無い。化け物がいなければだが、そんなものがいれば、もっと早くに決着がついていただろう。


「分かりました。それで、決行は何時なんですか」


「出来れば明日の朝だが、他の賛同者たちに話はつけられるか?本当に信用できる者だけだぞ」


「分かりました。今から他のものを集めます」


30分後、新たに3人の若者と1人の老人が現われた。説明はフレッドに任せ、俺は城内の見取り図を暗記している。


「ふざけるな。お前だけにそんな危険なことをさせられるか。俺も行く」


机を叩きつけて、赤毛の男が憤っている。中々気が強そうだ。


「大体、あんな奴が信用できるのか。ひょろひょろの優男じゃないか」


「アリシアとメイリンの推薦だ。これ以上確かな者はないだろう」


「だが、それでも。実際に出来るのかそんなことが」


やれやれ、心配なのはわかるが。困ったものだ。しょうがないから安心させてやるとしよう。


「そこの赤毛の君。名前はなんていうんだ?」


「お前なんかに、なぜ言わねばならん」


フレッドが、見かねたように言ってくれた。


「彼は、バイエルラインだ。ずっと私の護衛をしてくれている。何度も助けられているし、間違いなく歴戦の猛者だ」


「そうか、それではバイエルライン君。ちょっとしたゲームをしよう。俺がまけたら、俺を殺すなり煮るなり好きにしなさい」


「ゲームだと」


「そうだ。君は、俺を眼で追い続ける、3つ数えた時に、俺の居場所を指し示すことが出来たら君の勝ちだ。簡単だろう」


シンプルで、しかも決着が早い。


「面白い。やってやる、俺をなめるなよ」


「それでは始めよう。1」


歩法を使い、彼の足元に滑り込む。足に触れそうになった瞬間に、体を右に流す。


「2」


ジャンプして天井を使い、彼の首筋を触る。再び跳ぶが、今度は彼の左側に降り立つ。


「3」


こちらを振り向こうとする彼の、さらに背後を取る。首に、指を当てて言う。


「何処を向いているんだい。君の後ろだ」


あまりの驚愕からだろうか、その場にへたり込んだ。


「まだやるかい?何ならもう少し付き合うよ」


バイエルラインは、静かに首を横に振る。


「まぁ、反応も悪くはないし、こういった力も戦い方では無効にも出来る。そんなに気を落とすことも無いさ。俺の方が長く修行したと言うだけだ」


一同、唖然とする中で、ご老人だけが、にこやかに微笑んでいる。


「それでは、先ほどの案を採用と言うことで問題はありませんな。しかし、一人相手なら、速度で先ほどのようなことも出来るでしょう。ですが、多人数ならどうですかな?」


なるほど、評価の厳しい爺さんだね。


「ならば、こんなのはどうかな」


腕が霞み、肩、胴体、足、そして顔と、全てが霞んでいく。


「如何かな、ご老人。速さで消えているわけではない。ご満足いただけたかな?なんなら、さらにここに速度も足そうか?」


「いやはや、冗談をまともに返されても困るのぉ。まぁこれで心配は無いじゃろ。」


皆が一様に頷く。


「それでは、明朝、決行致します。各自それぞれの奮闘を期待します」


「「「「応。」」」」


フレッドの声に皆が応えた。バイエルラインを除いて。


あいつは床でまだへたっていた。


一寸長めでした。

読みやすい長さとかが微妙に分かりません。

そのあたりのこともご指摘いただけたら幸いです。

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