急転、国家問題
泣いているメイリンさんを、アリシアさんと、共に家へ連れ帰る。門兵の詰め所を出る前に、二人の男には、もう一度打撃を与えておく。これで、後半日は起きない筈だ。
家に帰ったメイリンさんは、ようやく落ち着いたのか、ぽつぽつと話し始めた。
「北西の国、ジギスムントの王はまだ独身です。その王とミリア様の婚姻が、王子の手によって進められています。それによって、フレデリック様とミリア様を引き離し、フレデリック様を害する計画があるようです」
アリシアさんが、話を聞いて、歯をギリギリと鳴らしている。すごく怖い。
「あの、ブワァカ王子が、何をトチ狂っているんじゃー。結果的に国をつぶすぞ。百歩譲って、フレデリック様を害すのは分かるが、国の後継をどうするつもりなんじゃあー」
人格が変わってる…おかしい、母の様だとか思った、俺の感想は的外れ?
「ジギスムント王の妹を娶るようです。しかもこのフラン一帯をジギスムントにわたす計画まであるようです。あの、脳タリンの考えることですから、ジギスムントと同盟を組んで、他国の侵略を始めかねません」
「そりゃ、絵に描いたような愚王だな」
国民は大変だ。封建社会においてトップが、行動力が有る馬鹿というのが一番たちが悪い。
はっきり言えば、平時において国王に、実務的な能力は必要ない。能力のある人間を登用し、彼らをまとめればいい。最悪でも、彼らに任せておけば国の運営自体は出来る。横領や搾取などが起こる場合は増えるが、そういった人間こそ国が無くてはどうにもならない。国家の寄生虫が、同時に最低限国を守ってくれる。宿主を倒す時は、他の寄生先が見つかった時だけだ。
有事の際は、また別も能力が王には必要だが。そのあたりは、一まとめに言えることではない。
「まだ王ではありません。単なるバカ王子です」
「あー、ごめん。絵に描いたようなダメ権力者だ。もしくは、傾国の阿呆だ」
地団太を踏んでいたアリシアさんが、こっちを向く。俺に向けた目線を、いったんそらすと、話を続けさせるように言った。
「それでメイちゃん。そんな大事な時にどうしてフランへ?ここは、ギルドは私が管理してるからまともだけど、騎士団は王子の腰巾着よ。実力行使をするにしても、戦力にはなれないわ」
なかなか、馬鹿は馬鹿なりに権力工作はしているようだ。極端な話、こういった国ならば、軍事力を握っておくのが手っ取り早い。後継者の件でも何らかの工作をしているようだし、そこまでの馬鹿ではないと、評価を変えておこう。
「それなんだけど、単独で王宮に忍び込めるような凄腕が、知り合いにいない?王は、病気だって発表されてるけど、実は王子が王宮に拘禁してるの。証拠がつかめたのよ。救出できれば事態は変わるわ。今は、ミリア様とフレデリック様が、派手に動いて注意をそちらに向けてるの、でも、長くは持たないわ」
前言撤回、救いようの無い馬鹿だ。そんなアキレス腱を自分で作るとは、まだ、殺していたならば、そこまで評価を下げなかったが。どちらにしても性格的には外道だ。能力的にも、これで無いことが実証された。あれ?アリシアさんが俺を見て微笑んでる。可愛らしいのに、何だか怖い。
「メイちゃん。いい人が居るわ。」
とっさに目をそらす。大丈夫、目線はあってない。大丈夫。
「そちらのアルトさんは、僅か3日でF級からB級に上がった人よ。今回も貴方を助けてもらったし。人格の方も私が保証するわ。剣も、無手組打も呪式も使えるわ、ご希望通りの超一級のお方よ。そういえば、メイちゃんまだ助けてもらったお礼をしていないわよ。ちゃんと、お礼をしなさい」
大丈夫じゃなかった。さらに、いやな予感が的中した。しかし、アリシアさんに頼まれると、否とは言えない様に思う。何とか、違う方向に話を持っていかないと。
「いやいや、私はそんな、大した者でh」
「ありがとうございました」
大声で話を切られた。そんな御辞儀をされても、困るのですが。
「この度は危ないところを助けて頂き、真にありがとうございます。そして、お願いですので、どうか力を貸して下さい。私に出来る事でしたら何でも致します。ですから、どうか力を貸して下さい」
仕方が無い、どうせ傭兵が本職の俺だ。それならば、せめて知っている人間の役に立った方がいい。それに、話を知ってしまった以上、無関係を貫くにも限界があるだろう。高目に売れるうちに、売って置いた方が良い。
「分かった。依頼を受けよう」
「本当ですか」
「ああ、貴方のお母様には、大変世話になったしな。アリシアさんからの推薦を貰ったんだ、そうそう楽には断れない」
断ったところで、何をか言われることも無いだろうが。それだけに、断って関係を壊すのも嫌に思える。自分でも、不思議ではあるが。
「私からも礼を言います。どうもありがとうございました」
「まだ、依頼を受けると言っただけです。依頼を遂行できた訳ではありません。礼には早いですよ」
「それでは、メイリンさん。王都に向かえばいいのか?聞く所では急ぎの様だ、なるべく早く出発しよう。明日の朝一番に出発する。いいか?」
「はい、お願いします。それと、私のことはメイと呼んで下さい」
「そうか、メイ・・・ちゃん。俺のことはアルトと呼んでくれ。アリシアさん、例の二人の事は任せます」
「はい、それに関してはお任せを。メイのことをよろしくお願いします」
「はい、それでは準備もありますので、今晩は失礼します。メイちゃん、明日の1番の鐘の時刻に、南の門で待ち合わせよう。馬の用意を頼んでおいてもいいか?」
「ハイ、分かりました。それと、メイで結構です。どうか呼び捨てて下さい」
「それでは、今日はこれで失礼する」
顔をやや赤くしながら、振り切るように外へ出た。あんな少女を呼び捨てにするというのは、どうも、難しい。女学生と言うのは、どうも接点が無かっただけに難しい。姦しいのは、大いに苦手だと再認識した。
ライオネルさんのところに行き。服を受け取る。風呂に入りに行って、身奇麗にしてから、ウィルキンズさんの店に向かう。
「ウィルキンズさん、あまり時間が無いんだが、幾つか聞きたい」
「何だね?」
「王が、王子に拘禁されているらしい。メイリンさんが、持ってきた情報だ。王が生きている可能性を、どの程度と読む。ジギスムントとの件を考慮して言ってくれ。それと、王都に関する情報が欲しい」
「ジギスムントの話は、うわさ程度しか聞いていなかった、王の拘禁も同様だ。それでもなお、言うならば、確率は低いな。王子は、大ばか者の外道だが、悪知恵だけは回る。弱みを、そのままにはしていないだろう。王都の部隊は殆ど動かないだろう、少なくとも一番大きな戦力である騎士は動かない。あそこの総大将は、王に、と言うよりは、国家に忠誠を誓っている。王子が何を言っても動きはしないはずだ。問題は、王子の私兵・王宮警備隊と王都の傭兵ギルドの連中だ。警備隊だけで500人、実働だけでも400は行くだろう。傭兵も足して、全体で600は動かしてくるだろうな」
「烏合の衆が、何人いても問題ではない。問題は、王子に従うB級以上のランクの奴がいるかどうかだ」
「はっきりと分かっている限りで3名、もう1人くらいなら、都合を付けるかも知れん。だが、A級は、付かないと断言できる。そんなところだな」
「そのあたりなら何とかなるか。問題は、王が死んでいた場合だな。まぁ、雇われたからには、やり抜くのが傭兵の仕事、玄人の仕事ですよ」
ウィルキンズさんが、にこやかに笑う。
「ああ、仕事終わらせたら、また来なさい。歓迎するよ」
頭を下げて礼を言う。
「ありがとうございました」
翌朝、俺は、メイちゃんと、王都に向けて出発した。
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