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ドリフト―TrifT―  作者: kishegh
第1章
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身だしなみと教師


模写と、催眠暗示をフルに活用して、全体の8割は一晩で覚えることが出来た。全て覚えたら続きを教える、と言われたが、まだ覚え切れていない。しかし、小細工を施しても、人間の精神力、集中力には限界がある。まだまだ続けることは出来るが、効率を考えて息抜きをすることにしよう。少し聞きたいこともあるし、ウィルキンズさんの所に行く事にする。


「おや、勉強中じゃないのかね。怖い女先生に言いつけてしまうよ」


扉を開けると、いきなりこんなことを言われた。冗談なのは分かるが、アリシアさんは、女先生という感じではない。


「私が習っているのは、怖い女先生というよりも、可愛い少女先生ですがね。まぁ息抜きぐらいは許して下さい。聞きたいこともありましたしね」


「本人には、とても言えんがな。で、聞きたい事とは?呪式は、先生に教わっているんだろう」


「ええ、聞きたいのは別の事ですよ。私は、噂になっていますか?」


聞きたいのはこの事だ、予定外に短期間で動きすぎた。出来る限り情報は制限しているが、あまり意味が無いのは判っている。パルプの件はともかく、その前の一気に昇格したのは、噂になっていても仕方が無い。


そろそろ、一般にも噂が回っていてもおかしくない。この社会形態での噂は、口コミが主流なので、他の町などには伝わりにくい。その代わり、同じ町では、恐ろしく早く広がる。


「そうだな、後3日と言った所かな。噂の内容は、変な服を着て、変な武器を持った優男が、異様に大きな背嚢をしょって現われた。優男の癖にえらく強いらしい。と言った所だな。気にするなら、武器はともかく、服は替えた方がいいな」


服か、とっさのときの動きやすさを、第一にしてきたが。考えなくてはならに時期だな。


「やはりそうでしたか。それでは、腕がよくて、口の堅い仕立て屋をご存知ですか?貴方が、着ておられる服を作った人が、理想ですが」


ウィルキンズさんの服は、ぱっと見分かりにくいが、裾や袖口に細工がしてある。勿論仕立て自体も一級だ。


「そんな事なら構わないよ。紹介状を書いてあげよう。いや、必要ないかな。もう少し待っているといいよ。どうせ飲みに来るから」


「それでは、私もお酒を楽しみながら待つとしましょう。お勧めの品を楽しみにしていますよ」


にこやかに話を聞きながら、1時間程酒を楽しんでいると、ウィルキンズさんが、入ってきた客に声をかけた。


「ライオネル、彼が今噂の男だ。君に服を仕立ててほしいそうだよ」


60代後半、と言った所だろうか。きっちりと、後ろに流した白髪、鋭い目つき、と堅そうな印象があるが、彼の着ている服は柔らかな印象を与えている。すらっとしたジャケットは、体にフィットしているが、雨降り袖が遊びを与えている。高級ではないが、一流といった物を、嫌味無く着こなしている。


「はじめまして、アルト・柊・バウマンと申します」


席を立ち、軽く礼をしながら言う。


「こちらこそはじめまして。ライオネルと申します。フランを救って下さった英雄に合えるとは、光栄ですな。ですが、なぜ私のようなものに、仕立てを頼むのですかな?私はもう半隠居している身ですよ」


丁寧に断る形で来たか、きついな。基本的に、目上の人間には、あまり強く出れないのが自分の弱みだ。しかし、完全に断っているわけでもない、何とかできるか?


「ウィルキンズさんの服を見ましたので。ただ丁寧な仕事と言う訳でなく、存在感は有りますが、威圧感はない、いい服ですよね。本来私のような若輩には似つかわしくないのですが。この服の袖口を見まして、ぜひともほしくなったのですよ」


「お褒め頂き光栄です。ですが、それはウィルキンズさんの人徳と言うものです。私の服の所為では有りませんよ」


なにやら、頑なだな。


「いえいえ、今貴方が着ておられる服を見まして、ますます貴方に作って頂きたくなりました」


ウィルキンズさんが、何だか楽しそうな顔をしている。明らかに二人には何かの理解があるようだ。目線をウィルキンズさん向けると、何とか答えてくれた。


「ライオネル。もう許してやってくれ、お前も私も助けられただろう。若い者をからかうのは、あまりいい趣味ではないよ。お前も、興味を持っていたではないかね」


やはり、か。


「分かった、分かった。この年になると楽しみも少なくてな、元から断る気はなかったんだが、ウィルが態々勧めてくるものだからな」


一転、にこやかに笑いながら、酒を注いだカップを掲げてくる。俺もカップを掲げ、礼を返す。


「まったく持って、私の周りの人たちは、私を鍛える事を余生の楽しみにしてくださる。せめて、その意思の10分の1でも、汲んで精進したいものです」


全ての先達は、教育者と言う側面を持っているのかもしれない。だが、私の周りの人間は、やはり皆、少しずつ捻くれている。


「まぁそう怒るな。どうせ慣れているんだろう。緊急時にも対処できる普段着を、2着ほどで良いか。細工は何をする」


「ありがとうございます、それと近々旅に出ると思いますので、マントと帽子もお願いできますか?細工は、今来ている服と同じようなものに」


「分かった、すぐ欲しいんだろ。今から工房に行こう。そうだな、あり物を加工するから、2日だ。ウィルの紹介だし恩も有る、特急でやってやるよ」


ウィルキンズさんのほうに向いて頭を下げる。彼も、にこやかに返礼を返してくれる。


「ウィル、今日のところは失礼するよ」


「それでは、また今度来ます」


カウンターに、銀貨を一枚置いて店を出る。


「またの御越しを」




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