伝説は続いてしまった
「長かった…ようやく僕達の伝説が始まるな」
若い男の発言に頷く四人。うち二人は涙すら流している。
彼ら五人は「閃光の伝説」という冒険者の一行。名前は随分輝かしい。
一年少し前に冒険者を志し、本日ようやく下級冒険者として一つ星を得た。
初めて受けた依頼の薬草採集に失敗し、かつ冒険者組合から睨まれ、
謹慎明けの次に受けた依頼では、害獣駆除を漁夫の利で完了し…
なんのかんのと依頼を完了していった結果、下級冒険者に認められた。
認められてしまった。
◆
害獣駆除の依頼の際、実質的な引率で付いていた中級冒険者より、
彼らの実家それぞれにグダグダな事の顛末は報告されていたのだが。
危機感を持った各家は彼ら抜きで話し合い、独り立ちさせるべく画策した。
虚像でもいいから「実績」を作り上げてさっさと冒険者にしてしまおうと。
冒険者になってしまえば、もう自分達が面倒を見る必要もなくなるだろう。
その後万が一大成しようが、あるいは高確率で落ちぶれようが構わない。
要は彼ら五人が「自分はもう一人前だ」と思い込みさえすればいいのだ。
一人前なら、実家をこれ以上当てにしても突っぱねられるだろう、と。
流石に家族であるから、怪我をしたり死亡したりされるのは気が引ける。
せめて装備は良いものを渡しておけば、冒険者になるまで持つだろう。
そう考えて、彼らには自分達が購入できる高品質の装備を与えたのだが、
初回の戦闘でそれらは見事に破壊され使い物にならなくなっていた。
報酬は出ていたが、正直かなりの赤字である。
これが、彼らが見習いの間続くのか。
家が傾く程ではないが、こう余計な出費が今後も続くとなると笑えない。
実家の面々は、如何にして物的被害を出さず、彼らに実績を積ませるのか、
そればかりを考えた。
結果、各々の実家から警備の仕事を冒険者組合経由で依頼することにした。
これも結構赤字になるのだが、怪我人が出ない分まだマシだろう。
神殿に治療をお願いして、その費用に各々の実家は思わず神を罵った。
治癒術含め神聖魔術は神の御業ではないのに、ひどいとばっちりである。
各家の倉庫の夜間警備。それぞれが所有する一番小さい倉庫を見張らせる。
無論倉庫は空にしておいた。何せ彼らの対応能力は案山子に匹敵する。
いや、案山子が耳にすれば怒るかもしれない。案山子は同士討ちはしない。
こうして損害が出ないようにして、各家の持ち回りで空の倉庫を見張らせ、
五人の見習い脱却資格をどうにかでっち上げたのだった。
五人ともその気遣いには気づいていない。実家の倉庫警備だと気づいても、
依頼自体を受けたのは間に入るお守り役の雇われ冒険者であったため、
「偶然ってあるものだなぁ」としか考えていなかった。
◆
さて、実質的な初依頼の受注。
武器防具も新調し(てもらい)、隣町までの荷馬車の護衛を受けた。
ただし今回は単独ではない。護衛はもう一組付いている。
亜人種女性ばかりの四人組「暮明の茨」である。
依頼主の商人が女性一人で、しかも十五歳と成人したばかり。
普段は彼女の祖父も同行しているのだが、腰を傷めてしまって動けない。
ゆえに女性ばかりの彼女らに依頼をしたのだが、そこにねじ込まれた。
彼女の祖父が、普段彼らの実家と商いをしていたばかりに。
馬車一台に二組九人もの護衛は過剰なのだが。
五人の実家に大金も渡されたので文句も言いづらい。
「閃光の伝説」一行は全員出自が下級貴族や準貴族なのだが、
近隣諸国の貴族にありがちな、亜人種への偏見は幸いなかった。
王立中央学院に亜人種の教員や学生も少数ながら在籍していたからである。
しかし「暮明の茨」は全員小柄な女性のため、その戦力を軽視していた。
「君達が同行者か。まあ、戦闘は安心して僕達に任せてくれたまえ」
「閃光の伝説」代表は、胸を張り偉そうに握手を求めてくる。
「…ええ、よろしくね。治癒術師のルーソラです」
ハーフエルフの彼女は、ぎこちなく笑顔を向けて握手に応じた。
ちなみに彼女達は全員彼らより年長で、かなり格上の四つ星冒険者である。
◆
移動開始初日は特に何もなく、野営地に予定通り夕暮れ時に到着した。
ここには、別方向から来た馬車なども数台停まっている。
荷物をほどいて「暮明の茨」は慣れた手つきで夕食の準備を始めていた。
調理担当は猫耳獣人のクズリ。乾燥野菜を手早く刻み、鍋へと入れていく。
彼女は料理人も目指しているとあって、腕前が結構評判になっていた。
「ほう、暖かい食事が食べられるとは。これはありがたいな」
と「閃光の伝説」の男の一人がそう口にしたが、クズリは怪訝な顔をした。
「作るのならそっちも早く作った方がいいんじゃないの?
夜の見張りも順番決めておきたいし、ゆっくり食べてる時間ないよ?」
クズリの言葉を聞いて不思議そうな表情の「閃光の伝説」一行。
彼らは初めての護衛である。そう、つまり。
「ん?食事は自分達で別々に作るのか?ではこれは?」
野営の心得からして何も分かっていなかった。
「いや、当然でしょ?何言ってるの。これはうちらと依頼主さんの分だよ。
契約に護衛条件の記述あったでしよ?」
「そうなのか?」
そうなのか、って。契約書を読んですらいないのか彼らは。
呆れる「暮明の茨」一行。確認は依頼受注の基礎中の基礎だろう。
「ええっ?そう言われても困るわ!あなた方が準備してよ!」
「閃光の伝説」の女の一人が喚きだす。困るも何もないだろうに。
いい加減に過ぎる。そもそも彼女達の調理を手伝うという発想もないのだ。
仮にも雇われている立場で虫が良すぎる。
「我々が、あなた方の食事まで準備するのは契約にありませんよ。
契約書を読み込んでないのはそちらの落ち度でしょう。
元々食料は我々と依頼主さんの分しか持ち込んでいません。
契約書の記述どおりにね」
契約書を盾にされると返す言葉がない。女も黙り込んだ。
依頼主も祖父の縁でねじ込まれたとはいえ、見る目は冷ややかである。
「予備の携帯食だったら差し上げますよ。
護衛ははじめての様子ですが、準備は責任もってやってください」
とルーソラが「閃光の伝説」代表に一塊の干し肉の包みを渡す。
恨みがましい目で見ながらも、渋々黙って頷き返す代表。
依頼主と「暮明の茨」一行はその後完成した鍋をつついたが、
干し肉を齧る音と、後方からのもの欲しそうな視線が煩わしかった。
◆
一夜明けて。
昨晩からの微妙な空気を引きずりながら、一行は馬車を走らせていた。
ちなみに朝食も「暮明の茨」と依頼主は鍋。「閃光の伝説」は干し肉。
今日の夕方には目的地到着だが、近場なのは誰にとっての幸福か。
そろそろ中間地点か、という時、襲撃があった。ソルジャーウルフだ。
分類は害獣でなく魔獣。つまり本能で魔術を放つ可能性がある。
しかも大抵、十五~三十の群れで行動するため、面倒な相手である。
今回は運悪く、大きな群れで三十近くが確認できる。
ただの夕食で要らない恥をかいてしまった「閃光の伝説」だったが、
この戦闘で役立って少しは名誉を取り戻したい。
魔術師以外の四人は馬車から降り、武器を構えて、
「ソルジャーウルフは僕達が蹴散らす!君達は馬車と依頼主を守れ!」
と「閃光の伝説」代表が叫ぶ。いかにも自分達が主役のごとく。
近場のソルジャーウルフに斬りかかるが、攻撃は全て躱される。
魔術師も《氷筍の矢》などをソルジャーウルフに放つが当たらない。
戦闘開始直後は十頭近くが「閃光の伝説」に向かっていたが、
今は見切られたらしく五頭だけで彼らを翻弄していた。
魔術すら使う素振りがない。
そうしている間に「閃光の伝説」と相対していないソルジャーウルフは、
馬車を曳いていた馬二頭に襲い掛かろうとしていた。
それを。
ドワーフのフンケとマイセルが一撃で次々撃退していく。
フンケはウォーハンマー、マイセルはハンドアックスの二刀流である。
ドワーフと思えぬ速度でソルジャーウルフが魔術を唱える前に接敵し、
下あごを吹き飛ばし、喉元を叩き斬る。
馬と馬車は依頼主と共に、ルーソラの《聖者の守護》で守られていた。
離れたところにいるソルジャーウルフは、クズリが弓矢で射っている。
「閃光の伝説」が攻撃を当てられずもたついている間に、
ソルジャーウルフ計二十七頭は倒された。
全て「暮明の茨」によって。
◆
予定よりやや遅れはしたが、馬車は傷つくこともなく目的地へ着いた。
無論依頼主も馬も、積み荷も無事である。
「今回はありがとうございました。こちら完了証明書です。
ここの冒険者組合に提出してください」
と依頼主より「暮明の茨」に護衛依頼の完了証明書が渡された。
一応「閃光の伝説」にも。代表は無言で受け取る。
依頼を終えて、しばし無言だった「閃光の伝説」代表だったが。
「僕達はまだまだだな」
とつぶやいた。
ここでもう縁が切れるのだが、ルーソラはなんとなく様子を見ていた。
ああ、彼らも反省するならまだ成長出来るかもしれないわね、と。
「まず、調理担当を決めなければ、実力は発揮できない!」
「そうね!腕のいい料理人を雇いましょう!」
「だな。次からは鍋や包丁も必要だ」
「買い揃えないといけないな。明日から探してみよう」
「料理人は冒険者組合で募集したらどうかしら?」
見ていたルーソラは遠い目をした。
ああ、彼らの成長はダメかもしれないわね、と。
暮明の茨メンバー
ルーソラ:ハーフエルフの還俗した元神官戦士。薬師でもある。
クズリ :猫耳獣人の斥候。資金を貯めて料理屋を開くのが将来の夢。
フンケ :ドワーフの戦士。実家は鍛冶屋。マイセルは従姉妹。
マイセル:ドワーフの戦士。実家は木工職人。フンケは従姉妹。
ところで「閃光」一行はどうやってホームタウンに帰るのだろう…護衛依頼もないし




