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神隠し ~蛭子神社の怪異~  作者: 船橋新太郎
第1章・和都歴450年 7~8月 ~灰谷 墨子編~
11/11

第1章・9幕 闇の貴公子

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


◎灰谷家


・灰谷 墨子 (はいたにすみこ)

蛭子里の生まれで、朝友と喜朗とは幼馴染。母子家庭だったが、半年前の冬に母と姉が行方不明となり、灰谷家へと嫁ぐ。非力だが賢く、里でも若く美人との噂。


・灰谷 朝友 (はいたにあさとも)

墨子と喜郎の幼馴染みで、墨子の旦那。墨子の境遇を想い、結婚に至る。里に小さいながらも畑を管理している。里でも良好なイケメン男子で通る。


◎里の住人


・三条 勝巳 (さんじょうかつみ)

本編・三条勝太郎の実父。妻と勝太郎を捨てた後、何故か蛭子里へと流れ着く。里では近代的な男前、と評判だが、裏の顔は好色と貪欲の悪人。


・吉田 健右衛門 (よしだけんうえもん)

蛭子里の官人の1人。現状、一番経験が豊富な故、官人所役・神奈備支部からの信用も厚い。紳士的で礼節を知る男として里でも名声がある。


・吉崎 凛 (よしざきりん)

時常の嫁で、吉崎家の令嬢。育ちの良さを醸し出す桜色の着物と、簪で長い髪を結う。豊満な胸元と、口元のホクロが印象的。


・横尾 秀忠 (よこおひでただ)

木細工職人。昨年で親を両方亡くし、一人で逞しく生計を立ててきた。生きるために必死で、里の皆の為にも必死になる熱い男。手拭いを頭に巻く、如何にもな職人。



■ ▢ ■ ▢




【前回までのあらすじ】


蛭子里に住む墨子は、山菜採りに北の森へと向かった、旦那・朝友と幼馴染・喜朗に合流する為、北の森へ、息子・美継と向かう。

森で、朝友と合流するも、喜朗の姿は見えない。

美継の姿も消えてしまうと、墨子は探し回る内に蛭子神社へと辿り着くと同時に美継を発見。

彼は喜朗を見たというも、時間を掛けても神主・神籬すら見つからず、一旦帰宅をする。

墨子らが健右衛門と雅代の関係を疑いながら、帰宅すると、朝友はその件は保留にした。そして翌日に、神社へ喜朗を探しに行くと二人を安心させた。

一方、夜九時に、良からぬ企みをする勝巳は、灰谷家へと向かうが、健右衛門が訪ねてくると、その企みは失敗する。

その頃、雅代の元を訪ねる朝友は、寂しそうな雅代に一線を越えてしまう。

明くる日、黄田組が統治の名目で重税を徴収しに来ると、朝友は、灰谷家の分を出す。

黄田組は、次に向かう先は水戸部家。雅代が襲われそうになるところを助けるが、妙に恋心を抱かれる。朝友は、喜朗・捜索の前に、雅代の家に寄るが、時常と交わる雅代を見る。

雅代の幸せの為にも、喜朗・捜索をしようと心に決めるが、時常は雅代を失うことに堪え切れず、喜朗・殺害を企てる。

朝友より早く、神社へと赴き、喜朗を探す時常に、不気味な息遣いの何者かが迫る。

翌日、時常が帰らない事に、不安を抱く凛。

里の皆、墨子と朝友、勝巳らを交えて話していると、黄田組の重税に苦しむ秀忠が現れる。今直ぐにでも黄田組と神籬に、話をつけたいと憤る秀忠に、健右衛門が、官人として黄田組へ向かう。

秀忠は、勝巳に焚き付けられるように皆の反対を他所に、神社へと向かっていってしまうのだった・・・

「勝巳さん…何故、余計なことを!」

朝友が怒る。

「余計なこと?本当の事を言っただけだ。寧ろ、秀忠が危険に鈍感なだけだろ?」

勝巳は立ち上がる。

「だからって…あんなこと言えば、神社に向かうだろう!」

「あ~うるせえ…!だったらお前も助けに行ってこいや?アホらしい…!!」

勝巳はそう吐き捨てると、吉崎家を出ていく。


「凛、時常さんは明日、俺が探しに行く。」

朝友が凛に寄り添う。

「…秀忠さんが…直ぐにでも探してきてくれると良いけど…」

凛は、涙を拭くと、奥の部屋へと去ってしまう。

「…」

朝友と墨子も、しばらくすると、家へと帰った。



◎和都歴450年 7月14日

置田村・神奈備・黄田組集会所 10時


ーザァァァ…


健右衛門が全身濡れた姿で黄田組集会所の前に立ち尽くしていた。

「さて、どうするかな…」

そう呟きながら、健右衛門はケダモノの様に微笑む。



◎蛭子神社


ーザァァァ…


「…つ、着いた..ぞ。」

秀忠は、雨の中、鳥居と随神門を抜け、神橋を渡り、本殿へと歩み寄る。

「神籬さ~ん…」


ーザァァァ…


「誰も...居ないのか?」

白昼とはいえ、雨音が支配する蛭子神社に、少し不気味さを感じる秀忠。


ーガタッ!


「はっ!?」

社務所の方から何か音がした。

「誰か…誰かいるのか?」

恐る恐る社務所へと近づく秀忠。


ーキィィ…


扉が半開きになったまま、音を立てている。

「おーい、神籬さん?居ないのか?」

秀忠は、社務所の中へと入る。

「時常さ~ん?いないか?」


秀忠は和室に入る。

「…確か…若い2人はここで熊に…」

2人の遺体は裸で見つかり、その最中に襲われたことは、里の誰もが察していた。

「…ちっ…イイ思いしやがった天罰だろうよ…俺だって…墨子さんのような…」


ーガタッ!


「ひっ!?…やっぱり誰かいるのか?」

玄関の方で音がする。

恐る恐る社務所の玄関へと戻る。

「神籬さん…なのか?」

秀忠は玄関から外へ出る。



「ー!?」




◎和都歴450年 7月14日

置田村・神奈備・黄田組集会所 10時前


ーザァァァ…


一方その頃、雨が降る天候の中、黄田組集会所でも、問題が起こっていた。


「そういや、大胡田よ。町田の奴に、蛭子神社にいる神籬(ひもろぎ)、とかいうヤツに、挨拶に行かせたのにまだ戻らんのか?」

黄田 八太郎(きだはちたろう)。黄田組・組長。赤島会から副統括の神籬の監視を命令され、そこに一定の人員を割くよう命令されているが、本人は組の力を付ける事に躍起。昔気質の横柄な崩れ者で、狡猾。生き残るためには家すらも売る薄情さを持つ。


黄田がしかめっ面をする。

「はい、町田のアニキは、昨日から音沙汰無く、今から里の連中に話を聞こうかと。」

大胡田 意満(おおこたおきみつ)。黄田組の若頭補佐。悪どい手口でも結果を出して出世するタイプ。巨漢で、素手の格闘を好む。黄色の法被に黒の股引きを履く。


「そうか…神籬は神奈備地区・副顧問。儂らと裏で組む方が得策だと分かるくらいの(モノ)、送り付けてやったのに…まさか町田の奴、ヤられたんじゃないだろうな?」

「アニキに限って、まさか。」

「これからの赤島会、いや、黄田組(わしら)を弱小と言わせんように、他にも手を考える。」

「黛村の双子との件、ですね?」

大胡田が尋ねると、黙って頷く黄田。

「お前にも少し動いて貰う。神籬の件は、誰か使えそうなのに任せて、お前は手を空けとけ。神籬を監視するのに手を割け、だなんて、赤島さんも勝手が過ぎる。」

黄田が饅頭を食いながら話す。

「わかりました。新堂に任せます。」

「新堂?あんな拾ってきたガキで大丈夫か?」

「ええ。若いですが、切れ者で優秀です。八俣や神奈備の悪ガキらからは、❝闇の貴公子❞なんて尊敬されているそうですよ。まったく、あの若さで良い身分です。」

大胡田が席を立つ。

「たしかに、あいつはどこか普通のガキとは違う。黄田組でも逸材とはいえるな。わかった、お前、面倒見てやれ。」

「はい。」

黄田がそういうと、大胡田は1つ返事を返し、自分の部屋へと向かう。


「大胡田さん。」

「おお、新堂か、丁度探してたんだ。」

「あ、そうなんですか?私もです。蛭子神社の件で客人が来てまして…通しますか?」

新堂 玲(しんどうれい)。黄田組の一員。神奈備の貧民の出自。蓮太らと同じ歳でありながら、寺院に行かず、黄田組の使いから活躍し、大胡田の弟分として活動。寺院には行かずとも、書物など独学で知識を学び、知性的でもある。漆黒の装束で、ワイルドな風貌ながらイケメンで、ハスキーボイス。



「あ?客人?誰だ?」

大胡田は身を乗り出す。

「里の官人で、吉田…健右衛門とかいう男でして。」

新堂がそう説明するとーー


「…ここが、黄田組の集会所…か。」

ーー応接間に座る健右衛門は、微笑んでみせる。

次回2026/9/21(月) 18:00~

「第1章・10幕 裏取引」を投稿予定です。

   

※9/21(月)~9/23(水)はSW・強化月間です。

期間中は毎日18:00に投稿致しますので、御期待下さい。

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