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市長殺しの女

作者: すばる

 今日は最初だから、語るのはみんなが知ってるやつにしよう。例の、市長殺しの女の話さ。あれは大騒動だった。いろんなやつを巻き込んで、最後には国の政権すら揺らいだんだから。ああ、安心して聞いてほしい。これは勧善懲悪の物語だ。最後に巨悪は倒される。みんな幸せ、かどうかはわからないが、少なくとも俺はハッピーさ。俺が誰かって? 名乗るようなもんじゃねえ。ただ、人の道を外れたクズ野郎さ。

 市長殺しの女の名前はリンダ。生まれはシティの底、グランナ地区。知らない? この国で一番貧しくて、一番治安の悪いところだよ。グランナ地区の人種は二種類だ。男はみんな麻薬の売人で、女は全員売春婦。とてもわかりやすい。くそったれな場所だと思う程度には正気なら、近づかない方がいい。あそこじゃ正義なんてくそほどの価値もないからな。

 リンダはグランナ地区で娼婦の子どもとして生まれた。父親はわからない。よくある話さ。ただリンダがとても幸運だったのは、母親がリンダを見捨てずに育てたことだ。まあ時々忘れられるから、そんときはゴミ漁りで飢えをしのいでた。リンダが処女を失ったのは14歳のとき。ゴロツキの集団に輪姦された。そんでもって18歳で娼婦になった。母親? 行方不明。

 まあこの辺のことはよく知らない。酔ったリンダの過去語りを聞いただけだからな。俺がリンダを見つけたのは、彼女が24のとき。汚れたグランナの路地に倒れてた。普段ならのたれ死んだか襲われたかと思って無視するんだが。そんときはなぜか拾って連れて帰った。理由は覚えてない。たぶん胸元がエロかったからとかそんな理由じゃないかな。

 ぶっ倒れてたリンダだが、連れ帰ったら意外と普通に話せた。とはいえ問題がないわけじゃない。なんでも性病でもう助からないんだとか。まともな病院で治療を受ければどうにかなるんだろうが、それは無理な話。俺は医者でもなければ聖人でもねえから、助けられないし、金のないやつを助ける気もない。それにリンダの方も、悲壮な感じはしなかった。むしろやっと死ねるという安堵が先に来てるみたいだったな。それくらい、彼女は疲れ果てていたのさ。だったらなんで自分で死ななかったんだってか聞いてみたら、自殺は許されないことだと言われた。確かに、この国の宗教じゃそうなってる。リンダには中途半端に信仰心があって、だから自分で死ぬのをためらっていたみたいだ。もちろんそんなんで救われやしないし、リンダ自身も別に救われたいと願っていたわけじゃない。ただ寄り辺になるものが欲しかっただけなんだと思う。

 しかしそんなリンダも、晴れてこの世からおさらばできるってわけだ。記念に何か望みはあるかって聞いてみたら、高い酒を飲みたいなんて言ってきやがった。だが金のないやつに酒を出す気はねえ。すると、なら自分の死体を売ればいいなんて答えられた。内蔵は高く売れるだろうと。悪く無い取引だ。どうせ酒の味なんてわからんだろうし安い酒でごまかすこともできたが、約束通りとっておきを出してやった。異国の酒で、水みたいに透明なんだが酒精は強い。リンダはそれを、水みたいにぐびぐび飲んだ。

 特別な日の呑むために取っといた酒だったんだがな。まあ今日が特別な日だってことで納得したさ。俺の取り分は減るが、喉を鳴らして酒を飲むリンダは色っぽくて、それを拝めたならチャラにできる。手は出さなかったけどな。病気は怖い。

 リンダは遠慮なんて言葉は遥か過去においてきたみたいにどんどん酒を飲んで、空けるつもりのなかった二本目まで飲み干されちまった。でもって、ああうまい、なんて言って、そのまま死んじまった。

 急性のアルコール中毒だ。

 こいつが、俺とリンダの物語。え? 市長殺しはどこ行ったのかって? そのあたりの事情はおまえさんも知ってるだろうに。俺にとっては後日談だが、世間様にはここからが本番だったはずさ。リンダは市長の娘だったんだよ。リンダがどこでそのことを知ったかは知らねえが、彼女はパパに向けて手紙を書いてた。それが明るみになって、世間は大騒ぎさ。シティの市長に娼婦との間に隠し子がいて、しかもそれを捨て置いた。対立する政治家が、めちゃくちゃ責めてたな。針のむしろとはあのことだろう。だけどもうリカバリーのしようがない。何しろ娘はもう死んじまってたんだ。リンダの死体にはいくつも暴力でできたあざがあって、無理矢理注射を刺された痕もあった。結局市長は辞任。次の大統領候補なんて言われてたのが、一気に転落人生さ。社会的に抹殺されたわけだ。ほら? 俺の知ってることなんてたいしてないだろ。後日談なんだから。

 市長殺しの女なんて呼ぶのは大げさ? 悪には格ってもんも大事なんだよ。死んじまったら人の記憶にしか残らないんだから。それに世間様からはかわいそうなんて同情を向けられてるが、俺はそうは思わない。

 リンダみたいに生まれながらに詰んでたようなやつが、自分をどん底に置き去りにした父親をやっつけたんだ。大金星さ。それに俺は、リンダを気に入ってるんだ。あいつの死体は高く売れたからな。




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