綺羅星の目覚め 6
「ミシェル。一つ聞いてもいいかしら」
「なにかな? なんでも答えるよ?」
ルビーの問いかけに、首をかしげるミシェル。
「仮に、私が貴方と婚約したとして。火事や病気で私の美しさが損なわれた時。寝たきりになってしまった時、私が老いてしまった時、貴方はどうするの?」
それは、ルビーの仮説を証明させる質問。
この答えさえよければ、ルビーは目をつぶってでも、ミシェルに嫁ぐ覚悟があった。
だが、やはりと言うべきか。
「君が美しさを失った時? そりゃぁ婚約を解消するに決まっているじゃないか。僕の価値が下がるだろう?」
ミシェルの答えは、ルビーの想像通りだった。
「どうかな。決して悪くない提案だと思うんだけ――」
「お断り申し上げます。というよりも、これ以上私に付きまとわないでくれますか?」
「――今、なんて?」
自分の世界に入ろうとしたミシェルを、ルビーは明確に拒絶する。
「ええお断りいたします。貴方のような、女性を女性と見ないような人間は、まっぴらごめんです」
一瞬でも靡こうとした自分が情けない。
こんな「女性を装飾品」だとしか思っていない男に、自分の純潔を奉げたくはない。
「……いいのかい? ご両親と対立することになるんじゃ?」
ルビーの強固な拒絶に、ミシェルの顔に笑みが浮かぶ。
「ええいいわよ。もとはと言えば、あちらから私を見捨てたような連中。私が無事進級して『紺服』になれば、その身分は準一級士官よ。所詮皇族のあいつらに口出しされるいわれはなくなるわ」
「……僕に逆らうってことは、この学園での居場所がなくなるってことだけど?」
「いいえ。学園での居場所がなくなっても、問題ありません」
ミシェルの脅しを、ルビーは鼻で笑う。そして、ミシェルの鼻先に携帯端末の画面を突きつける。
「【生徒が学園の教育に不満がある際、学生は学外での校外学習を最長一ヶ月許可される】。学校以外で学ぶこともあります」
あのような箱庭でこまごまと生きる生活は、もうまっぴらだった。
笑みのまま動きを固めるミシェルの前で、ルビーはテーブルに伝票を叩きつける。
「餞別として、払っておいてくださる? フラれた腹いせにバカ食いでもすればいいわ」
明確な拒否。ミシェルを受け入れないという強固な意志を叩きつける。
ごきげんよう、と席を立つルビーを、ミシェルの声が呼び止めた。
「ルビーくん。君の意志はよくわかった」
「あら、総長は物分かりも良いようで」
冷ややかな笑みを返すも、ミシェルは笑みを絶やさない。
「ああうんよくわかったよ。君がどれくらい愚かだということもね」
ミシェルは笑みを貼り付けた表情で、ルビーに宣言した。
「来月の進級試験。ただで済むと思わない方がいい。僕を怒らせた罪を、その身の破滅で贖え」
ミシェルは、そう言ってルビーに、●●●●。
*
「もう! 急に通話切ってなに!?」
宿舎の一室。突如として連絡を絶った友人に、部屋着に身を包んだミナは怒り狂っていた。
「まーた一〇分くらい経つし! マジでどこで何してんのあのお姫様は!?」
今朝から学校に姿を現さなかったルビーは、そのまま放課後まで顔を合わせることが無かった。
それを心配して連絡を入れた時には一切反応が無かったのにもかかわらず、急に音声通話を繋いでくるという傍若無人っぷり。
「せめて場所でも言えっての……!」
とっちめてやろうにも、彼女の場所が分からなくてはどうもできない。
はちみつ色の髪をがしがしと掻きながら、ミナはやきもきしながら携帯端末を握る。
と、その時。携帯端末が音声通話を受信してバイブレーションを作動させた。
「! もしもしっ!? アンタねぇ! 急に切るんじゃないわよ!」
音速で通話を起動し、ルビーに追及した。この数分間だけではなく、本当に何があったのかを洗いざらい話すまでは逃さないという態度で。
『ごめんなさい。何があったかだけ先に言うわね』
「どうせ人助けしてたとかでしょ!?」
ミナは心配の苛立ちをそのままぶつける。そして、
『私、総長に喧嘩売ったわ』
「………は?」
電話口から帰ってきたルビーの言葉に、ミナは言葉を失った。
『あと、私。明日から旧市街で暮らすから。よろしく』
言葉を失うミナの前で、ぶっと通話が切れる。数秒の静寂。その直後。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ミナの絶叫が、寮の一室を震わせた。
盛 り 上 が っ て ま い り ま し た
次回から新章突入です。乞うご期待。




