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綺羅星の目覚め 2

序章はだいたい4つで構成されてます。ごゆっくりどうぞ~。

「こら。少しは静かにしろ」


 男性は片目を開け、右手を少年へと突き出していた。

 外套に埋まっていたためにうかがい知れなかった男性の容姿は、存外整っている。

 現れた赤尖晶(レッドスピネル)の眼がじろりと動き、少年を見据える。

 やや幼い顔立ちとは裏腹に、瞳には老獪な輝きが秘められていた。


「お前、なんだよその手……!」


 得体の知れない物を見るような目で、少年が唇を震わせる。

 それもそのはず。少年に向かって伸ばされた右腕は配線が剝き出しの義手だったからだ。

 精緻に組まれている義手の指先には、霊力が圧縮された光が漏れ出している。


「その質問は一〇点だな。見てわかることを質問するのはもったいないだろ? お前が聞くべきは『俺の間違いはなんですか?』ってことだ」


 どこか諭すような男性の言葉に、少年の頬がかあっと怒りに染まる、


「なんだとっ!?」

「ちょ、ちょっと~。やめなよぉ!」


 男性の言葉に少年が激昂するが、少女が顔を真っ青にして少年の袖を引いた。


「あたしちょっと恥ずかしいよ~? 別にこんな子に固執する必要なくなぁい?」

「いや、でもよ……」

「いいからぁ! ね?」


 必死に少年の袖を引く姿は、得体のしれない物から距離を取ろうとする本能的なものにも見える。

 ルビーもその感覚は痛いほど理解できた。ルビーの感じていた得体の知れなさは、また別の物であったのだが。

 

 その場から離れようとする少女と、どこか不機嫌そうな男性の対峙が続くかと思われたその時、ぽんっという音と共にアナウンスが流れはじめた。


『まもなく、雨ノ宮学院西門です。お出口は車両両側になります』


 先ほどと同じく、車両は速度を落とし始める。

 男性の視線が窓の外に向いた瞬間、少年は踵を返してその場から立ち去った。


「ちっ……大人が学生に首突っこんでくるんじゃねえよ」


 少年は捨て台詞を吐いて車両を降りて行った。


「恫喝したのはお前らだろー、ってもういないか。……うん? お前は降りなくていいのか?」

「え、あっ」


 男性に話しかけられたルビーが意識を取り戻すのと、扉が閉じるのはほぼ同時だった。

 本来であればルビーもここで降りなければならなかったのだが、今となっては後の祭りだった。


「ああ……」


 遅刻ギリギリの時間だったため、次の駅で降りて乗りなおしたとしても、遅刻は免れない。

 それに朝の座学はルビーの苦手分野の古文書学だ。

 補習授業のことを考え、ルビーはへなへなと座席に座り込む。


「……何かまずいことをしたか? 俺は」


 男性がおずおずと声をかけてくる。

 ルビーがさぞ落ち込んでいるように見えたのだろう。男性のつり目がちの三白眼も目じりが緩んでいる。


「すまん、都会に出てくるのは久しぶりでな。勝手に首を突っ込んでしまった」

「ま、待ってください。大丈夫ですから」


 深々と頭を下げる男性に、ルビーは狼狽え頭を上げるように促す。


「で、お前は降りなくて良いのか。その制服、アルマゲスト学園のものだろ」

「……このまま行っても遅刻するだけですし。今日ぐらい、行かなくてもいいのかなって」


 学校に向かっても、白服に対する差別や、自分の境遇に対する偏見などが襲い掛かって来るだけだ。

 それに、先ほどの二人組と鉢合わせするかもしれないことを考えると、もう学園に行きたくなくなってしまった。


「五〇点だな。サボるのは良くないが、あんなことがあったら少しくらい気を紛らわせたくなるのもわかる」


 がたがたと揺れる列車の中、どこか暖かい言葉を零す男性に、ルビーは首をかしげる。


「……寛容なのですね? こういう場面であれば、『学校に通う分際で何者だ!』などと言われる気がするのですが」

「『人は真実のみで生きるにあらず。間違いこそ人間の歩みである』というのが俺のモットーでな。真実だけが人を助けるわけじゃないだろ?」

「……それは、間違いに従って生きるのも構わない、というわけですか?」


 男性の言葉にむっときたルビーが言い返すと、男性は満足げに目を細めた。


「いや。間違いを正しいものだと信じろ、というわけじゃねえよ。その人にとっての正しさというのは、結果的に人から見ると間違いであるとこともあるってことだ。だから、不当な差別を正当な手段だと思えと言っているわけじゃねえ。そこは誤解しないでくれ」

「そう、ですか。安心しました。こちらこそ、取り乱してしまって申し訳ありません」


 立ち上がりかけていたルビーだったが、男性の制止に従って席に身体を沈める。

 列車は学園最寄りの駅を通り過ぎ、長い地下道を抜けて地上部へと顔を出していた。差し込む陽の光に目を細め、眼下に広がる景色を眺める。

 高架に登ったところで、街の全容が見えた。


 規格が完璧に整えられた建物が、碁盤の目のように並んでいる。

 流体金属と固定術式のおかげで寸分狂いがない建物が建築できるようになったと、学園で見る教育用動画で言っていた気がする。

 その向こうには、遠く広がる白い雲海が。

 見渡す限りのこの都市は、空に浮かんでいるのだ。


 超弩級浮遊都市イェツィラー。

 それが、二千万人の人々が暮らすこの都市の名前だ。

な、なんだってー(出落ち)

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