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◆九月十二日 午後四時十三分―――室月中学校 特別教室棟 生徒会室




「――――というわけで当日の人為配置の変更点は以上。続いて白聖祭最終日の後夜祭についての変更点だが、当日は――――」




 目の前には生徒会メンバーと、その他補助要員に各クラスから選ばれた――もとい推薦された文化祭の運営委員のメンバーの顔ぶれが並んでいる。



 真剣に俺の話を聞いている者、他人と小声で内緒話をしている者、一番前で、なお且つ唯一立ち上がって喋っている俺にはその全容が丸わかりであった。



 その割合は丁度半々といったところか、前者には元々の生徒会メンバーの顔触れが多く、そして後者には推薦により、一時的に各クラスから選ばれた委員のメンバーが多いような気がするが、まあそれはいつものこと。



 学園祭の運営委員会になるということは、激務までとは言わないまでも、それなりの重労働が待ち受けている。



 そんなところであるが故、犠牲のようにクラスメイトの推薦によって、半ば嫌々に入ってきた者たちにとっては、やはりというか、真剣に取り組む気にはなりづらいのだろう。




 まあ取り合えず、今無駄話をしている奴らの顔は覚えたので後で注意しておくことにするとしよう。




 俺はそんなことを密かに考えながら、皆に伝えるべき文化祭の変更点を淡々と口にしていた。




 と、不意にそんな二系統のうち前者に属していたものの一人が、静かに席を立つ。



 そいつは一瞬俺へと視線を投げかけ、静かに生徒会室を退出していった。



 この部屋は生徒会室などと大々的に銘をうっているが、その実一般教室の造りと何も違いはない。



 なお且つ出て行った人物の座っていた席というのが最後列の廊下側であったこともあり、そいつの退室には俺以外の誰一人気がつくものがいなかった。




 俺はその人物の退室については特に何を言うつもりもないので、微塵も口調を変えることなく説明を続ける。



 というか、あいつが今から行うことはただのクラス回り、各クラスへの備品の分配が正常に行われているかを確かめるという、ただそれだけのことだ。



 本来ならば今この時、運営委員会の最終の打ち合わせ会議の最中に行うべきことではないのだが、演劇の監視という仕事が増えたおかげでそれを行っている暇はなく、苦渋の選択により、今この時にあいつに行って貰わなければならない羽目になってしまった。



 誰でも出来る簡単な仕事であり、それゆえに誰も進んでやりたがらない、あいつが今からしようとしているのはまさにそんな仕事。



 はっきり言うところの雑用。



 本来ならば俺達純正なる生徒会メンバーがしなければならない仕事なのだが、人が良いあいつは皆が渋る中、苦く笑いながら自分がやると名乗り出てきた。




 教室を出て行った人物の名は霧生(きりう) (ぜん)



 ともとの生徒会メンバーではなく、各クラスから一人づつ選ばれる運営委員の補充要員であり、補充要員でありながら唯一推薦ではなく立候補によってこの運営委員に参加している変わり者。



 運営委員への参加意欲は十分ということらしく、その証拠に霧生の奴は下手をしたら純正たる生徒会メンバーよりも仕事をこなしていたりする。



 大人しく普段は際立って目立つことはないが、その人の良さから他人に良く頼みごとをされている姿を目にすることも少なくない。




 良くいえば優しい何でも屋さん、悪く言えばていの良いつかいっパシリ。




 だが、その実案外筋はきっちりと通す性格らしく、昼間の体育館の一連の事象のような行動をしばしば起こすことがある。



 そして何よりあいつの凄いところは”やり遂げてしまう”ところだろう。



 あいつは、初めて行うことであったとしても渋ることなく手を出し、たどたどしくも、人一倍時間をかけながらも、必ず完遂して見せるのだ。

 



 まあ、そのせいで余計に他人から頼みごとをされてしまうという、根っからの苦労人でもあるわけなのだが……




「――そういうわけで当日の人員配置場所の変更をする必要が出てしまった。すまないが誰かにここに入ってもらいたいわけだ。当然その時間帯が空いているという者が好ましいのだが……誰か何か意見はないだろうか? 立候補は勿論、推薦も許容しよう、とりあえず何か案のある者は挙手願いたい」



 

 俺は思考を元に戻しながら、この場に残る者たちへと質問を投げかけた。



 俺の問いかけに対し、真面目に話を聞いていた者たちは悩む仕草を見せ、そうでなかった者たちは若干あわてた様子で「今って何の話だった?」と周りの者たちに確認をとりだした。



 そんな様子から待つこと約二十秒、その間、生徒会室には忙しない話し声が満盈するのだが、挙手するものは一向に出てこない。



 

 ……当たり前と言えば当たり前なのだろう、誰だって好き好んで余計な仕事を引き受けたがる訳がない。




 結局、白聖祭運営委員などと大々的に銘打っていたところでこの程度、俺は密かに溜息を吐きだした。




「……――意見がないのなら、こちらで勝手に決めさせて貰うが、それでいいか?」




 俺の一言を聞いて、運営委員たちはほんの少しだけ嫌そうな顔を露わにする。自分の耳に意識を傾けてみれば教室の至る所から「お前がやれよ」「何で俺が」などの声が聞こえてくる。



 事なかれ主義も結構だが、こうもあからさまな態度で示されると最早呆れてしまう。




 全く……やれやれだ。

 



 俺は気を取り直し、何気なく生徒会室を見渡してみた。




「――ん?」




 そしてあることに気がつく。



 目につく範囲でもチラホラと、何やら忙しなく辺りを見渡している者たちが数名。それはまるで何かを探しているような仕草。



 その視線はこころなしか教室通路側の最後列へ向けられる回数が多い気がした。




 ……ああ、なるほど、分かってしまった。それはあいつが何時も座っている席だ。



 不思議な存在感だと思う、その場に居ると誰にも気付かれないくせに、いなくなった瞬間にすぐに気付かれる。



 それはすなわち、皆があいつを無意識に頼っているということだ。




 心がざわめく、密かに考えてしまう。面白くない、と――――




「言っておくが、俺と副会長、それと霧生は除外だぞ? 当日のその時間帯は開いていないからな」




 俺がそれをいった瞬間、辺りを見渡していた者たちは気まずそうに俯いた。




「それじゃあ当日は木村君と――あとは、古島さん、二人にお願いする。何かは問題あるかい?」




 俺はあらかじめピックアップしておいた二人を指名した。



 指名された二人は、うぇっ!? と実にいやそうな声を上げるも、反論はしてこなかった。



 まあ、この二人が当日フリーであることはすでに調べて、その上での選択であるから、反論が出ないことも分かっていたことである。




「問題はないようだな、それじゃあ委員会はこれで終わりだ。明日から白聖祭が始まるのだから、皆気を引き締めてくれよ?」




 俺はその言葉でとりあえず委員会を終わらせることにした。



 今日は放課後の部活動は須らく禁止されているので、この場にいる運営委員の殆どがこれにて帰宅することだろう。




 だが、俺にはまだやることがある、いや、むしろ俺にとってはここからが重要だったりする。




 俺は大きな期待と不安を同時に抱えながら、皆に続いて生徒会室を後にするのだった。





試験的に行間を少し大きくしてみました。

どうでしょうか?

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