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◆室月中学校 普通教室棟 3-B--SceneⅥ 城嶋の在り方




 思わず俺は頭を抱え、床に膝をついていた。



 頭が痛い、燃えるように熱い。無茶をしたためその反動が一気に来た。


 

 それもこれも霧生の予想外の行動のせいだった。



 まさかあの場面であんな小細工をしてくるなんて本当に予想外。



 正直、魔法の発動は間に合わなかった。



 だけどあのままでは水鳥さんのもとへあいつの手が届いてしまう。



 それは――其れだけは、俺には許容できなかった。



 だからこそ、霧生の奴に魔力”そのもの”をぶち当てるという無茶をしたのだ。



 平常時、魔力は何らかの術式を発動させる事しかできないものだが、大量の魔力は高密度に圧縮させると、ただそれだけで質量をもつ事が実証されている。



 つまり俺はあの時、魔法を組み上げる事が間に合わない事を悟るや否や、速攻で大量の魔力を圧縮して霧生にぶち当てたのだ。



 だが、この行為は正に諸刃の刃、大量の魔力を一気に運用しなければならないため身体への反動が予想以上にでかい。



 ハッキリ言って少しの間魔法の使用はできそうになかった。



 視線を巡らせれば、床に倒れ伏した水鳥さんと霧生の姿が目に映る。



 どうやら霧生の奴も動ける状態にはないようだ。



 やっとあいつの動きを止める事が出来たのに、この体たらく。



 やっぱり俺のやる事は上手くいかないらしい。



 俺に霧生のような”才能”があればこんなふうには成らなかっただろうに。




「……霧生、俺はお前が羨ましいよ」




 思わず本音が俺の口からこぼれていた。



 見れば霧生の奴は心底不思議そうにこっちを見てくる。




「……何故ですか? なんで貴方は僕をそんなに羨むんですか? 城嶋さんは何でもできるじゃないですか、貴方は正に”天才”だ。『天才』って言葉は正に貴方のような人のためにある言葉だと、僕は思っているのですけど」




 ”天才”、その言葉を聞いて俺は思わず笑ってしまった。 




「天才? 違うね、俺は間違ってもそんな人種じゃない、俺は凡人だ。何でもできる? 違う、おれは”出来るようになった”事しかできない」




 霧生の奴が訳が分からないとでも言いたそうな表情をしてきた。



 だが、それは言葉の通り、それ以上でもそれ以下でもあり得ない。




「俺はね霧生、何でも”一番”になりたかった。いや、何でも一番にならなければ”気が済まなかった”と言った方が正しいのか、とにかく俺は俺自身の魔法(二分割思想)によって”一番”という事柄を強く求めるようになっているのさ。いや、違うか一番になるために我が家の魔法は作り出されたといっても過言じゃない。――俺の魔法は空間中の魔力を利用する、言葉にしてしまえば其れだけだが、つまりそれは他人から力を搾取しているに他ならない、つまり”他人から奪ってでも一番になれ”それが我が家の魔法の原点だ」




 教室は随分と静かになった、霧生も水鳥さんもどうやら俺の言葉を聞きいっているらしい。




「……だけど俺は、この力(魔法)が大嫌いだった」




「――え?」




 霧生が唖然として聞き返してくる。




「意外か? だがどう思われようとこれが俺の本心だ。他人から奪って何の意味がある? 俺自身の力で勝ち取るからこそ意味があるんじゃないか、俺は常々そう思っていた。そう思ったからこそ俺は頑張れた。俺には秀でた才能はなかったけど、だからこそ何もかも一生懸命にやったんだ」




 陸上大会のために血反吐が出るほど走りこんだし、睡眠時間をギリギリまで削って試験勉強に明け暮れた。



 両親に頼みこんで様々な分野の専門家を家庭教師に呼んだりもした。



 とにかく俺はありとあらゆることを一生懸命こなしてきたつもりだった。




「小学校を卒業するまでかな? それまでは何をやっても一番だった。努力をすればしただけ結果が残せた。だからこそ、俺の努力これは無駄じゃないんだって思う事が出来たんだ。だけど、それは中学に入ってからどうしても難しくなっていった」




 勉強では水鳥さんがいた。運動では霧生がいた。



 俺はどんな事でも人並み以上にこなせたが、どれもが一番になれなかった。



 マラソンに例えれば分かりやすいかもしれない。



 つまり俺は皆より若干速くスタートして、皆より早い段階で距離を稼いでいるにすぎなかったんだ。



 そう、だからこそ本当に走るペースの速い人間には、何れ追いつかれ追い越されてしまうんだ。




 ……今思えば、水鳥さんに心惹かれる切欠は、彼女が”一番”だったからなのかもしれない。




 勿論、この事がなくても彼女には惹かれた自信はある。



 でも水鳥さんならあきらめがついた。



 性別が違ったし、なにより彼女が好きだという事実があったから諦めがついた。



 俺の一番である彼女を手にできれば、俺はまだ救われたんだ。



 だけど、それはうまくいかなかった。




 水鳥さんには霧生がいたから――




「足場が少しずつ減っていくんだ。今まではずっと必死に足場を増やそうとしてきたのだけれど、減る速度の方が急に速くなってさ。最初はその足場を使って手を伸ばすつもりだった。ずっと欲しかったものに、そう。そばにあってずっと届かないもの。ずっと他の誰かのものだったもの」




 そう、だからこそ、霧生には勝ちたかった。



 でも――今まで積み上げてきた方法では、結局霧生には勝てなかった。



 一番になって独占したかったのに、どれだけ練習しても結局勝てなかった。




「でも、やっぱりお前は才能あるものだった。俺の努力はお前の”他人からの頼みごと”にさえ勝てなかった。結局俺の努力って一体何なんだったんだ? 本当に欲しいものに手が届かないだけじゃなく、今まであったものを繋ぎとめておくことすらできない。おれのやり方は失敗だったんだ。全部失敗だったんだ――」




 結局、俺は間違っていた。結局、俺の魔法の原点の方が正しかったんだ。



 俺の大嫌いだったこの力(二分割思想)こそが――




「だからこそ、俺は才能あるお前が――羨ましい」




 ――だからこそ、俺はお前から奪う事を決めたんだ。





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