プロローグ
まずはじめに、この小説はとある掲示板にて掲載していた小説になります。
このたび完結になりましたので、これを機会に此方にも投稿してみようと思った次第であります。
投稿頻度は毎日一更新程度を予定(手直し等したいので)。
また、この小説の世界観は茜丸様の【裏切り者と追う者】と似通ったものになりますが、そもそもこの小説自体が、以前投稿していた掲示板でのリレー小説からのスピンオフの様な作品ということで、茜丸様には世界観使用の許可は事前にいただいてあります。
読んでくださる方はそれをまずご了承ください。
例えば、そうですね・・・・・・
これは僕が自転車で買い物に出かけた時の話です。
日曜日の昼下がり、僕はそのとき欲しい本があって本屋に出かけようと思いたちました。
しかしながら、僕の家の近くには本屋というものがなく、我が家から本屋まで自転車で片道三十分という微妙な距離。
それが長いか短いか、それを決めるのは個人の判断なのでしょうけど――少なくとも僕は出かけ間際、そのことについて少々愚痴を吐いていたような気がします。
ですけど幸いな事に、その日は晴れと確実の呼べる天気であったものですから、自転車を走らせているその最中には別段の不満もなく、順調に本屋へとたどり着きました。
そしてその帰り道、きた時に三十分かかったという事は、帰りもそれと同程度の時間がかかる帰り道を、行きよりも若干遅いくらいの速度で自転車を走らせる僕、すると指しかかった交差点で信号待ちという名の足止めを食らうはめになってしまったのですが……
そのときでした。不意に目の前からその言葉を投げかけられたのは。
「真面目だね~~」
顔を上げる僕、目の前に飛び込んできたのは、紙袋と小さなバッグを手にした初老くらいのおばあさんが、自分と同じく信号待ちをしている場面。
見たところ徒歩であるようです、まあ、その交差点の近くにはバスの停留所がありましたから、おそらくそれの利用者だったのでしょう。
ですが、その言葉を投げかけられ、初め僕はそれが何の事に対してなのか、はっきり分かりませんでした。
「そうですか?」
そのとき出た言葉は、正に反射。
ですが、その言葉を口に出した後に、はじめて気がつきました。
恐らくおばあさんは、僕が信号に従い歩みを止めている事に対してそれをいったのだということに――――
なにせその場所と言うのが、車の交通量は少なく、はっきりいって何故こんな場所に信号機を配置したのかと、設置した者の思考を疑いたくなるような交差点でありましたから。
しかも警察官も滅多に巡回しない場所であるものですから、リレー制御によって四六時中変化しているその信号機の指示に従うものは殆ど居らず、自転車、歩行者に関しては最早あってないようなものだったのです。
おばあさんが信号待ちをしているところを見ると、恐らくその人はそういった決まりごとには厳粛な人なんでしょう。
確かに僕も交通ルールは守る方だとは思いますけど、この時の僕は、後は家に帰るだけで別段急ぎの用もなく、故に素直にその信号の指示に従い自転車のブレーキを握っただけのこと。
おばあさんのように厳格なルールがあるわけではありません。
だというのに、おばあさんは僕の反射の言葉を聴いてか、ニコニコと笑い出しました。
ですがそれは多分勘違い。
恐らくおばあさんは、僕の「そうですか?」と言う言葉を、信号を守るのは当たり前の事ではないでしょうか? と言うようなニュアンスだと判断したのでしょう。
あの笑顔は、若者に自分と同じものがいると、まるで同属を見つけた事による歓喜、そんな感じでした。
しかしながら、僕は思います、自分は決して真面目ではないと――――
僕の中において真に真面目なやつという”人物像”は、この様な場合、信号で止まった後に自転車から降り、手押しで横断歩道を渡る人のことだと思っていますから。
だからこそ、僕はその「そうですか?」の言葉に続き、それをそのまま口にしようとしたんです。
だけど、そのときには信号が赤から青へと変わっていたようで、呆けていた自分と違い、そのおばあさんは、すでに横断歩道を半ばまで横断しかけていました。
僕は、声をかけるタイミングを逃してしまったのです。
ですから、用意した「本当に真面目な人っていうのは、自転車を下りて信号待ちをする人のことをいうんですよ」という言葉はいえず終い。
そして、それ以降信号待ちに一度も捕まることなく、僕は家へと帰っていきました。
……長い話になってしまいましたね、それに結局何が言いたかったのかをしっかり説明できてもいないような気がしてきました。
要領が悪くて、すみません。
結局何が言いたかったかと申しますと、物事の”基本”やら”基準”、はっきり言った所”常識”とは一体何から成っているのだろうということです。
今話したものは「真面目さ」についてこと。
僕が考える「真面目さ」とお婆さんの定義する「真面目さ」、確かに見ず知らずのお婆さんでしたが、彼女と僕との考え方にはこれだけの違いがありました。
そもそも、今しがた語ったこの場面での判断は僕基準ですから、もしかしたらその考えさえも真実から外れているのかもしれません。
人と言うものは、時として”常識”であり”非常識”でありますね。
では、人は初めから知らずの内に”非常識”を手にしていた場合……一体どうなってしまうのでしょうか?
これから始まるこのお話は、継続魔法という”非常識”を持つ僕が対面し、体験し、死に掛け、そして自分のあり方を変えた一つの事件。
僕自身、偽ることに慣れ始めたその当時に起こった。とある人間の暴走劇。
あ、勿論その”とある人間”というのは僕のことではありませんよ? 僕は確かにそれ関わった一人ですけど。端的に得言えばそれだけのこと。
まあ兎に角、ここで僕がぐだぐだと説明していたところで埒が明かないので、そろそろ僕は口を紡ぐ事にします。
さて、チッポケで脆弱であった当時の僕が、ほんのちょっとだけマシになれたというそんなお話を、お耳汚しになりませぬようにと祈りつつ、お送りいたしたいと思います――