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誠実さと他者

作者: ごはん
掲載日:2025/08/01

小さな町に住むルイは、いつも人に丁寧すぎるほど丁寧だった。

頼まれごとは断れず、言いづらいことも笑顔で受け流す。

「嫌われたらどうしよう」

「迷惑だと思われたくない」

そんな思いが、心の中で静かに彼を追い立てていた。


ある日、親しい友人にお願いごとをした。

けれど返事はなかった。

数日たっても既読のまま、言葉は返ってこない。


「やっぱり迷惑だったかな」

「もっとやさしく言えばよかったかな」

自分を責める声が、胸の中でざわざわと波打った。


その夜、ルイは町外れの小さなカフェでひとりココアを飲んでいた。

窓の外では風が木々を揺らしていて、どこか心に似ていた。


そこへ、ふいに声をかけられる。

「静かな夜ですね」

隣の席にいた年配の女性が話しかけてきた。

彼女は、どこか穏やかで、見知らぬ人なのに話したくなる空気をまとっていた。


ルイはぽつぽつと、返事のこない不安を話した。

それを、女性は遮ることなく、ただ静かに聞いてくれた。


やがて彼女はこう言った。


「誠実ってね、相手に何かを求めるために使うものじゃないの。

自分が、自分とズレないようにするためのものなのよ」


ルイははっとした。


「誰かに伝えた誠実さは、それだけでじゅうぶん。

返ってこないからって、その価値がなくなるわけじゃない。

返ってこないなら、それはただ”届かなかった”だけなのよ。

それ以上でも、それ以下でもないわ」


その言葉は、ルイの胸に静かに染みこんでいった。

まるで、風が心の波をなだめるように。


帰り道、ルイはもう一度、自分が送ったメッセージを思い返した。

そこには、やさしさがあった。

誠意があった。

そして、なによりも「自分のままでいよう」という意思があった。


誰かの反応に価値を委ねるのではなく、

自分の中にあるものを、まっすぐに見つめること。


それが「誠実」であることの、本当の意味だった。


夜風が頬を撫でる。

ルイはそっと微笑んだ。

返事がなくても、大丈夫だと思えた。

なぜなら——

そのままの自分でいたことを、誇れるから。

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