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誠実さと他者

作者: ごはん

小さな町に住むルイは、いつも人に丁寧すぎるほど丁寧だった。

頼まれごとは断れず、言いづらいことも笑顔で受け流す。

「嫌われたらどうしよう」

「迷惑だと思われたくない」

そんな思いが、心の中で静かに彼を追い立てていた。


ある日、親しい友人にお願いごとをした。

けれど返事はなかった。

数日たっても既読のまま、言葉は返ってこない。


「やっぱり迷惑だったかな」

「もっとやさしく言えばよかったかな」

自分を責める声が、胸の中でざわざわと波打った。


その夜、ルイは町外れの小さなカフェでひとりココアを飲んでいた。

窓の外では風が木々を揺らしていて、どこか心に似ていた。


そこへ、ふいに声をかけられる。

「静かな夜ですね」

隣の席にいた年配の女性が話しかけてきた。

彼女は、どこか穏やかで、見知らぬ人なのに話したくなる空気をまとっていた。


ルイはぽつぽつと、返事のこない不安を話した。

それを、女性は遮ることなく、ただ静かに聞いてくれた。


やがて彼女はこう言った。


「誠実ってね、相手に何かを求めるために使うものじゃないの。

自分が、自分とズレないようにするためのものなのよ」


ルイははっとした。


「誰かに伝えた誠実さは、それだけでじゅうぶん。

返ってこないからって、その価値がなくなるわけじゃない。

返ってこないなら、それはただ”届かなかった”だけなのよ。

それ以上でも、それ以下でもないわ」


その言葉は、ルイの胸に静かに染みこんでいった。

まるで、風が心の波をなだめるように。


帰り道、ルイはもう一度、自分が送ったメッセージを思い返した。

そこには、やさしさがあった。

誠意があった。

そして、なによりも「自分のままでいよう」という意思があった。


誰かの反応に価値を委ねるのではなく、

自分の中にあるものを、まっすぐに見つめること。


それが「誠実」であることの、本当の意味だった。


夜風が頬を撫でる。

ルイはそっと微笑んだ。

返事がなくても、大丈夫だと思えた。

なぜなら——

そのままの自分でいたことを、誇れるから。

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