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魔法使い殺しの空賊紀行  作者: P吉
薄氷の少女
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 ユーリらがカルカモナ村を離れた数刻後—数隻もの魔導飛空艇が空を覆っていた。ぎっしりと飛空艇が列をなして浮かび、鋼鉄の船体で青空は本来の青さを失っていた。飛空艇の駆動音が辺りに響き、森をおどろおどろしく揺らしていた。


 辺境の村を訪れたのは黒い団服に身を包んだ帝国軍令部直属特務空挺船団、そしてその第一師団の面々であった。帝国が各地に巡回するように配置した索敵機が()()()()を感知したため、即座に軍令部本部に伝達、そして本隊が現着した。


「さすがにもうおらんか!ガッハッハ!」


 一際目立つ大柄の男—歴戦の経験を感じさせる屈強な肉体はその場にいるだけで辺りを圧迫させるほどの存在感を放っている。

 他の師団員が村の隅々まで探し回る中、大男ともう一人気怠そうに倒壊した家屋に腰掛ける対照的な小柄な師団員の姿があった。


「ダモン隊長~。もうあいつら居ないですって~。帰りましょうよ~」


「弱音を吐くなサイカー。ここでの調査が|無空の蛇()()()()の動向を探ることができるんだ」


「動向探る必要あります?()()が脱走して2ヶ月くらい立ちますけど、行き先は大体分かるでしょ」


 サイカーは気怠そうに崩れた廃材を慎重に積み上げる。もはや相手の話を聞く態度ではない。生意気な口振りをする部下であるが、あながちサイカーの推測は外れてもいない。

 突如として、星の子戦争締結の条件として拘留中であった星霊族次期当主候補のユーリ・ストラスフィアが数名の帝国軍の人間によって連れ去られてしまったのだ。計画的な犯行に帝国軍はまんまと出し抜かれてしまい、今日に至る。その者たちは自らを、無空の蛇(ヨルムンガンド)と名乗り、空賊として帝国に対して正式に反旗を翻した。

 当然、帝国側は最重要人物のユーリを奪取されたなど公表することも出来ず、水面下での捜索に留まっている。しかし、無空の蛇の目的地は誰が言わずとも分かりきっている。

 星霊族の本拠地——世界樹ユグドラシルの麓にある始まりの地、ギンヌンガ・ガップ。無空の蛇が後ろ盾を得るのは星霊族しかいない。何故ならば、それ以外の種族は星の子戦争の発端となった星霊族に印象を持っていないからだ。


「たしかにあいつらの最終地点は分かりきっている。だがな、帝国側がギンヌンガ・ガップに容易に近付けないように、あいつらも同じ」


「え、なんですっか?」


「姫様が逃げ出したことを公表してないからだ。いきなり姫を連れて現れた人族を快くは思わんだろう。それにギンヌンガ・ガップは広範囲の結界に隠されている。あそこに向かうにも”案内人”が必要だ」


「じゃあ、あいつらはその”案内人”と接触するってことすか?」


「まあ、そうだろうな」


 星霊族は星の子戦争以来、身を潜めるようになった。元々、表舞台に立つ種族ではなかったが、イシュタル全土を巻き込むほどの大戦を起こし、世界樹の守り人として魔法の祖とされる星霊族が人族に敗戦してしまった事実がかなり立場を悪くしてしまった。それによりギンヌンガ・ガップごと広範囲高度結界魔法「迷いの霧」で”案内人”なしでは辿り着くことができなくなってしまう。


「でも”案内人”なんてどこ居るか分からないし、あいつらと”案内人”探し当てるなんて無理ゲーじゃないすか?」


「それは違う、”案内人”が出てくるなら話は別だ。さっきも言ったが、星霊族極端に表舞台に出ることを控えている。しかし、それでも姿()()()()()()()()()があるんだ。」


「へー、そんなところあるんすか?」


「聖都イズペア。”ミーミル教会”が運営する巨大都市だ」


 ”本来人族は魔工学に頼らずとも、繫栄することが出来る。”を理念に内に宿る魔力や魔法を底上げし、人族の権威を高めていくことを思想にしている人族最大宗派のミーミル教。

 魔工学を否定するということは、帝国に対して敵対心を持っているということ。帝国領域内ではあるが容易に手出しできない都市は魔工学を嫌う星霊族としても警戒の意図を緩めれる唯一の場所。

 ギンヌンガ・ガップへの道標、”案内人”も姿を現しやすいと言えるだろう。


「無空の蛇が”案内人”と接触するタイミングでお嬢を確保する」


「無空の蛇の奴らは?」


 ダモンはサイカーの問いかけに考えるようにして首を傾げた。サイカーはその訳に気付いていたが、口には出さなかった。サイカーは積み上げた廃材を指で弾くと、バラバラと崩れていった。


「――無論。殲滅だ」

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