#6 花火を見ているときに
「はぁ……、遅いなぁ」
溜息交じりに呟く。真っ暗な空を見上げながら、好きな男が戻ってくるのを待つ。
数日前、私は好きな男と共に花火大会に行く約束をしていた。その彼は私と行くのを少し躊躇っていたような気がするが、いざ当日、二人で歩いてみると彼はとても嬉しそうな表情だった。
ただ、彼はまだ私の好意に気づいていないようだけど。
私は彼のことが好きだ。どこが好きだとか、どういう性格が好きだとか、そういう理由は全くと言って良いほどない。いわゆる一目惚れというものなのだが、正直この一目惚れに私自身懐疑的なのだ。なぜかって、以前、この一目惚れに私は酷い目を遭わされたからだ。
数年前、私は背丈が高くて容姿が整っている男を好きになったことがある。その男と共に私は花火を見に行ったことがあるのだが──、その夜に、私は彼の獲物になったのだ。
つまり──彼にとって、私はただの《セフレ》に過ぎなかったのだ。
そのことに私は酷く傷つき、あれ以降あの男とは一度も顔を合わせたことがない。というより、会わないのが普通だ。
今度の一目惚れは本当に大丈夫なのだろうか──。本当に、私の事を好きになってくれるだろうか──。
そう思っていると、待ち続けてきた相手が戻ってきた。その彼は両手にアイスクリームを持っており、彼の表情は笑顔で満ち溢れていた。
──眩しい。
「待った?」
「ううん。それ」
「あ、これ?」
そう言い、両手に持っているアイスクリームを少し上げた。両手に持っているうちの片方を私に差し出すと、それを私は受け取る。
「買ったの?」
「うん。待ってるだろうなぁって」
「え、あ、うん。ありがと」
と言い、私はアイスクリームを一口舐めた。甘い味が口の中いっぱいに広がり、甘い匂いもまた鼻腔内に広がる。
「どう? 美味しい?」
彼は自分の鼻にアイスクリームを付けたまま言った。その所作を見て、私は微笑んだ。
「ついてる」
「え?」
「ほら」
私は彼の鼻に触れた。ちょこんと、優しく。
その一瞬。彼と私との距離が縮まる。
胸の内が熱い。
彼のことが好きだけど、
なんでか、なんで、胸の内が熱くなるんだろう。
どうしてだろう。
なんで──。
このまま──私は彼と一緒に居たい──。
気づいたら、私は彼の口にも自分の口を近づけていた。