#5 出かけている時に
「ねぇねぇ、これ買ってよ」
そう言って、私の子どもは大きな玩具を私に差し出してきた。カートを押しながら、傍でおねだりをしている子どもを見る。
「それ……高いよね」
「ううん! ほら」
と言い、子どもは玩具の値段を見せつけてきた。五千円以上はかかる玩具だった。
──高っ!
「買いません」
「えー」
「そんな高い玩具、お金がもったいないです」
「もーーーー」
拗ねたのだろうか。子どもはどこか走り去っていく。その様子を一度足を止めて子どもの小さな背中を見ていると、突然「えいっ!」と声がした。パッと振り返ると、そこにはカートの中に子どもが先程の玩具を入れているところだった。
私は慌てて玩具をカートの外にほっぽり出すと、子どもが頬を膨らませた。
「なんで!」
「なんでじゃないの」
「なんで!」
「だって、こんなの買ったって結局は遊ばないじゃん」
「えーー、なんで」
「ほら、戻しに行きなさい」
拗ねている子どもを目にしながら、私は玩具を子どもに渡して元の位置に戻すよう促した。諦めたのか、それとも目当ての物が買って貰えなくてしょんぼりとしているのか、小さな背中が更に小さくなっているような気がした。
──流石に言い過ぎたかな……。でもあの玩具高いし……。
自分の子どもを横目で見つつ、自分の財布を取り出して中身を見た。そこには今月の食費である一万円札がそこにはあるが、それは玩具代として用意されてはいないものだった。
「あるじゃん、お金」
「え、へぇっ!?」
いつの間にか子どもに見られていた。慌てて財布を自分の鞄に戻すと、ジトッとした目つきで子どもが見てくる。なんか、冷たいんですけど。
「欲しいんだけど」
「……」
「欲しい」
「…………」
「欲しい!」
「………………」
──ヤバい、このままじゃ欲しいコールが過熱する。どうしよう。どうすれば。
そう思った先、パッと周囲を見渡すと、見知らぬ親が子の額に対して自分の口を近づけている瞬間を見てしまった。その光景を暫し見ていると、「欲しい! 欲しい!」と地団駄を踏んでいる子どもの声に現実に呼び戻された。
子どもに視線を向けた。
──もう、これで良いのかな。
そう思って、私は自分の子どもの額にキスをした。