#4 全校集会の最中に
「続いては校長先生のお話です──」
集会の司会を務める教頭先生の言葉を合図に、校長先生が壇上へ上がって全校生徒の目の前に立つ。バーコード状となってしまった髪型を始め、顔の皺などを見て年齢を感じさせる容姿だなと私は思っていた。周囲を見渡すと、私が受け持つ三年二組の彼らの姿が目に映る。皆、座って真剣に座っている人もいれば、真面目に聞かず誰かとヒソヒソと話している人もいる。
──はわぁ……。
朝の集会って、なんでやるんだろ。座っている生徒はまだ良いけど、私たち先生はずっと立ちっぱなしで校長の話を聞くのは辛い……。早く終わって欲し……。
そんなことを思いながら校長の話をボーッと聞いていると、「すみません」、と隣から話しかける。ふと横を見ると、そこには異動して数ヶ月しか経っていない男性の教師がそこには居た。
凜々しい顔立ち。塩顔でイケメン。生徒にもてそうな性格。
「どうされましたか?」
生徒には聞こえぬよう小声で話をすると、彼は「この後、学年で少し話があるらしいです」と言った。
「学年で? 誰か話すの?」
「まあ。主任の先生が受験のことで話すらしいです」
そう言い、彼は強面の男性教師にチラリと視線をくべた。その教師は眉間に皺を寄せながら校長の話を聞いていた。
「……そう」
そう言い、私は元の位置に戻ろうとした瞬間だった。
「待って」
咄嗟に私の手首が掴まれた。その主は先程の彼だった。
「……?」
首を傾げた。まだ何かあるのだろうか。
そう思って、彼の顔をジッと見つめていると、「……ここだと、周りの目線が気になるから」と私の手首を引っ張って体育館を出た。
「どうかされたんですか」
彼が私の手首を離した否やそう言うと、「○○先生って、い……い、今」と恥ずかしそうにその男性は言いかけた。
──……これ、もしかして告白されかけてる?
まさか、職務中に告白? え? まさか……え?
内心ドキドキしながら、同時にある思いも頭の中に浮かんでくる。
──でも、教師の仕事で今精一杯だから恋人は良いかなぁ。
「ごめん」
「……え」
「告白でしょ、それ」
「…………分かりました」
あっさりと引き下がる彼。まあ、私もあまりこの人のことが好きではなかったし、タイプでもなかったんだから、別にいっか。
そう思い、体育館に戻ろうとすると、私の手首を誰か掴む。後ろをパッと振り返ると、先程の彼が頬を赤らめながら顔を下に向けていた。
そして──次の瞬間。
「…………え」
彼が私に唇を捧げたのだ。
「……ごめんなさい」
──なんで。
──なんで、キスを。
──なんで、キスなんか。
──したの。
胸の内が徐々に熱くなる。自分でもこの動き、止められないような気がする。
ああ。このまま──
このまま──彼と一緒に居たら──。
そう思って、私は彼に口を近づけた。