#1 ずっと居たいから
芳醇な香りが彼女の身体から匂ってくる。その香りが僕の鼻腔を掠めた。
距離が近い。僕と、立派な顔立ちな彼女が見つめ合っている。
緊張。
それと同時に、ドキドキ。
口先が震える。
指先もまた、震える。
どうしてこんなに震えているんだろう。
ドキドキしてるから? 緊張してるから? 二人で静かに見つめ合っているから? 多分、どっちともだろう。言葉では言い表すことが出来ないほど、僕は今、彼女のきゅるりんとした瞳を見てドキドキしている。
「……しよ」
彼女が僕に優しく囁いてくる。頬を少し赤らめていた。
「もう……夜遅いし、帰るの、というより、終電、逃すと面倒臭いし」
そう言って、彼女は壁掛けの時計にチラリと目線を向けた。
夜の十二時だった。
そんな時間だったんだ。
と思うと同時に、
まだずっと居たい。
そう思う気持ちが強くなる。
「…………しよ」
もう一度、彼女は僕に向かって優しく囁いた。その優しい誘惑に誘われるかのように、僕は彼女をソファに座らせた。
僕と彼女は、静かに見つめ合う。
芳醇な香り。
子どものような、あどけなさが残った顔つき。
胸が熱い。
このままずっと居たい。
ずっと居たいから、
ずっと─────
僕は彼女は抱きしめた。
そして、僕は彼女と口を合わせた。