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気がつくと、燭台の明かりで、暖かいベッドの上にいることがわかる。
どこだ……ここ?
ぼくは道路で……?
道路で……何をしていたんだっけ?
ぼくは確かそこで転んで、水たまりに顔をぶつけて……。
それから……。
あれ?
なんだろう?
自分の名前は秋野 憲一。
確か道路にいたんだ。
あれれ?
自分の名前や身の周りのものとか、知識はかなりあるのに、過去をまったくといっていいほど思い出せないんだ。
その時、パタンとこの部屋の扉が開いた。
「あ、お目覚めですね? 良かった。ちょうど、お昼のお時間ですよ」
「うん?」
見ると、黒と緑が基調のメイド服姿の可愛らしい女性が、近づいてきて、ぼくの顔を心配そうに覗いてきた。
か、ほんと可愛い女性だなあ……。
この部屋は一体?
見たところ、西洋風で豪奢な造りの部屋だけど。
「ここはどこ?」
「トルメル城というお城の客間ですよ。あなたは中庭の雪に埋もれていたんだそうです。それと、後でライラック家のものにお礼をいって下さいね。ライラック家のものが介抱してくれたのですよ。もう少しで凍え死ぬところだったそうです」
「ライラック家?」
「ええ、一年前にラピス城との戦争へ向かった後、無事に帰還したこの国の英雄です」
「ああ……わかったよ」
「まあ、もう、こんな時間。失礼しますね。今は、ゆっくり休んでいて下さいね」
「……うん」
ぼくは湯気の立つプレートを渡され、メイドは部屋から元来た青色の扉へ向かってパタパタと早歩きで去っていった。プレートにはローストビーフとパンと、サラダ、コーヒーが載ってある。
「いただきます……」
ぼくはしばらく、パンをかじりながら過去のことを思いだそうとした。だけど、眠気で瞼が重くなってくる。
「うっ!」
頭痛もしてきたので。
仕方なく。
ぼくは目を閉じた。
今は疲れを回復するのが先決だ。
だいぶ疲れていた……。
目を閉じると、パチリと、遠くにある暖炉の薪の音が耳に入った。