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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その64 ニュウガクシキ

作者: 天城冴

大災害を引き起こした電力会社トンデンの元会長シシミズは友人知己、家族からも離れ、一人寂しく夜中に桜を眺めていたが…

 4月初旬、散りかけた桜の下に一人の年老いた男性が立っていた。

「なんとまあ、見事は花吹雪だ。今年もこの桜が咲き、散りゆくのをみることができたか。あれから、いったい何年たったことやら。もう一番下の孫も18歳になっただろう、儂も耄碌するはずじゃ…」

花びらが舞い散る中、感慨にふける男性。その背後から

『もしもし…』

「ああ、気のせいか。一緒に花見をするものもないなあ。息子夫婦や孫とも引き離されて…」

『あのう…』

「一人で見る桜は寂しいのう。ついつい昔の華やかな宴を思い出すから…」

と、一人ブツブツ言う老人。

その肩を

ガシッ

後ろから強くつかむ金属の手

『聞こえてるんでしょう、シシミズさん』

「い、いや、その、気が付かなかった」

『ニュウガクシキのご案内は届いてますよねえ。与党ジコウ党で原発賛成派、誘致やらなにやらの関係者の子孫にまで、お届してるんですから。あのフクイチ事故の総責任者ともいえる電力会社トンデンの会長だったアナタには、必ずお届するとのことで…』

「こ、こんな汚染区域にまで、な、や、やってくるとは…」

『必ず、と申し上げたでしょう。我々はなんとしてでも、アナタ方を入学させねばなりませんしねえ』

「わ、わしはもうボケかけた老人じゃ、にゅ、入学式なんぞ縁がないんじゃ。ましてや、廃炉作業従事専門の施設になんぞ」

『施設?新エネルギー処理専門学校といってほしいですね。アナタ方トンデンや、ジコウ党政府が壊れた原発の廃炉が進んでいるなどと誤魔化し続けたので、各国が業をにやしてこの学校を作ったのですよ。当時の関係者が責任逃れをしようとするからですよ』

「だ、だからといって、老人や、し、死人まで」

『普通の人間では作業に従事できないですからねえ、放射線量が高すぎて。だから新開発の超合金の作業に適したボディに生まれ変わるんですよ、入学して。体の使い方、作業の仕方まできちんと教えてあげますよ』

「そ、そして永遠にフクイチのメルトダウンした原発で作業させるんだろう、休みもなく、子や孫どころか、仲間にも会えずに…」

『おや?助かりたいがためにお子さんやお孫さんを置いて逃げたんでしょう?彼らを我々に差し出して。お子さんはとっくに入学されていますよ。今年は最後のお孫さんの番でしたが、逃げたアナタの居所を必死になって、彼らが推測してくれたおかげで、この場所を突き止められましたから、末のお孫さんだけは入学せずに済みそうですよ。子供や末の兄弟だけは助けたいということなのでしょうねえ、アナタと違い人の情というものがあるようですねえ、お子さんたちは』

「ひいい、こ、こんな老人より、わ、若者のほうがよく働けるだろ、お、老い先短いし…」

『金属ボディのサイボーグに年は関係ないですよ。むしろ完成しきった脳の方がいい。ああ、死んでも逃げ切れませんよ。霊体を宿らせることにも成功しましたしね、例のアベノ総理、予備電源の移設に反対し、事故当時の迅速な作業を時の政府への逆恨みで邪魔し、さらにアンダーコントロールなどといったアベノ元総理は最前線に投入。原発をニホンに呼び込んだナカゾネさんらも呼び出そうとしてますから』

「し、死んでからも、ず、ずっと廃炉作業なんて、生き地獄だ」

『死んでる人もいるから現世地獄ですね。何、廃炉が終われば卒業できますよ。ニホン中、いや世界中の原発の廃炉がね。まあフクイチだけでも数百年かかるかもしれませんけどね。監督役である元フクイチの住民や初期の作業員である私たちが見守ってあげますよ』

「や、やめてくれええ、そんなところに、行きたくない、助けてくれえ」

シシミズは抵抗するが、力強い金属の腕が、彼の体をがっしりとつかんで離さない。

『さあ、さあ、行きましょう。息子さんをはじめ、かつてのお仲間が待っていますよ、皆、アナタの入学を楽しみにしています。歓迎会を開きましょう。新しい作業用ボディになりましょうねえ』

恐怖で喚き散らすシシミズをサイボーグとなった作業員が抱え上げた。真夜中の人気のないフクイチ近くの桜の大木にシシミズの叫び声が虚しく響き渡っていたが、やがて小さくなっていった。


どこぞの国では十数年前に起きた大災害も忘れ、再稼働がどうのこうの言ってますが、アレはまだ終わってないんですよねえ。太陽フレアやら地球の自転やらがおかしくなっていて地震が起きやすいなんて時に、また同じようないやそれ以上の事故が起きたらどうするんでしょうねえ。

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