第04話 「恥ずかしい事請け合い!」
目の前には匂い立つような超絶美形が待っていてくれた。
ありがとう!お父様お母様!
私をこんな素敵な人へ叩き売ってくれて!
この人の嫁になるのなら、女神様からの使命なんて捨ててもいいわ!
「は、はじめまして……アストリッドと申します。ふ、ふつつかものですが、これからなにとぞよろしくお願いします……。」
ううう……つ、ついに……前世含めて喪女生活二千ウン十年に終止符が打たれるのか……恋愛すっとばしていきなり結婚生活なるものに少々不安が残るけれど、これはこれでOK!
ウンウン、ところでお父様が多少焦って顔して、お母様がニコニコしている対比は何故なんだろう……?
「あなた、そろそろ本当の事言ってあげたら?」
「いやおまえ、まさかアストリッドがここまで本気にするとは思わなかったんだよ。」
え?本気?なんのこと?
「アストリッド、舞い上がってるところを悪いが、この方がお前の婚約者だというのは……じつは『嘘』だ。」
「えええー!ま、まさか……実は妹のアクセリナに婚約者譲れってオチ!?やっぱ私、悪徳令嬢やってざまぁされなきゃダメなんですかぁ!?」
「……悪徳令嬢?なんだそれ?……いやとにかくそういう事じゃなくて、実はこの方こんなナリをしているけど実は、『女性』なんだ。ちょっとした冗談でお前を驚かしてやろうかなってな。」
「なっ……なんですとぉおおお!?」
恋愛ボッチ娘になんつードッキリ仕掛けるんだ……一応実の娘だぞ私は……。
このことがトラウマでますます私が引き篭もりになったらどーするんだ!
前世含めて彼氏いない歴二千ウン十年を舐めるんじゃないぞ!
「い、いや、彼……違った彼女がお前の婚約者という話はまんざら全てが嘘、というワケじゃないだよ……。」
「いや、ワケ判らないんですけど!?」
「あのね、アストリッドちゃん、じつはね……」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そこから聞かされた話だが、総合すると……
お父様とお母様とこの方、『シーグリッド』さんの三人は幼馴染というワケで、何をするのもいつも三人仲良く暮らしてたが、やがてお父さんをめぐってお母様とシーグリッドさんの間で争奪戦が勃発。
最終的に勝利したのがお母様という事で、その後、ある日酔っ払った酒の席で、お父様とお母様の間に生まれた子が男だったら、シーグリッドさんに婚約者として譲り渡す。という約束をしてしまったんだそうな。
生まれる前からお相手の予約なんて、なかなかとんでもない事のように思えるが、元々ハイエルフというのは、出生率というのが女性の方が高く、おまけに男性は成人してから狩りや冒険に出掛けたりと、そのために死亡率も高い。
結果、年中女性余りの状態で、今回のように友人や親族に頼んで生まれる予定の子供を、お相手として予約というのは当たり前の文化なのだそうな。
また、日本のような『三親等内の傍系血族との結婚の禁止』みたいな法律が無いので、近親婚というのも結構ありがちだとか。(さすがに親子で、というのは殆ど無いが叔父叔母と姪っ子甥っ子というケースはかなり多いとのこと!)
女性余りなうえ、長命種ならではの独特な文化なのだろうが、生まれる前からお相手決められてしまうというのは子供としてはやるせないような……。
一応、一夫多妻というのも認められているそうだが、やはりトラブルが多いせいか、殆ど無いといっていい。
ハイエルフは男性の数が少なく、それに対して女性同士の結びつきが強いこともあいまって、女性の方が色々な意味で強いケースが多い。
他種族の女性相手に隠し子を作り嫁にリンチにあい、首から『私は浮気しました。』とか『売国奴』の看板ぶら下げ世界樹にボロボロになって吊るされてる男性を、ここでは見かける事も少なくはないのだ。
まぁそんな事はどうでもいいかも……。
「えーと……それじゃ、この方が来た理由って今までお父様とお母様の間で生まれた子供が二人続けて女だったからと、早く三人目を仕込めとテコ入れに……」
「違う違う!というかそんな理由で呼んだりしないから!最近なんでもアストリッドちゃん研究の為とかいって部屋に籠もりっきりだろ?」
「う~ん……確かに……。」
「どうもゴーレム関連の魔法の事で悩んでいるようだったから、彼女に来て貰ったんだよ。彼女、ああ見えてもゴーレム魔法関連のエキスパートだよ。」
「……ああ見えてもというくだりが、何やら悪意を感じるのだけどねぇ。」
「あー!いやゴメン!!あんまり気にしないで!!」
どうも父はいつも一言多いらしい。
傍目からみると若作りで素敵なパパなのだが……残念な部分も多すぎる。
そういえば私が大学の入学式のときも、ついて行く!って聞かなかったなぁ。
小学校とかの子供じゃないんだから、ああいった行事に保護者同伴とかやめてくで……
後にクラスメイトになった友人に、「この学校、彼氏同伴で堂々と入学式に来た女が居たんだって。凄いと思わない?」て言われた時は恥ずかしかった……。
「あれはパパです……。」って答えたら、「貴方、パパ活の相手入学式に連れて来たの!?」と疑われたのはショックだった……。
いかんいかん……何を現実逃避してる私は!
そんな事より私はやることがあるだろう!
「えーと、シーグリッドさん……でしたっけ?ゴーレムについて詳しいとお聞きしましたけど、それ関連のお仕事とかされてるんですか?」
「ああ、一応私は南の幹にあるソーンジェ大学で教鞭をとっているから。」
げ!よりによって私が通ってた大学ではないか……でも私はもう卒業してるし、接点は無かった筈……
「そういえば以前大学の入学式に、堂々と彼女の付添として入ってきたトンデモナイ男が居る、と話を聞き付け見に行ったら、知り合いだったのが恥ずかしかったなぁ。」
「「ブフォー!」」思わず父と私同時にお茶吹いた!!
「後に娘の入学式に付いて来た私の友人だった事が判り、いつまで経っても子離れ出来ないのかと……、なぜ私はこんな男をめぐって昔シグリッドと争奪戦を繰り広げていたのか?と過去の自分を哀れんだものだよ……。」
「「それはいろいろと……まぁ、スイマセンでした……。」」
「それはまぁそれとして因縁浅からぬ君から、娘の力になって欲しいと頼まれたことだし……、ところでどんな事を教えて欲しいの?」
………………うーんお父様……、私の為を思ってくれてるのはいいんですけど、なんつー人選してくれるんですか!?
すっごく面倒くさい相手を連れて来た事確定じゃないですか!!