第02話 「現在状況把握中……」
女神様との契約で異世界へ転生する事になったが、一応私への使命とやらは『世界を救う』という事だ。
地表のかなりが荒れ地や砂漠化したこの世界で考えられるのは、やはり惑星レベルでの炭酸同化作用のアンバランス化。
それに伴う温暖化や異常気象だろう。
幸いにも、この国で起こった気象災害や天候、気温等のデータは、詳細に記録が残されており、この書庫で観閲する事が出来た。
二千年前あたりから遡ってみると、たしかに戦争前に比べて降雨量や台風の発生量が増えていて、それに伴う地滑りや河川の氾濫、洪水等の被害が増えてきている。
戦争前に比べると一時平均気温が一気に3℃以上も上がった時期もあった。
しかし現在は戦争前に比べて+1.8℃程度に落ち着いている。
これに関しては、一時急激な温暖化により一気に降雨量が増え、海へ流れ込む鉄分等のミネラルや栄養素も増えたことによる、海中の植物系プランクトンが大増殖したことが原因ではないかと推測している。
大陸の内陸部では森林破壊などが原因で、土壌に水を溜め込む素養が減り、自然の恵みや農作物の収穫が殆ど見込めなくなり、殆どの住民が沿岸部に移住。
その為に食料としての魚の乱獲が続き、漁獲量も減少したがその一方で、大増殖した植物系プランクトンが魚等に食べ尽くされずに更に数を増やしていると考えられる。
その事が、炭酸同化作用のアンバランス化状態を僅かに好転させていると思われる。
もっともこの状態が続けば、やがて海の生き物が食べ尽くされ、飢餓地獄から今までよりもっと酷い多種族間での全面戦争に発展する可能性も高い。
そうなれば世界樹や豊富な森林資源を抱えている、ハイエルフの国に対する侵略の手を伸ばすモノも更に増えるだろう。
それらをすべて個人の力で解消し、残された土地を巡っての人間同士や種族間の紛争を止めるなんて到底不可能である。
もっとも女神様によれば、『滅びゆく世界に一本一本林檎の木を植えていくような程度でも良い』と言ってくれてる。
あくまでもこの世界を救うのは私一人の力ではなく、私は女神による救世の方策のうち一つに過ぎないのだから。
こちらの世界では役に立たないのだが、一応二千年間分、そして今この時間にもチャリンチャリンと時給を支払い続けてくれている事には報いたい。
だから多少なりとも、世界を救う活動に勤しむ、僅かでも身を入れる事にしようと思う。
ただその為には、この世界の地理というのを知る必要がある。
例えば、私が住んでいるこのハイエルフの国は島国であるが、その東には大陸が存在している。
その大陸には強大な人間族の帝国が複数存在するのだが、禁呪による戦争だけじゃなく無理な牧畜や森の開梱等を続け、自ら領土の殆どを人の住めない土地に変えてしまっている。
その為に人が住めるのは、沿岸地域や僅かなオアシスを残すのみで、そのオアシスさえ、近隣諸国との奪い合いが続いている。
おまけに運の悪い事に、この地域に残る帝国というのが、いずれも自らを文明国と称し他国や他民族を蛮族扱いし、この世界を我々が統べるのは当然と信じ込んでたりする。
つまり、国家ぐるみで高すぎる妙なプライドをもった、頭が残念な国と化しているのだ。
そんな地へ私が赴き、神様から貰ったチートやハイエルフ独自の高い魔法技術を駆使し、緑の土地に変えても、彼らはただ侵略する事しか考えないだろう。
それどころか、その土地を再び元の荒れ地や砂漠に戻してしまいそうだ。
どうも私が知る過去の文献によれば、人間族というのは将来の事を考えない『力こそ正義』『欲しければ奪えばいい』を地でいくような、ホントに蛮族のような連中が多い。
これは真に困った。
逆に、西の方角にもやはり大陸が存在するらしいのだが、こちらは距離が物凄く遠く、海を渡った交易も殆ど無い。
そのせいでどのような民族や国があるかも、殆ど判ってはいない。
せめてもの救いは、私達の国とは緯度的にはほぼ同じくらいで、惑星のほぼ裏側に近い場所に、私達と同じくハイエルフが住む島国が存在する。
そしてその周辺の国では、少なくともハイエルフと敵対してない、多種族で構成される国家が複数存在している。
そこまで行ければ、砂漠化した土地の緑地化も、それ程邪魔されずに行える可能性がある。
しかしそこまでの道のりには、地表を行く限り当然ながら、『蛮族のような帝国』をいくつか突っ切り、荒れ地や砂漠を進む事になる。
危険度は非常に高い。
「う~ん……どちらにしても、私自身が何らかの形で力を持たなくちゃダメか……」
蔵書庫に残る地図や地理関連の本を、ホコリを叩きながらみながら思索にふける。
『力』さえあれば、いっそ帝国を滅ぼしながら、内陸部へ侵攻出来るのだけど……
その為に人間族に戦争しかけるって、本末転倒よねぇ……。
一応女神の目的は世界の救済だと考えると、いくら強欲で愚かだからといって人間族を滅ぼすのは、その目的にかなわないだろう。
どうも二千年のハイエルフとしての生活の中で、私の思考もハイエルフ寄りになってきてるようだ。
こんな現在の私を知ったら、女神様も嘆きそうだ。
「取り敢えず『力』を持つには、私の手足となってくれる存在が必要不可欠だわ……。となると……」