第09話 「女神に必要経費を!」
「う~ん、いまそんな大きさの魔石、在庫無いねぇ」
がーん!
私がいつも研究用の部品購入しているジャンク屋『森と泉商会』の主人、セボリさん(推定年齢約四千歳、女性既婚)は頭をカキカキそう答えた。
「……無いんですか……。」
「お嬢ちゃんが言ってるサイズだと普通は一般家庭なんかでは使われないからねぇ。本来は幹と幹を繋ぐゴンドラの動力源とか、工業用とかに使われるサイズなんだよ。うちなんかが扱ってるのは、廃品になった家庭用製品とかから外した中古品が主だからねぇ。」
ぬかったー!
普段大抵のものはジャンク街行けば手に入ると思ってた私には痛手だわ~。
「どうしても手に入らないですか……?」
「いや、そんな事ないよ。」
「……え?」
「中古のジャンクとしては手に入らないけど、樹の下に住んでる連中に注文だせば普通に手に入るし。」
どうやら普段扱わないのは、単にこの世界樹の上では需要が無いからという事らしい。
大型の魔石自体は、世界樹より下に住んでいるエルフや獣人などの亜人達の間では、普通に流通しているので、そちらに注文すれば、手に入らないなんて事は無いのだそうな。
「その代わりジャンク扱いじゃないから値も張るよ。」
「え~と……ちなみにお値段どれくらい……?」
提示された金額見て思わず眼が点になった。
『産業用大型魔石 値段20万セインド』
一般家庭が普通に一ヶ月暮らせる金額である。
「ぐぬぬぬぬ……。」
勿論その程度の金額、払えないワケではない。
私のインベントリには、溜まりに溜まった二千年間分、女神から支払われ続けた時給がうなっている。
だが、なんというべきか……。
これは私への労働の対価(労働してないけど)として支払われたお金であって、救世活動の必要経費ではない。
この先私が何千年生きるかは知らないが、将来の年金代わりとして残しておきたいお金でもある。
なにやら頭の中で「ケチ過ぎる!」という女神の声を聞いた気もするが、あーあー認めない!認めたくない!!
「……では、この産業用大型魔石、二つ注文したいのでお願いします……。」
「あいよ!わかった。まいどありー。」
うんうん、判ってた。
そうだよ、所詮不労所得なんだよ。
カエサルのものはカエサルに、女神のものは女神に返せばいいんだろぉおお!
カエサル買え去る替え猿……ブツブツブツ仏々……
「オイオイ!貴方だいじょうぶ!?なんかヤバめの薬キメてるんじゃないよね!?」
キメとらんわ!
いくらこちとらハイエルフとはいえ、頭がハイなエルフというワケでは無いわ!!
いかん……少々頭の中が葛藤で自暴自棄状態になってきた……。
将来、女神との連絡方法が確立されたら、絶対「必要経費よこせ!」との声をお届けしてやろう。
いや、それより先に女神との連絡方法を私のライフワークにすべきか?
ホントに女神電信ダイヤルとかこの世界無いのかなぁ……?
この手のネット小説では大抵、教会いって仏像……ならぬ女神像の前行って手を合わせれば会えるんだけど……うちらハイエルフって女神信仰してないから教会や神殿の類って世界樹に存在しないんだよねぇ……。
なんまんだぶなうまんだーぶ……。
「……とにかく、頼まれたとおり魔石の事だったら仕入れとくから、店の前で怪しい呪文唱えて邪教崇拝の儀式するのは止めてくれる?」
なんつー罰当たりな!
こちとらありがたいお経をほんのチョット心の平静を保つ為に唱えてただけだというのに、とんでもない勘違いをしてくれるお店である。
今度写経した経文、店のシャッターならぬ雨戸へ貼り付けといてやろうか?
最近、前世思い出したおかげで生前趣味としてやってた写経がレベルMAXな勢いで出来るようになってたんだぞ!
この世界ではまったく意味が無いけどな!
ほんのちょい頭をぷんすかさせながら家路についた私だが、途中声を掛けてくる者があった。
私の妹『アクセリナ』である。
「ちょっとお姉ちゃん!」
家路の途中にあった喫茶『雨漏り亭』に連れ込まれた私は早々に妹から生活について駄目出しをくらった。
妹曰く、あの二千歳の誕生日の日から引き篭もり生活を改め、積極的に男性達が沢山居る大学とかへ学び直しに行ってるかと思えば、全然彼氏一人連れて来る気配もない。
婚活とかはどーなっているのか!?との事である。
「おねえちゃんったらそういった方面は、全く気にしようともしないんだから……。折角化粧品セットあげたというのに今も全然化粧っけ無いでしょ?」
そういえば転生後、鏡を見たら前世と比べて素っぴんでも私イケてるじゃん!て気になって、化粧品使うのを忘れてたわ。
一応社会人時代は、出勤前最低15分は掛けてやってたんだけどねぇ。
まぁその時代の効果は……お察しである。
話はソレたがまぁそのように妹より、化粧についてから折角大学へ出掛けたりしてるんだから、現役学生相手に合コンとかセッティングして貰うべきだとか、その場でお持ち帰りして貰う覚悟を持つべきだとか、散々色々言われた……。
でも妹よ。
もともとハイエルフはその名のとおり草食系。
姉をお持ち帰りしてくれるような肉食系男子、私の現役学生時代から居なかったぞ。
少なくとも、前世で問題になってたヤリサーなんてもの見たこと無かったし……
いやそれとも私だけハブられてたって事ないよねぇ?
それだったらチョット悲しすぎる!?
いやでもたしか……同性愛サークルはあった気がするし……。
今考えてみると、わりとハイエルフの大学って自由だな!
さすがにげんしけんやら薄い本作るサークルがある日本には負けるけどな!
「おねえちゃん!ホントに私の話聞いてるの!?」