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第9話:弟子Aの港町での朝の出来事

この物語は!

魔王を居城まで運ぶまでに、立ち寄った港町で夜を明かし、朝になり、魔王様がすんごく、すんごーくとってもいい話(魔王談)な、ハイパーウルトラグレートマグナムアルティメット(HUGMA)超度級の長編第1話:魔王の華麗なる一日! のお話が省略されるお話である!



 気付けばふわふわのベッドの中だった。窓からは、暖かい日の陽が入り込んでいた。

「あれ……ここはぁ」

「起きたか、人間」

「ああ、朝から気持ち悪いモノが見える……」

「きーさーまぁーはー! 毎度毎度同じ問答をせねばならんのか! まったく、口が減らん奴だ!」


 不機嫌そうに告げられても、なんのその。弟子Aはまだまだ頭が働いてなかった。朝はパッと起きれる体質ではないのだ。

 ゆっくりと昨日の記憶を辿り、徐々に思い出していく。

「あー……宿屋に泊まったんだっけ」


「ぐべぇぇ!」

 変な音を魔王が立てながら、身体をベッドから起こす。

 部屋は、相変わらず豪華絢爛。貴族やらお金持ちが如何にも好みそうな、感じであり、専用な空気を纏っていた。


「今更ながら、かなりお金使っちゃったな」

 基本宿屋など宿泊施設は素泊まり設計なので、10Gほどである。

 サービス、食事込みとはいえ200Gといえば大金であった。というより、国から出た旅の資金が120Gなので、昨日の食事代や宿屋代も払えない額とは、とんでもなく守銭奴だ。


「はぁ……ボクがこつこつ貯めたお金が、見る見る減っていく……」

 偉大なる預言者にして天才魔導師の弟子Aは、付随し一緒に仕事をこなしたり、予言……という名の占い師の真似事をしたり、魔物退治などをこなして地道に貯めていっていたのである。


 実を言うと、もっとお金を資金を持っていたのである。貯めている理由は内緒。しかし、師匠が亡くなる以前、何度か弟子Aが貯めてる貯金箱が奪われるという、事件があったのである。

 悔し涙で枕を濡らし、犯人を突き止めようとするも師匠から止められ言われた一言。

『こ……これも、し……試練! そう試練じゃとも。罪を憎んで人憎まず。弟子Aよ。強く強く生きるんじゃぞ? ほれ、ワシからお小遣いをやろう』

 と、盗まれたお金の10分の1程度のお小遣いを頂く事もあった。師匠の優しさに思いを馳せる。師匠は、その後、新しい本を幾つも買っていたけど、良い収入があったんだろうと思う。


「……そうだ。あの時だって頑張れたんだ。これも世界のため頑張るか!」

 気合を入れ、改めて頑張ろうと誓うのであった。


「お前はぁ! 本気っで我を愚弄し、馬鹿にしておるだろう! また顔に重負荷が掛かったわ! 貴様わざとだろう? わざとやってるだろう!?」

「ふぇ、うん、そうだよ?」

「きさっ……まぁ!」

 何だか左手の魔王の目がぶわっとうるうるとしてすごく気持ち悪い。いやもう、本当に気持ち悪い。

「うえぇ、きもっ……」

 思わず発言してしまう。しまったという気持ちも少しは持ち合わせたが、実際この様子を見れば誰もが同意してくれるはずだ。しかし、魔王の怒鳴り声が来るだろうと思ったが、予想を覆す展開になる。



「うわああああーーーーーん」



 魔王は大泣きする。我は魔王なのに、魔王なのにと何度も何度も言いながら、目が三つも無駄にあるせいか、まるで泉でも出来てしまうかの如く泣く。あまりにも予想外すぎて弟子Aも困惑を隠せずあわわ、あわわとしてしまう。

「じょ、冗談だって!? ほんと冗談だからね?ね? 魔王! 魔王様? 泣き止んで? ほらほら、カッコイイですって! 本当にもう……子供じゃあるまいし……」

 顔身長とも子供レッテルを貼られるような弟子Aから、見事に子供呼ばわれされる魔王。


「うわあああああーーーーーーーん」


 その人物からの……子供じゃあるまいしと聞いた途端、更に大泣きになる魔王。

 朝から疲れると言わんばかりに、盛大なため息と共に、弟子Aはさっきの誓いを撤回したい気分であった。





 その後、怨念じみた泣き声が聞こえるとかで、宿屋の人が来たりもしたが何とか誤魔化す事に成功していた。

「まぁ、貴様が臣下の礼を尽くすというから、我も貴様の望み聞き届けてやらん事もないわ」

 尊大な態度であるが、涙の後が残る魔王の顔は見ない事にする。

 臣下の礼と言いますか、とにかくとにかく下手に、下手に出て、褒めて褒めて褒めちぎって、何とか落ち着いてもらうことに成功する。


「それはよかった。――んんっ!」

 身体を伸ばす。きちんとしたベッドで寝れたおかげか疲れもかなり取れていて、頭の方もすっきりだ。首を回しながら身体を動かしていく。

「良いベッドはやっぱり違うんだなぁ」

 今回ばかりは体力回復重視という観点で見れば、この宿屋が一番良かった選択なのかもしれない。


「さて、食事をして情報集めをしようか。魔王の城の場所探さないとだ」

 ついに目的に近づくための行動が出来る事に少し前進出来るんだなと嬉しくなる。

「ふむ、その通りだ人間。さっさと我が居城を探してまいれ」

「はいはい……あー、いえ。了解致しました。魔王様」

また泣きそうになってる気持ち悪い魔王を、見て言葉を正す。

「それでは申し訳ないですが、布をおかぶり頂いて、発言の方は他の人間に見つかると御身を危険に晒してしまう愚を冒したくないので、遠慮頂く様お願い致します」

「うむ、良きに計らえ」

 それだけ言うと左手の魔王が見えなくなるように布を巻く。黙ってそれを受け入れてたという事は、こちらの願いを聞き届けしゃべらないで居てくれるのだろう。と期待する。


『てすてす、マイクテスト』

「え……?」

『繋がっているようだな』

「ええ……? 魔王……様? え?」

 視界に入る左手の魔王は口を開いていない。と思う。布を巻いてて分からないからだ。

 しかし、声が直接頭から聴こえるのだ。

『ククッ、我を内包した身体だ。寝ている間に、少し弄ってやればこういう会話も出来るようになる』

「一体ボクの身体に何をしたんだよ……」

『なぁに、我への魔力供給のラインを利用して念話を出来る様にしたのだ。人間、貴様も心の中で念じてみろ。我への発言を許す』


「ぐぅ……」

 言いたい事はたっぷりだが、外に出ようとするタイミングで、更に時間のロスは痛いと判断する。とりあえず、言われた通りに心で念じるように魔王へ話しかける。

『めんどく……げふんげふん……これでいいのかな?』

『む、何か最初に言わなかったか? 念話で咳き込みなど不要だ。まぁ、及第点をやろう』

『ありがたきお言葉感謝いたしますっと。じゃあ、そろそろ出掛けようか』

『うむ』

 木の杖は、部屋に置いていく事にする。片手が塞がっている状態というのはそれなりに大変なのである。魔王が荷物持ちをしてくれる訳もない。


「さてと、朝ごはんを食べて……情報収集と、装備整えなきゃなぁ」

 改めて城を出てからの自分の姿を思い出しながら現状を見る。



武器:木の杖→なし(部屋に置いてきているため)

防具:布の服→ボロボロに破れた布の服?

左手:普通→泣きはらした後のある魔王



 所持アイテムには、複数の薬草と、高級食器一式……。

 一体どんな激しい旅をすればこうなるのやらだ。実質まだ三日目だ。

 そして、このまま行けば確実に布の服は、なくなるだろう。それだけは避けねばならなかった。確実に防具……

「ボロボロに破れた布の服?……最後の?ってなんだよ……」

 しかしながらすぐに合点が行く。自分の格好を見て、これは先に服ゲットだなと新たな誓いを生み出しながら……。





 この宿屋には、専用の食堂があり朝ごはんはそっちに寄って、朝ごはんを美味しく頂きました。

『やー、ここの朝ごはんも美味しかったなぁ。バイキング形式だったから好きなのばっかり食べちゃったよ』

『……む、何か展開が切られてないか?』

『へ? 普通に美味しいバイキングだったじゃないか〜。さすがに高級宿屋。食事の方も値段に見合ってるね。バイキングを馬鹿にしちゃいけなかったよ』

『いや、待つんだ人間。それは知っている。我も少し欲しいな〜って思った。って違う!』


『んん? ……もしかして、あれだけ食べてどうして身長が伸びないとか……言わないよね?』

 布越しからでも分かる殺気を左手の魔王は感じていた。

『断じて、そんな事は思っておらんわ! 違う! 違うのだ! ほら、何か大事な事忘れてないか?』

 少し身の危険を覚えたが、そんな事は魔王にとって実に些細な事であった。


『我の超ありがたいお話は、あれ? 朝食中に、我がすごく良い話したよね? ね? あれ?』

『ああ……ええ、そりゃもうたっぷりと、時間を取って話してましたよ。正直食事を早く済ませたいほどに』

『本当に? はいぱ〜で、うるとら〜でぐれ〜とでまぐなむ〜なあるてぃめ〜とな展開が繰り広げられる華麗なる一日を綴ったお話は聞いたよ……ね?』

『ええ、ええ、もう先ほども申し上げましたが、たーっぷりネチネチと耳を塞いでも聴こえてくるのできっちり、一字一句聞き漏らさず聴こえていましたとも、ええ』

 なぜだか、美味しい食事も取り、お腹一杯で満足なはずなのに、ぐったりとしている弟子A。しかし、魔王はどこか納得していなかったかのように不思議な感覚に陥っていた。


『むむぅ、おかしい気がするのだが……まぁよいわ。また、明日にでも時間があれば、我が話を聞かせてやるわ』

「明日から忙しくならないかなぁ……」

 思わず声に出してしまうも、魔王は機嫌を取り戻したのか明日どんな高尚な話を聞かせてやろうかと考えでいっぱいだったのである。



 フロントまで行くと、カギを預ける事とする。

「これ、お願いします〜」

「はい、お預かり致します。昨日はぐっすりお休みになられてたみたいですね」

「あ、はい。ベッドに入ったらぐっすり寝ちゃってました」

「はは、夕食の際にお姿をお見かけしなかったもので……ごゆっくり出来たのならば幸いです」

 一旦言葉を区切り、続ける。


「時にお客様……近頃、窃盗団がこの町に潜んでいるらしく、被害が多発しているのはご存知で?」

「そうなの?」

「……はい、お客様もお気をつけ下さいませ」

「分かりました。ありがとうございます」

 フロントの人がお辞儀したのに合わせ、弟子Aもお辞儀をする。


「(しかし、窃盗団かぁ。気をつけよう。確実にこれはフラグだ!)」

 弟子Aは、自身の不幸体質が既に発動していると自覚し、町に出る際には注意する事にする。

 しかし、弟子Aは少しだけ勘違いをしていた。宿屋の人達は、窃盗団の一員ではないかという疑いをかけていたのであった。


此度125年8月19日

午前10時を過ぎた頃であった。


世界が闇に覆われるまでのタイムリミット:十二日になりました。

弟子A現在の装備

武器:なし

防具:ボロボロに破れた布の服?

左手:泣きはらした後のある魔王→布に巻かれた魔王(布は脱着可)


所持金:1540G


所持アイテム

幾つかの薬草

高級食器一式



ここまでお読み下さりありがとうございました。

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