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第6話:弟子Aとセンタ村での出来事

この物語は!

魔王を討伐するためにある国が勇者を選定し、その勇者に世界の命運を託し切磋琢磨し苦難に満ちながらも仲間達と協力し魔王を退治する勇者を探す事を辞め、魔王を居城まで運ぶ話だ!



 何か、上のあらすじが変わってないか!

「いやいやいや、今はそんな事を考えている場合じゃない……」

 状況は最悪だ。まず、左手は絶対にばれてはいけないという大前提が、初手でひっくり返ろうとしているのだ。まださっきの青年は、腰を抜かしたまま、状況把握出来ていないのか、視線をキョロキョロとさせている。


 弟子Aは、とっさに左手を自分の後ろへ隠すと、右手で魔王の顔を手で押さえつける。

「……っ! ……っ!!」

 何かを言わんとしているのか、フゴフゴと言いながら今にも暴れ出さんとする魔王の様子が伺えた。しかしながら、自由にするわけにはいかない。そんな事をすれば、何をするか分かったものではなかった。

「あー、いや。ごめんなさい。何かの手違いで魔術が発動してしちゃって、はは……」

 弟子Aからは、乾いた笑いしか出ない。

 苦しい言い訳ではあるものの、本当にその通りなのだから仕方ない。

「……」

 未だ腰が抜けているのか、その場で座り込んで何やら考えている様子だった。

 動けないでいる青年に手を貸したいものだが、それも実行は出来ない。なんせ、両手は今、魔王を抑えるのに精一杯のためだ。

 怯えたような、怪訝そうな目を弟子Aへと向けられる。

 その間にも弟子Aはこの状況を打破し、切り抜ける言い訳を考えていた。

 強く手で抑えられ、声も出せない状況のため、ジタバタと暴れる魔王の小さな手が、弟子Aの、背中辺りをポコポコと、音が出そうな感じで、何度も叩き付けている。

 愛らしい人形なら、微笑ましい様子なのだろうが、いかんせん魔王なので、決っして!いい雰囲気には見えない。気持ち悪いだけだ。


「っ……これは、えーっとその、ね? ほら、なんていうか、あー……そうだ。人形! 人形なんだ!」

 背中に、気持ち悪い雰囲気と、痛みを感じながらも、そう言いのける。

 左手が、全身紫色をしており、ムキムキ筋肉で、まさに鎧!とも言える様な、肉体を持ったバケモノを、あえて人形と言ってのける弟子Aは、それほどまでに焦っていたのだ。

 魔王に取り憑かれるなんて、口が裂けても言えなかった事とはいえ、そんなしゃべる人形を、持ち歩いている趣味の悪い弟子A、と思われるのも、だいたい周りから見たら、十分に気持ち悪いだろう。


「……」

「……」

 再び、お互い沈黙する。


 さっきはこれがきっかけで、炎の弾を撃ち込んでしまったので、注意する。

「(しまったぁー。完全に言い訳をミスった感じが出てる……まずいまずい。どうするべきか)」

 弟子Aが頭脳を駆使し、更に高度な言い訳を考え始めた。

 その間にも、なにやら左手の魔王の様子がおかしかった。

 否、さきほどまで、暴れ続けていたのに途端に痛みが消えたのである。

 さすがに暴れ続けて疲れたのだろうと判断し、むしろ大人しくなったのは、これ幸いと更に、思考を巡らせていく。

 青年もその沈黙の間に、何とか土を払いながら、起き上がり大きくため息をついていた。

「……」

 未だその目は、不安も入り混じってこちらを見ている。

「よう……こそ……セン……タ……村へ……」

 そして、最初とは打って変わった様子ではあるが、一貫してその言葉を言い放つ。

 逆にここまで来たら、すごいんじゃないのか?と考えてしまう。


 そこで、弟子Aは気がついた。

「(もしかして、この人はこの言葉しか言えないんじゃ!? それなら、現在の手を見られても問題ないじゃないか。なんせ、この事実がこの人から漏れる心配もない!)」

 ぱっと閃いた事は、弟子Aにとって最高の事実であった。

 しかし、その時、抑えていた右手から左手がすり落ち、ガクンと力が抜けたのだった。

 全然力が入らなくなった左手の魔王を見て、弟子Aは愕然とした。

 青年もなんか愕然とした。


 魔王は、紫色から真っ白になっていたのだ。

 まさに、燃え尽きたかのようであった。

 主に、魔王の命の火が……だったが。

 少なくとも、口から何か、魔王と似た姿を模った白い煙のようなものが出掛かっていた。


「ま……魔王ぅぅううううう?!!!」

「ようこそ!? センタ村に!?」


 弟子Aは、焦った。そりゃもう焦った。

 世界を救うには魔王が必要だと言うのに、これはない。

 まさか、顔を強く抑えただけで、こんな事になるとは、誰が予想しただろうか。

 否、誰も居ない。だって、預言書にも書いてなかったもん。

 弟子Aは知らぬ存ぜぬを貫こうとしていた。


 青年も、焦った。そりゃもう焦った。

 人形だと言い放ったそれが、魔王と叫ぶその事実に、恐れおののいた。

 目の前の人物が、誰かは分からないが、気が触れたとしか思えなかった。

 逃げたい気持ちも沸々と浮かんできたが、それでも青年は動かない。

「あわわわ、どうすれば、ボクどうすればいいんだ!?」

 こんな状況になり、さすがの弟子Aもすぐに行動出来なかった。


 しかし、思いもよらぬ人物から助け舟が出る。

「ようこそ! センタ村へ!」

 目の前に居た青年が、弟子Aの両肩に強く手で掴み大声でそれを告げる。

 その言葉は、最初から同じだった。しかし、まるで、何をしてるんだ!そんなに慌ててちゃ何も出来ないだろう!と、伝えるかのように。

 それで目が覚めたのか、すぐに弟子Aが回復の魔術を試す。

 その様子を目にして、青年は弟子Aから離れる。

 だんだんと、魔王と似た姿をした白い煙のようなものが魔王の体内へと戻って行く。

 すると、魔王の身体の色が紫色へと戻っていく。


「すごく……気持ち悪い光景です……」

 そう呟いた弟子Aに対し、青年も頷く。

 アゴがはずれそうな感じに大口を開けて、無理やり白い煙が戻ろうとしている。

 実に不気味で、何かやばいモノでも召喚する儀式なのかと、言いたくなる。

 そして、見事に紫色に戻った魔王であった。


 しかしながら、ここで疑問が残る。

 なぜ、青年はあんな風に、弟子Aを助けてくれたのか。

 魔王を心配するかのように叫び、回復まで施した弟子Aから逃げるならまだしも、動かないで居てくれたのだ。

「(もしかして、物凄くいい人なのかもしれない。それと同じぐらい変な人だけど)」

 と、左手が魔王の弟子Aに思われるというのも、なかなかすごい事ではあった。

「ようこそ。センタ村へ」

 さっきまでの目が嘘かのように、暖かい目でこちらを見てくる。

 何かを、一緒にやり遂げたような感情……そう、友情が芽生えた気がするぐらいであった。

「ありがとう。さっきは助かったよ」

 こちらも笑顔でそう告げる。

 何だか、この人は、誰にも、この事を告げないだろう。

 確信はないものの、そんな気がする。

 弟子Aの予想は結構当たる事も多く、さすがは偉大なる預言者にして天才魔導師の弟子Aだ!と言わしめるほどであった。

 青年は頷くだけであったものの、こちらを見守ってくれていた。


「ぐぅ………ぐぅうう…………だめ。ほんとだめだって、魔王だよ、我は魔王だよ? お願い! 空気を! 吸わ……息がぁ! 息が出来ない! 酸素ぉぉ、酸素をくれ! くださ……い。くだ………さい。かみぃぃい、かみさまぁ、おねがい……うううう」

 何やら、魔王がうなされてるか、発狂じみた感じで叫びだす。

 それにしても、魔王が神様に助けを求めるのはどうなのだろうか。

「なっ、バカ静かにしろ!」

「ぬ、人間きさっ……っ」

 右手で抑えたものの、既に声はばっちり聞かれたはずだ。

 しかも、自身で魔王と叫び、この人形と言い張ったものも魔王と言っちゃったので、これは決定的である。

 だが、それでも青年は動かない。

 暖かい目、そしてこちらの気持ちを察してくれたのか、言葉は発さずただじっと見つめてくれているだけだ。

「ようこそ、センタ村へ!」

 その声と共に、村の奥を手で指していた。

 そちらからは、さすがにこっちで何かが起こっていると感じてか、村人達が何人か近づいてきている。このままここに留まれば、この左手を隠すものもなく、そして言い訳すらまともなのがないため、怪しさ満載だろう。

「(見逃してくれるのか……?)」

 弟子Aは、感謝した。全ての発端が弟子Aの責だというのにも関わらず、この青年は、何も聞かずただただ、こちらを助けてくれているのだ。

「ありがとう!」

 そして、踵を返し村から脱出する。

 宿屋で休めないのは痛いが、今回ばかりは仕方がない。

 この左手が見つかり、騒ぎになる事態が防げただけでも、行幸と言えるだろう。





「名も知らぬ君に……ご加護があるように」

 青年は、弟子Aの背中を見送る。

 この言葉は、自分以外に誰の耳にも届かなかった。

 しかし、青年は弟子Aには、届いたんじゃないかとも思えていた。





「っ……はぁはぁ……ニンゲン!」

「はぁはぁするな、気持ち悪い!」

 魔王が走ってるわけではないが、魔王は勢いよく前後に振り回され続けているのだ。すごく疲れても致し方ないのである。

 村から離れるのにどれくらいの時間が経っただろう、弟子Aの身体は悲鳴を上げていた。

 体育会系か文科系かと聞かれれば後者だ。そんな弟子Aが耐久マラソンかのように、走り続ければどうなるか分かるだろう。

 身体は限界に来ているものの、魔王への対処は鋭く増していた。

 その言葉にショックを受けたのか、泣きそうになっている左手の魔王を尻目に、弟子Aは駆け出していた。


 村がもう見えない位置まで来ると、街道をはずれ森の奥へと進む。

「ここまで、来れば大丈夫だろう……」

 木々に囲まれたここならば、周りの目もない。

 少し安心したのも束の間、木の枝を集めると、魔術で火を起こし、焚き火を作る。

「これで、獣やモンスターも近づいてこないだろう……」

 その気配もなかったが、念には念を心掛ける。

 もうだめだと、身体が自然に倒れこむようにして、横になる。

 ぐぅというお腹の音が空しく響く。

「ああ、そういえば何も食べてなかった……」

 今頃気がついたかのように、呟く。

 ゴールドがたくさんあっても、使わねば意味がないし、これを食べても腹は膨れないのだ。

「……きさまぁ!さっきから我をぞんざいに扱いよって!お前は我のけんぞ「黙れ、煩い、しゃべるな、ボクは今ものすごく、不機嫌だ」……」

 静かに、そう告げる。

 しかし、さすがの左手の魔王も、黙っていられなかった。

 息を止められ殺されかかれ、かなり振り回されかなり気持ちも悪い。

 今迄で一番きつい事を言われたが、それでも魔王は、一言言わねば気がすまなかったのだ。

「なっ、わ……我だってなぁ!息を止められ死ぬかと思ったんだ!魔王が窒息死なんてありえんわ!」

「三度は言わない。しゃべるな」

「……はい」

 どっちが魔王なのか分からないやりとりだった。

 魔王は、余りの恐怖にプルプルと震え上がっていたが、この様子は幸い誰にも、見られることはなかった。

 なぜ弟子Aが、ここまで強気になれるかも分からないが、今は、ただただ眠りたかった。

 目を閉じ、濃い内容の出来事が思い出される。

 そんな内容の数々でも、弟子Aの睡魔を止める事は出来なかった。

「……食料の調達も……他にも色々しなきゃ……な」

 数分して弟子Aは、深い闇へと意識を落としていった。


「……ぐすん」

 そして、左手の魔王もまた泣きながらも休む事にした。

「(絶対に、我との立ち位置とか、教え込まねば……うう、精神支配は効いてないんじゃないか……怖すぎる)」

 魔王もまた、体力と魔力を、元に戻す事に専念する。

 明日もまた魔王は、戦わねばならなかった。それを考えれば、今まで数々の勇者と戦って来たが

、そんなのは、弟子Aに比べれば他愛もない、出来事に思えていた。

 魔王たる人物に対し、ここまで高圧的になったものは一度も、誰一人としていなかったのだ。

 自身の命を何度も脅かした人間は、弟子Aが初めてでもあった。

「我は……我は……魔王……ガ…………なるぞぉ……すぅー……すぅー……」

 涙を流しながら魔王もまた、意識を闇へと落としていく。

 そうして、今日もまた、深い深い夜と静寂が世界を包み込んでいった。



此度125年8月18日

午前0時を過ぎた頃であった。


世界が闇に覆われるまでのタイムリミット:十三日ほど

弟子A現在の装備

武器:木の杖

防具:破れた布の服

左手:全裸の魔王


所持金:2240G


ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

今後とも、弟子Aと魔王の冒険活劇……あれ、おかしいですね。

早く勇者来て!とまだ見ぬ勇者に期待を込めながら続きを書いていきたいと思います。


追記:作品全体の構成を統一しました。

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