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第4話:弟子Aと魔王と真実

おはようございます。

形になりましたので、投稿させて頂きます。

この物語は!

魔王を討伐するためにある国が勇者を選定し、その勇者に世界の命運を託し切磋琢磨し苦難に満ちながらも仲間達と協力し魔王を退治するまでの話である。はずがだんだんと雲行きが……。


 時が動き出すまでには、少し間があった。

 先に言葉を発したのは、左手の魔王だった。

「クックックッ、やはり我が眷属となっても、我を恐れぬか、さすがと言っておこう」

 さきほどまで、うな垂れていたのが嘘の様に、そう告げてきた。

「だが、それは無理な相談だな。貴様の放った禁呪のせいで元の肉体は滅びかけていたからな。だから貴様の身体を乗っ取ろうとしたのだが、力が及ばなかったのか左手だけになってしまったがな」

 禁呪という気になるキーワードが出てきたが、この時ばかりはそんな事にも気が向かず、ただただこの状況を嘆いていた。

「一体どうしてこんな事に」

 まさかココまで弟子Aは、自分自身不幸体質だとは考えてなかった。

 確かに、この冒険の冒頭から全裸だったりはしたが、正直出だしが最悪の最悪、底辺だと認識していたからだ。

 しかし、それをあっさりと覆し、バケモノと出会って数分で、それが実は魔王だったり、身体を乗っ取られるわ、魔術で精神力は使い果たし、正直一日でこなすイベント数じゃないと断言できる。

「不幸にも、我と出会ってしまったことだろうな」

 ククッと笑いながら魔王が言葉を漏らす。

 その一言で少し冷静な思考が戻った。

「って、何で魔王たるお前がこんな小国まで来てるんだよ!」

 当然の疑問だ。いきなりラスボスが、出発の地の街を出た1歩目で襲ってくるような状況だ。

 しかも、一つ付け加えるのならば、その魔王に対し、有無を言わさず手痛いダメージを負わせた弟子Aも、規格外ではあっただろう。

「徒歩でだが?」

 あっさりと、何当たり前の事を聞いているのだ?と言わんばかりに、見下した雰囲気をかもし出していた。

「交通手段なんか聞いてない! お前はバカか!」

 そうだった。なぜ魔王が、ここまでわざわざ歩いて来たのか理由が知りたい。

 ていうか、徒歩かよ。なぜ封印されたはずの魔王が、わざわざここまで歩いてきてるんだって話だ。飛んだりワープしたり便利な魔術もある。

 誰でも使えるわけではない。とはいえ魔王とまで自称だが、言うのならば使えて当然クラスだ。と弟子Aは思っていた。

「バカとはなんだ。人間で言う所のバカと言った方がバカなのだぞ。これだから老い先短い種族はいかん。ゆとりを持って行動しろ。我に寿命は存在せぬ故、この世界を散歩がてら見て周っていたのだ」

「魔王が散歩とかお前は一体何なんだよ!」

「いや、魔王だって」

「(こいつはぁ……!!)」

 イライラが募るものの、何とか冷静になれと念じる。

「(KOOLだ。KOOLになれボク)」

 COOLになりきれていない、弟子Aであった。

「だから、ここまで来て何をしようとしてたんだって事だ! 宴がどうのこうの言ってたようだけど……」

 今更ながら不思議なもので、弟子Aと魔王という構図は、傍から見たら大声で独り言を言ってるように見えるだろう。

 なんせ左手が魔王なのだから。

 誰も居なかったのが救いの一つだ。そしてもうひとつ、徐々にこの事態に慣れていっている自分が悔しい気もする。

「ああ、そういうことか。何、散歩でココまで来たのだが、自分の城の場所が分からなくてな。 人里が見えたので場所を聞くついでに滅ぼそうかと」

「迷子!? 魔王迷子なの!? というか、迷子でついでに滅ぼすとか性質悪い!」

「だって、魔王だし?」

「うっ、確かにそうだが」

「まぁよいではないか。貴様は既に我が眷属というか我なのだ。そう憤る事はあるまい。徐々にだが、精神支配も浸透していってるはずだしな」

「なっ!?」

 至極当然とばかりにとんでもない事を言いのける。

「何を慌てる? 我を内包して制御できるとでも思っていたのか? ククッ、面白い人間だ」

 弟子Aは高速で焦りまくる。

「(やばいやばいやばい。そりゃ当然だ。魔王と呼ばれるような代物を身体に宿して今こうして話してるほうがおかしい)」

 思考が高速で巡る。

 解決案を幾つか想定し、優先度の設定、その順にすぐさま実行に移す。

「我が戒めを解き放て!」

 解除の呪文を紡ぎ、それを放つ。

 呪われた品を装備した時、何かに呪われた時や封印された時など、割と万能に効果がある魔術である。ただし下級魔術なので、効果は以下の通り。

 弟子Aは、精神力を使い果たしたはずだったが、睡眠という名の気絶を挟んだ事によって、幾分か回復しているようではあった。

 だが、解除の呪文は霧散する。

「ほう? むず痒かったが解除の呪文か。面白いものだが、無駄だ。そのようなものが通用すると思っているか?」

「ぐっ……」

 蚊にでも刺されたかのように、何でもないと言ってのける。

 弟子Aは、もう一つの案を実行する。

「風よ刃となりて切断せよ!」

 右手で持った杖に風が纏わりつき左手目掛けて躊躇なく振り下ろすも、左手の手前で手が動かなくなり、風も霧散する。

「言っただろう。精神支配は徐々に浸透している。とな。そして、もうひとつ言えば、貴様の下級呪文では我には通用せん。まぁ……聖なる光【ホーリー】はこの世界での限界値を超えるという規格外というのもあるが、いきなりすぎて我もほとんど防ぎようがなかったがな」

 弟子Aをあざ笑いながらそう告げた。

「とはいえだ。あんな魔術を喰らった身体の状態では一人で城に戻れぬ。貴様を足として使わせてもらおう」

 少し間があり……


 そして――


 とんでもない事を魔王は口にした。



「それに、我が居城に戻らねばこの世界は滅びるしな」



 おはようと当たり前の挨拶、知ってて当然のように言い放った。

 唐突に、ただそう魔王は告げた。

 弟子Aは、ぽかーんだ。

 空いた口は塞がらなかった。いや、もう何だろう。オカシイデショ?

「ななななっ、滅びる!? どういう意味だよ!」

「意味も何もそのままだ。我が居城に戻らねば、世界は滅びるというわけだ」

「お前が滅ぼすんじゃないの!?」

「なぜ我が、わざわざ、世界を滅ぼさねばならぬ。別にこの世界が、嫌いなわけでもないしな」

「いやいやいや、魔王でしょ? ねぇ、魔王でしょ? 魔王っていったらそりゃもう、恐怖の対象じゃないですか。というか、預言書で二週間後に魔王が復活して滅びるって書いてたし!!」

 魔王はかつて世界を恐怖のどん底に落とし、勇者に討伐され滅せなかったものの封印されたのだ。

 これぐらいは、確かに忘れ気味だったが、誰でも一度ぐらいは聞いたことあるはずだ。

 だが、意味が分からない。

 預言書には確実にそう書いてたし、あ、日記帳か……。いやそれはいい。この際そこは無視しよう。

「ほう、預言書にか? 我が世界を滅ぼすと。ふむ、ならばやぶさかではないぞ? たまには我の恐ろしさを教えるのもよかろう」

 若干乗り気になってる魔王に恐怖を覚える。

「やややや、いやいや。乗るなよ! 乗らないで下さい。御願いします」

 思わず土下座する。左手は地面につけてる為、魔王の顔が必然と地面にこすり付けられる形となる。

「痛! 痛い痛い! ちょ、まぢで! まぢでがおがっ、目に砂……痛い! ねぇ、聞い……痛痛痛いって! 擦れてるの! ねぇ! 顔が! ダメ、力をそれ以上込めるな! 痛!!! 込めないで下さい!! やめて、土下座やめてーーーー!」

「(そうだ。確か預言書には、魔王が復活するとは記述されていたが、魔王が滅ぼすとは書いていなかった。ただ、闇が覆って滅びるとか何とか……)」

 弟子Aは土下座の姿勢を維持したまま、重要な事を思い出していた。

 その事を思い出したせいか、両手の拳に更に力が篭る。

 しかし、地味に預言書の内容を把握しきれてなかったのは大問題だが、それには触れないでおこう。

「ぐげぇぇ! 顔が、首がぁぁぁあ! 首! 痛い痛い! ダメ、これダメ絶対ダメ無理! いかん゛ん゛ん゛! 角度がヤバイヤバイんだって、我とて首は90度程度が限界っいたっ! 痛い! ねじれるぅぅう! 首がねじれるぅう!! ……ほら、今ぷちっって何か切れたって! 血管だって! いがんでずよぉぉ!!!」

 あまりにも、顔を地面にぐりぐりとされ続けていた魔王の声が木霊する。

 その声に、ハッとして弟子Aはすぐさま姿勢を元に戻し、ぽろりと涙を流している左手の魔王を見る。

 その様子は不気味ではあったが、首が横に向いたまま正面を向けれない魔王についた土を払ってあげる優しい弟子A。

「ぐぅうううう……滅ぼすぞ、人類を本気(マジ)で滅ぼすぞ!」

 ずびび、と鼻をすすりながら半眼で弟子Aを睨む魔王の目はうるうるとしている。

 これが女の子なら弟子Aとしても慌てるのだろうが、どうしようもなくその絵がシュールすぎて冷静さを取り戻していく。

「や、まぢでそういうのいいですから。さっきのは悪かったと思いますが、きもいですって」

 そう冷たく言い返すと、魔王は再び涙を流したという。





 それから魔王が泣き止ますために1時間ほどかかってしまった。

 魔王は、肉体的にも、とてもとても強いが、さすがに身体の構造的に首が360度まわる様には出来ていないし、特に精神的な攻め(魔術ではなく主に言葉)には、とてもとても弱いガラスのハートの持ち主であった。


「で、どうして魔王が戻らないと世界が滅びるというのですか?」

 刺激しないよう敬語で話すとする。また泣かれると厄介だからだ。

 せっかく泣き止んだ魔王に、またいぢけられても困ると思ったからだ。

 その魔王に、気になっていた事に対して質問を投げかける。

 3つの目全てが赤くなっていたが、それが不気味で直視できない。

「どうやら、我が眠っている間に人間どもに、我と勇者どもの話が曲解して伝わっているらしいな」

 さきほどの仕切りなおしか、なかった事にしないのか威厳たっぷりにそう言い放つ。

「曲解?」

 その様子に若干呆れ顔をしてしまったが、その事については言及はしなかった。

 しかしながら、魔王の言った内容には少し心動かされた。

 過去の歴史を紐解くという、いや、魔王とはいえその歴史の立会人、当事者だ。弟子Aは、あらゆる学問にほどほどに精通しており、歴史関連に関しては、特に興味を惹かれるものだった。

「そうだ。我と勇者どもは確かに刃を交えた。しかしだ。神の力とやらを借りた勇者の一人が、 我が居城から出れぬように封印を施したのだ。まぁ、出るつもりはなかったのだがな」

「いや、その魔王が、今こうしてここに居るじゃないですか。それは一歩譲っていいけど封印を施されたんじゃないですか?」

「ああ、封印はつい先日解けたな。なぜ解けたかは知らぬが、長い年月外の世界に出てなかったのだ。たまの散歩も出来なくてイライラが募っていたからな。せっかくなら少し外に出ようと思ったのだ。で、迷ったあげく、いきなり禁呪をぶっぱという王道どころか魔王たる我にも勝るとも劣らないほどの外道の人間に遭遇する羽目になったがな」

 ふんと、鼻息を荒げ忌々しげに言い放つ。おそらくさっきの土下座の事については言及していないが確実に勘定に入っているのだろう。

「封印が勝手に解けた……」

 それを無視し一つの事案が浮かび、弟子Aはこの時、電流が走る。まさに、電球が光ってピコーンときた。

 この前師匠が、亡くなったから封印が解けたのではないかと。

 そのことに関してはともかく、今は滅びる原因究明が先という事を思い出す。

「あー、それでなぜ城から離れると世界が滅びるというんですか?」

「うむ、我が居城はこの世界の悪しきモノ……人間で言う所の瘴気が全て集まり、噴出する場所にあるのだ。そしてそれはいずれ世界を飲み込む。だが、我はそれを吸収し無限に力へ還元する体質なのだよ、人間よ」

 衝撃の事実。第四話にして告白する事なのだろうか、そんな謎の疑問も浮かぶものの言葉が出ない。

「だがな、我が居城に押しかけてきた、勇者やらその従者やら名乗る一団が、百人規模で攻め込んできた時に、今言った台詞をまんま伝えたのだ。だが、戯言をとぬかし、あまつさえ奴らは我を倒さねば世界は平和にならぬ。とだけ告げ話し合いにもならなかったな。まぁ、我とてむざむざ死んでやるつもりもなかったので、全力で相手をしてやれば数人だけ生き残り、そいつらは一戦交えて、初めて瘴気を吸収している様を見て、我が言を真実と知ったはずだった。そして、おめおめ逃げていきおったわ」

 魔王がここでため息をつきながら言葉を紡いだ。

「だが、我も破れぬ結界を張って逃げていくとは、予想外ではあったがな」

 懐かしいと言わんばかりに、とんでもない話を披露してくる。

 ちなみに瘴気とは、人間に関わらず、生命ある存在には猛毒である。一息ならともかくだが、体内に吸引し続ければ、確実に死に絶えるような危険極まりないものだ。

「そして今も尚、瘴気は溢れ続けている。まぁ、2週間程度の外泊なら我が存在せんでもなんとかなろう。だが、それ以上空ければこの世界が滅びに傾くのは容易いだろうな。理解できたか人間?」

 この魔王という存在は、今更ながらとんでもない規格外だ。

 瘴気を吸収する。そして瘴気を力に変える……。こちらはどれぐらいの還元率を秘めてるかは知らないが、少なくとも、人間がかなうわけもない。つまり人間が対峙するには最悪の環境ではあるが、魔王にとって最高の環境であるという事だ。人間にとっての毒が魔王には無限に存在する回復薬みたいなものなのだから。これでは、滅ぼす事が出来ず封印と形を取るのは納得出来る。

 魔王の言を信じるなら、イタチの最後っ屁で、居城から移動出来ないようにしただけだが。

 だが、それは些細な事実だ。

 最も重要なのは、魔王と呼ばれる存在が実は、人類の勇者と言っても過言ではない存在であるということだった。

 瘴気が溢れないために、わざわざそこを根城とし存在するというのならばまさに英雄だ。

 感謝こそされど怨むなどとんでもないのだから。

 だからこそ弟子Aは、ここで疑問に思った。

 なぜ魔王と呼ばれ、襲われたのか。なぜ討伐される事となったのか。

 討伐をしないで放置しておくのが最善の一手にも思われるからだ。


 そしてその好奇心は抑えられず、聞いてしまった。


「ククッ、知りたいか? 我がなぜ魔王と呼ばれるようになった始まりを。魔王として君臨するかを。いいだろう。教えてやろう。……全ての始まりは、あの一つの閃光であった」

 仰々しく――魔王がそう告げる。


 

 全ての始まりを――



 全ての、諸悪の根源たるとされてきた魔王の伝説を、魔王の口から紡がれる。

 顔が未だに横に、向きっぱなしに関しては、蛇足なので突っ込まないでおこう。

「閃光?」

 ぱっと思いつくのは聖なる光【ホーリー】だ。だが、それではないのだろうと思い次の言葉を待つ。

「ああ、ある日我がくしゃみをした時に、うっかり全力で魔術を撃ってしまってな。くしゃみと 同時に口から放たれた閃光が、あろう事か居城に穴はあくという事態になったのだ。あの時は修理に時間が掛かったものだ。そして人里の一国が、運悪く射線上にあったらしく滅んでしまってな。まったく、困ったものだ」

 空いた口がふさがらなかった。こいつはとんでもない。バカだ。いや、大バカだ。

 だから、全力全開で叫ぶ事にした。



「困った奴は、おまえだろうがぁぁぁぁぁああああ!!!」



 耳元で言われた魔王は、白目を向き気絶し、弟子Aもあまりの大声を張り上げすぎてその場にへたり込む事となる。未だ城壁は目に見える範囲。距離的に進み具合は最悪だ。進捗具合は一歩前進もなく、ただ二歩後退した感じ。もう何も考えがまとまらない弟子Aは空を仰ぐ事にした。



 余談だがその日、何度目かの弟子Aの叫びは全世界を震わすほどの振動が起き、遠くから聞こえた何かの音と振動は不吉な事が起きる前触れでは、などと噂される事になるが、あながちハズレではなかったと知るのは、魔王と弟子Aとそれに巻き込まれる人々だけであった。



此度125年8月17日

午後2時を過ぎた頃であった。


世界が闇に覆われるまでのタイムリミット:二週間だね

ここまで見ていただきありがとうございます。

だいぶ重要な情報を提示した形になったかと思います。

しかしながら、弟子Aはじぇーんじぇん、進む気配はないので、そろそろ動かしたいと思いますのでご期待くださいませ。

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