9.小心者の意地
まさかジャンル別週間ランキングにまで載るとは…嬉しい限りです。
ゴブリンソードマンとの戦闘を終え、血を洗い流すために結局目的地だった公園に行くことにした。
「ゴブリンソードマンの初討伐報酬どうする?」
「俺も好きな方選んだし圭も好きな方選べばいいよ」
「じゃあ俺もSPにしよっかな。あ、でもLv.3になった時に貰った100SPがあるわ」
「じゃあ先にそれ決めちゃって他にも欲しいのがあったら50SP取れば?」
「そうするわ」
圭に選べるスキルを教えてもらう。
肉体強化 50SP
指示 50SP
マッピング 50SP
体術 50SP
HP自動回復(小) 50SP
危険察知 100SP
鑑定 100SP
視力強化 100SP
作成 100SP
思考補助 100SP
やはり10種類から選べるようで、101SP以上かかるものも見当たらない。叡智さん、そういうものなんでしょうか?
『150SP以上のもの存在します。しかし、ランダムで出現する確率は低く、また簡単な行動だけは出現しません』
へぇー、出た時のためにSP温存しておくとしよう。次に、気になるスキルの詳細を見ていく。
指示・・・戦況の把握能力が上昇し、指示が通りやすくなる(敵には無効)。
マッピング・・・地形を覚えやすくなり、地図を書く技術が上昇する。
体術・・・体術が身に付く。攻撃力と防御力の成長に小補正。
HP自動回復(小)・・・自然回復する早さが2倍になる。レベルが上昇するごとに0.1倍ずつ加算される。
危険察知・・・危機に敏感になる。
視力強化・・・視力、動体視力が上昇し、瞳孔の開閉が早くなる。
作成・・・素材を使用し、武器、防具を作れる。
「と言う感じだ」
結果を圭に教える。
「俺的には作成とかいいと思うかな」
「確かに今、武器は遥輝しか持ってないからな。そうしよう」
思考補助も今後行動する上で使えそうだと思ったが、圭曰く、「俺みたいなバカの思考を幾ら補助しようが意味が無い」とのことだ。
「これで100SPの使い道はいいとして、初討伐報酬はどっちにする?」
「低級回復薬にしないか?誰かが怪我した時のために」
ただなー、普通のゴブリンの初討伐報酬でも低級回復薬が貰えるからなんか損した気分だ。
「まあ圭の初討伐報酬だから好きな方でいいよ」
「じゃあ低級回復薬にするわ」
と言うと、圭の足元に光の粒子が集まり始め、すぐに黄緑色の液体が入った小瓶が現れた。
低級回復薬 (未使用)
「ちゃんと出てきたな」
「にしてもインベントリみたいなのは無いのかね。緊急時だとカバンから出すのも命取りになるからなー」
初討伐報酬を決め終わった俺たちは公園で短剣に付いた血を洗い流した。制服も洗おうとしたが、少し薄くなるだけで、臭いも全くとれなかった。
仕方無く公衆トイレでジャージに着替えた後、女子たちと合流する。
「お待たせ」
「いえいえ」
「あの、お腹すいてきたので何処かでご飯を食べませんか?」
「確かに腹減ったなー」
「圭調べてよ」
圭が「分かったよ」と言い、スマホで調べ始めたかと思うと直ぐに見せてきた。そこには"最新の記事"と書かれていた。
「国連から現状についての重大な発表?遂に政府が動き出したか」
要約すると、世界各地で未確認生命体が発見され、死傷者や行方不明者も数多く出ているため、遭遇しても速やかに逃げて通報しろとのことだ。ステータスに関しては特に言及されていない。
「だってよ。どうする?」
「逃げた先に出くわした方がまずいから勝てそうなら戦おう」
「それだったら次は私達にやらせて貰えるかな?」
漆畑さんもコクコクと頷いている。俺達が着替えてる間2人で話し合ったのだろうか。
「2人がやりたいって言うんだったら構わないよ。もちろんサポートもする。でも安全第一でいきたいから勝てなさそうな敵は逃げるか俺達が殺るよ」
「分かったわ。ありがとう」
「さて、気を取り直して。ヘイ圭、近くのコンビニは?」
「400m先にコンビニがあって逆方向1kmにはスーパーがある。でもよ、やってんのか?」
「分からん!400mだけだし行ってみよう」
暫く歩くとコンビニの看板が見えてきた。電気はついてるようだ。しかし近付くにつれ異様な光景が見えてくる。
「めっちゃ散らかってない?」
そう、北條さんの言った通り、めっちゃ散らかってるのだ。雑誌や食料品が床に落ちている。
「荒らされてるな。無人になったコンビニで思い思いに商品持っていったんか?」
「取り敢えず入ってみよう」
コンビニに入ろうとしたその瞬間、中の死角になっているところから何かが出てきた。
「…犬?」
「にしてもでけぇな。飼うのも大変そうだ」
「いやそこじゃないでしょ。なんでコンビニ内に大型犬がいるんだよ」
「散歩中飼い主がモンスターに襲われたとか?」
「首輪ないぞ…」
「グルルルルゥ…」
レッサーブラックウルフ Lv.4
あー、ダメなやつですね。
「みんな気を付けろ!モンスターだ!」
「おいおいマジかよ」
鑑定では強さが分からないので叡智に聞く。
『ウルフ系統のモンスターで素早さが特徴。色が薄くなるほど純血に近い証であり、危険度も高くなる。レッサーブラックウルフは通常の狼との混血である』
つまり弱いってことだろ。オマケにレッサーまで付いている。本人ならぬ本狼も自覚があるのだろうか、今も威嚇だけして襲いかかってはこない。
「圭、多分コイツ弱いぞ」
「お前がそう言うならそうなのだろう。北條さんと漆畑さんに任せても大丈夫そうか?」
「いや、ファイヤーアローだけ撃っといて様子を見よう。大丈夫そうだったら2人に任せてもいいかな?」
「りょーかい」
「お気遣いありがとうございます!」
こうして話してる間も短剣を構えて警戒していたが、全く襲いかかって来る気配はない。しかし、ここで俺はある問題に気付く。
「ここでファイヤーアロー撃ったら雑誌とかに燃え移るくない?」
「そうだな」
モンスターに集中し過ぎてやらかすところだった。
「外に誘い出そう」
3人に少しずつ下がるように言う。そうして俺たちは徐々に後退するが、レッサーブラックウルフが出て来ようとせず、威嚇を続ける。
「グルル…ウウ…」
「なんだコイツ」
「いっそのこと短剣で直接戦うか?レベルも上がってきてるからある程度は大丈夫だと思う」
「だとしても気を付けろよ」
今度は俺だけ自動ドアに近付いて行く。それに合わせてレッサーブラックウルフは今にも飛びかからんばかりに姿勢を低くし、威嚇してくる。
自動ドアが開いた。と、同時にレッサーブラックウルフはこちらに走って来て噛み付いて来ようとする。位置的に太もも辺りだ。いや、飛ばんのかい。
顔面に前蹴り。犬を蹴っているような気がしてきて罪悪感が凄い。
「ギャフンッ」
ギャフンッなんていっちゃってるよ…
それでも襲ってきたのは向こうだし…モンスターだと割り切ろう。
怯んだレッサーブラックウルフの前足に<ゴブリンの短剣>を突き刺す。念の為逆の足にも。
「Graaaaaaaa」
「北條さん!首筋めがけてこれを振り下ろして!」
「うん!」
ゴブリンの短剣を受け取った北條さんはレッサーブラックウルフの元へ行く。そのまま短剣を振り下ろすだろうと誰もが思った。
ガブッ
「いっっ」
移動が出来なくても首は動く。レッサーブラックウルフは最後の力を振り絞って北條さんの足首辺りに噛み付いた。
慌てて短剣を首筋に振り下ろすが離れない。もう一度振り下ろすと、やっとのことで力が抜けていき、光の粒子になっていく。
【経験値を獲得しました】
「「北條さん大丈夫か?!」」
「凛ちゃん!」
「痛あああああ」
北條さんは座り込んでおり、見ると、ふくらはぎには牙による穴が開き、血が流れている。そこへ低級回復薬を持った圭が近付き、蓋を開けて渡す。
飲んでいる最中にも傷口が塞がり始め、飲み干す時には血が止まっていた。
「あれ?全く痛くない!」
「違和感とかもないか?」
「うーん、ちょっとムズムズするかも」
「凛ちゃんコレ」
漆畑さんがウエットティッシュを渡す。
「ありがとう」
血を拭き取ってみると、傷跡1つも無かった。
「凄い効果だな」
「ごめんね、私の不注意で貴重な回復薬を…」
「そんなこと気にすんなって!治って何よりだ」
そんなやり取りを見届け、レッサーブラックウルフのいた所をに目を向けると1本の牙と魔石が落ちていた。
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来週はお休みするかもです。出せたら土曜日か日曜日に出します。