表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/50

05 初めての草刈り

「さて……。お掃除をするのだったわね。メイ、やりましょう。おじゃまするわね」

 メイの家の中に入っていく。


「せまいところで、すみません……」

 メイが言った。

 中は、テーブルがあって、椅子が三つ。奥にはカーテンが引いてある。

 窓際に花びんが置いてあった。


 テーブルクロスは手製だろうか。複雑な編み方をしている。

「きれいなテーブルクロスね」

「お……、母が作ったんです」

「あらそうなの。すごいわね」

「えへへ」


 奥のカーテンを開くと、ベッドがふたつあった。

 洋服タンスもそちらにある。


「これがメイたちのベッドね?」

「はい」

「もう掃除をする必要はなさそうだけど」

「おそれいります」

 メイの母親が言った。


「つまり、仕事がないから止めたのね?」

「いえ、このようなせまいところでお嬢様をお泊めするわけには」

 メイの母親が言う。

「なら物置で寝るわ」

「それはおやめください」

「だったら……、メイと一緒のベッドに入ればいいわ」

「えっ」

「嫌なの?」

「そういうわけでは……」

「じゃあ決まりね。ええと、じゃあ、これからなにをしたらいいのかしら」

 家の中に仕事はなさそうだ。


「メイのお母さまは、これからなにをするつもりだったのかしら」

 私が言うと、メイの母親は、すこし考えてから、口を開いた。


「……草むしりを」

「草むしり?」

「はい。家のまわりの草がのびてきたので……」

「それなら私にもできるかしら」

「まさか! お嬢様にそんなことをさせるわけにはいきませんが……。いきませんが、草むしりなら、初めてでもできるものかもしれませんね……!? ねえメイ?」

 メイの母親が、じっとメイを見た。


「……あ、ああ、そうですね! ナナ様にそんなことをさせるわけにはいかないのですけれど」

「私がやりたいって言ってるのよ」

「だとしたら、草むしりなら、ちょうどいいかもしれませんね! わたしと一緒にやりましょう!」

「いいわね、いいわね!」

 メイの母親が大きくうなずく。


「……なんだか変ね。もしかして、草むしりってどうでもいいことなのかしら?」

 私が言うと、二人はぶるんぶるんと首を振った。

「まさか! 難易度こそ低いものの、面倒で、誰もやりたがらない、非常に重要なお仕事です。村での、日々の生活にかかわるものです!」

 とメイの母親が言えば。


「そうですナナ様! わたしも久しぶりでやりたくないのですが、ナナ様とだったら、やる気になれるかもしれません!」

 とメイ。


「……そう?」

「はい!」

「だったら、やってみようかしら」

「ありがとうございます!」



 メイが服の袖をめくった。今日はいつものメイド服ではなく、長袖、長ズボンだ。

 一緒に、メイが私の服の袖もめくってくれた。


「ありがとう」

「草むしりは、草むしりと言いますけれども、草刈りともいいます。手で抜こうとしても難しい、かたい草もあるんです。そういうのは刃物で切ります」

 と歩いていく。


「私も草刈りするわ」

「いけません! 初心者は、素手で、むしるだけです! あ、いえ、今日はわたしがやるので、お嬢様は、わたしがむしった草を、集めて、運ぶだけです!」

「そうなの?」

「はい! 初心者は、そこまでやってはいけません!」

「草むしりって、奥が深いのね」


 裏手に行くと、ホウキが入っている小さな建物の先。

 私の腰くらいまでありそうな草がいっぱい生えている。


「あらら。木だか草だかわからないわね」

「すぐのびてしまうんです」

 メイの母親は言った。


「ここの草をむしったら、どういういいことがあるの?」

「風の通りがよくなったり……、そう、ネズミが隠れる場所がなくなりますね!」

 メイの母親が言った。


「なるほどね。本当に、意味のある仕事だったのね」

「あ、あ、あたりまえじゃないですか!」

 メイが、妙に大声で言った。


「でも、ネズミが出てくるかもしれないのよね」

「それは……。わたしたちは慣れているので、だいじょうぶです!」

「でも、メイがケガをしたら嫌だわ」

「……だいじょうぶですよお嬢様!」

「わたしもおりますしな」

 ガドが言った。


「ガドは私を守るんでしょう? メイのことを守ってくれるの?」

「できることは、いたします」

 なんだか、ちょっとあいまいなことを言う。


「……あ、ちょっと待って」

「なんですか?」

「ちょっと、思ったんだけれど」


 私は、メイの家の近くに置いておいた剣を呼んだ。

 すーっ、と立ったまますこしだけ浮かんでやってくる。


「これでやれば早そうだわ」


 剣を、地面と平行にすべらせてみた。

 すると草がパタパタ倒れて、視界がよくなる。


「わあ……」

 メイが言った。


 剣が通ったところがすっきり草が倒れているので、剣がどこにあるかはすぐわかる。


 私はそのまま、すれすれのところで剣を動かしていく。

 往復をくりかえすだけで、みるみる草の山に変わっていった。


「すごい……」

「もう終わってしまったわ」


 さっきまで茂っていた草は、すっかり、地面に敷いた緑の山になっていた。


「これでいいのよね?」

「はい! すごいです!」

「剣って、こうやって使うのもいいわね」

 ガドに言うと、ガドは頭を下げた。

「おみごとです」


「ナナ様、すごい!」

「ふふ。みんな大げさね」

 そんなにほめてくれると、すごいことをしたような気になってしまう。


「あとは、草を集めて終わりです」

「集めるのね。じゃあ、あと二本も使いましょう」

 私が剣をもう一本呼ぼうとしたときだった。


 草の山から、にゅっ、と剣が現れた。


「あら? 四本目だわ」

「草の中に、ネズミがいたのかもしれません」

 メイが言う。

「なんだ、やっぱり危なかったじゃない」

「助かりました」

「ふふ」


 私は剣の刃を丸めると、四本の剣でさっさと草をかき集めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ