表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/50

04 これが、最強……

 二本とも、剣を浮かべることができた。


「またドロップとは……」

 ガドが言う。


「めずらしいの? そういうこともあるんでしょう?」

「連続ドロップというのはかなりめずらしい上、キバネズミがドロップするものは、もっとありふれた、安価な材料しかのぞめないのです。剣や盾など、はっきりとした形になったものがドロップするというのは、かなり難しい相手しか期待できないでしょう」

「たまにはあるのね?」

 私が言うと、ガドは難しい顔をした。


「いま、見てしまったので、断言できなかっただけで、ありえない、と言ってもいいでしょう」

 ガドは言った。


 私は剣をふたつとも、くるりとまわしてみた。


「どちらも動かせるわ」

「すごいですお嬢様」

 メイが手をたたいた。


「まったく、おおげさなんだから。……そうだわ。どうして気づかなかったのかしら。ガド」

「なんでしょう」

「あなたも剣を飛ばしてみなさいよ! 私にもできるのだから」

「やりましたが、できませんでした」

「そうなの? 仕事が早いのね」

「おそれいります」


「あ、男の人にはできないのかしら。メイ、あなたもやってみて」

「わ、わたしは無理です!」

「やってみなさい」

「はい……」


 メイは、地面の剣に向かって、両手を突き出した。

「ううん……! うん! うん! だめです!」

「もうちょっと手をまっすぐ出したほうがいいんじゃない?」

 私はメイの肘を持った。


「ひゃっ!」

「どうしたの?」

「くすぐったいです」

「がまんしなさい」

「は、はい。あれ?」

「どうしたの」

「お嬢様。あそこにキバネズミがいます」

「どこ?」


 メイは、前に出した指をそのまま動かして、建物の横を指した。


「ずいぶんいるのねえ」

「わたしが切ってみましょう」

「ガドが?」

「剣になれば、このあたりのキバネズミの特性ということです」


 そう言うと、ガドはさっさと歩いていって、もどってきた。


「お嬢様もどうぞ」

「え?」


 見ると、屋敷の横にいるキバネズミのしっぽの、先のほうが切れていた。

 いつ剣を抜いたのかもよくわからない。


「しっぽを切ればいいの?」


 私は、そーっ、と剣を近づけていった。

 ネズミが気にしていないので、そのままそっと、剣の先をネズミのしっぽにあてると、しっぽが切れて……。


「わっ」

 ネズミが光った。


 そして、剣に変わった。


「これって、すごくめずらしいことなのよね? せっかくなら、この運は他のことに使いたかったわ」

「運ではないかもしれません」

 ガドは言った。


 それならなにかしら。

「でも、剣なんてあってもねえ。危ないし。切れないように、丸まってくれたら安心なのにね」


 私が、刃の部分がちょっと内側に折りたたまれて、切れなくなるところを想像した。

 すると。


 浮かんでいた剣の刃の部分が軽く、くるっ、と折りたたまれて、ひとまわり細くなった。


「あら」

「失礼」

 ガドが、落ちていた石を拾って側面に押しつけた。

 今度は切れない。


 私は、折りたたまれたところがもどるのを想像した。

 すると、握った手を開くくらいかんたんに、元通りに広がった。

 ガドは石を押しつける。するとあっさり切れた。


 これは。

 私にも、ちょっとずつ理解できてきた。

 ここまで自由に操れて、魔物を倒すと、また手に入る?

 ということは。


「お嬢様」

 ガドは私を見た。


「あなたは、とてつもない力を手に入れました。おわかりでしょうか」

「ええ、わかってきたわ」

「その剣はあなたの意のままに動き、素晴らしい切れ味を持つ」

「そうね」

「するとなにができるか。成し遂げられるか。おわかりか」

 ガドの目つきが、強いものになった。


「私は、おそろしいものを、つくってしまったのね?」

「そのとおりです」

「こうね」


 私は、また刃の部分を丸めた。

 それを二本つくる。

 そして、自分の膝くらいの高さにならべて浮かべた。

 そうすると、座面だけが浮かんでいる椅子のようだった。


 腰かけてみる。

「お嬢様、あぶない!」

「切れたりしないわ。そうだ、メイも座りなさい」

 私は横に動いて、メイの分をあけた。


「えっ」

「さあ」

 私が手を引くと、メイはおそるおそる、私とならんで座った。


 そして、ゆっくり高度を上げる。

「わ、わ」

 メイは私の腕にしがみついた。

「こわくないわ」


 私の身長くらいの高さまで上がってみた。


 そのまま、ゆっくり動いてみた。たいした高さではないはずだけど、なんだか新鮮だ。

 ガドや、メイの母親のまわりをぐるりとまわって、元いた場所にもどった。


「ガド。私はおそろしい剣をつくってしまったわね」

「は? はあ……。は?」

「歩かなくても散歩ができるなんて……。いや、もしかしたら、ベッドから一度も起きないまま、生活ができるようになるかもしれないわ……。寝ながら散歩もできる……。すごいわね……」

「……」

 ガドは私をじっと見ていたが、なぜか頭を下げた。


「どうしたの?」

「実にお嬢様らしいお答えです。自分の、考えの狭さを思い知らされました」

「ふうん?」


 なにを言ってるんだろう。

 変なの。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ