04 これが、最強……
二本とも、剣を浮かべることができた。
「またドロップとは……」
ガドが言う。
「めずらしいの? そういうこともあるんでしょう?」
「連続ドロップというのはかなりめずらしい上、キバネズミがドロップするものは、もっとありふれた、安価な材料しかのぞめないのです。剣や盾など、はっきりとした形になったものがドロップするというのは、かなり難しい相手しか期待できないでしょう」
「たまにはあるのね?」
私が言うと、ガドは難しい顔をした。
「いま、見てしまったので、断言できなかっただけで、ありえない、と言ってもいいでしょう」
ガドは言った。
私は剣をふたつとも、くるりとまわしてみた。
「どちらも動かせるわ」
「すごいですお嬢様」
メイが手をたたいた。
「まったく、おおげさなんだから。……そうだわ。どうして気づかなかったのかしら。ガド」
「なんでしょう」
「あなたも剣を飛ばしてみなさいよ! 私にもできるのだから」
「やりましたが、できませんでした」
「そうなの? 仕事が早いのね」
「おそれいります」
「あ、男の人にはできないのかしら。メイ、あなたもやってみて」
「わ、わたしは無理です!」
「やってみなさい」
「はい……」
メイは、地面の剣に向かって、両手を突き出した。
「ううん……! うん! うん! だめです!」
「もうちょっと手をまっすぐ出したほうがいいんじゃない?」
私はメイの肘を持った。
「ひゃっ!」
「どうしたの?」
「くすぐったいです」
「がまんしなさい」
「は、はい。あれ?」
「どうしたの」
「お嬢様。あそこにキバネズミがいます」
「どこ?」
メイは、前に出した指をそのまま動かして、建物の横を指した。
「ずいぶんいるのねえ」
「わたしが切ってみましょう」
「ガドが?」
「剣になれば、このあたりのキバネズミの特性ということです」
そう言うと、ガドはさっさと歩いていって、もどってきた。
「お嬢様もどうぞ」
「え?」
見ると、屋敷の横にいるキバネズミのしっぽの、先のほうが切れていた。
いつ剣を抜いたのかもよくわからない。
「しっぽを切ればいいの?」
私は、そーっ、と剣を近づけていった。
ネズミが気にしていないので、そのままそっと、剣の先をネズミのしっぽにあてると、しっぽが切れて……。
「わっ」
ネズミが光った。
そして、剣に変わった。
「これって、すごくめずらしいことなのよね? せっかくなら、この運は他のことに使いたかったわ」
「運ではないかもしれません」
ガドは言った。
それならなにかしら。
「でも、剣なんてあってもねえ。危ないし。切れないように、丸まってくれたら安心なのにね」
私が、刃の部分がちょっと内側に折りたたまれて、切れなくなるところを想像した。
すると。
浮かんでいた剣の刃の部分が軽く、くるっ、と折りたたまれて、ひとまわり細くなった。
「あら」
「失礼」
ガドが、落ちていた石を拾って側面に押しつけた。
今度は切れない。
私は、折りたたまれたところがもどるのを想像した。
すると、握った手を開くくらいかんたんに、元通りに広がった。
ガドは石を押しつける。するとあっさり切れた。
これは。
私にも、ちょっとずつ理解できてきた。
ここまで自由に操れて、魔物を倒すと、また手に入る?
ということは。
「お嬢様」
ガドは私を見た。
「あなたは、とてつもない力を手に入れました。おわかりでしょうか」
「ええ、わかってきたわ」
「その剣はあなたの意のままに動き、素晴らしい切れ味を持つ」
「そうね」
「するとなにができるか。成し遂げられるか。おわかりか」
ガドの目つきが、強いものになった。
「私は、おそろしいものを、つくってしまったのね?」
「そのとおりです」
「こうね」
私は、また刃の部分を丸めた。
それを二本つくる。
そして、自分の膝くらいの高さにならべて浮かべた。
そうすると、座面だけが浮かんでいる椅子のようだった。
腰かけてみる。
「お嬢様、あぶない!」
「切れたりしないわ。そうだ、メイも座りなさい」
私は横に動いて、メイの分をあけた。
「えっ」
「さあ」
私が手を引くと、メイはおそるおそる、私とならんで座った。
そして、ゆっくり高度を上げる。
「わ、わ」
メイは私の腕にしがみついた。
「こわくないわ」
私の身長くらいの高さまで上がってみた。
そのまま、ゆっくり動いてみた。たいした高さではないはずだけど、なんだか新鮮だ。
ガドや、メイの母親のまわりをぐるりとまわって、元いた場所にもどった。
「ガド。私はおそろしい剣をつくってしまったわね」
「は? はあ……。は?」
「歩かなくても散歩ができるなんて……。いや、もしかしたら、ベッドから一度も起きないまま、生活ができるようになるかもしれないわ……。寝ながら散歩もできる……。すごいわね……」
「……」
ガドは私をじっと見ていたが、なぜか頭を下げた。
「どうしたの?」
「実にお嬢様らしいお答えです。自分の、考えの狭さを思い知らされました」
「ふうん?」
なにを言ってるんだろう。
変なの。