43 ネズミが変ね
「あらメイ、ちょうどよかった」
とメイと話しているメイの母親は、始めて会ったときとそれほど変わらない。
特別、あせっているような感じはない。
「いま、ネズミがたくさん出てきちゃったから、みんなで追い払うところなの。あ、お嬢様」
頭を下げようとするメイの母親を、私は手で止めた。
「そんなのいいわ。それより、牛が逃げていたわ」
私は牛の乗っている箱を近づけた。
「捕まえておいたのだけれど」
「まあ! これは、どうなって……」
「これはどうしたらいいの?」
「それは、村長さんの牛でしょうから……」
「いま、村長さんのところにご案内するところだったの」
メイが言った。
「メイが案内してくれる? おねがいね。いま、お母さん手が離せないの。どうして飛んでるの……?」
「お母さん、ネズミはだいじょうぶなの?」
メイが不安そうに言った。
「あんなにたくさんいて」
「平気よ。でも、数が多いからみんな慎重になっているけど」
「そうして。慎重に」
メイが強く言った。
「ということは、私は牛だけ届ければいいのね」
かんたんそうだわ。
「すみません、お願いします!」
メイの母親が言う。
「じゃあ、牛が届け終わったら私もネズミを片づけるわ。だいじょうぶよ。そのくらいのことなら、私は横になりながらでもできるようになったから」
「はあ……」
メイの母親が不思議そうに牛を見る。
「メイ、村長さんのところへ行きましょう」
「はい」
「お嬢様。お手をわずらわせて、申し訳ありません、それではのちほど」
メイの母親は、ばたばたとでかけていった。
「さ、村長さんのところへ行きましょう」
こっちです、と示すメイの指示に従ってすーっと進んでいく。
畑の上を通って、二階建ての大きな建物が見えてきた。
「あれが村長さんのお宅ね」
「お嬢様」
「あっ」
村長さんの家の、塀の中に進むと、建物のまわりにはネズミがたくさんいた。
100とか、200とか、とにかくいっぱいいる。
ぐるりと家をとりかこんで、ガリガリ、キバで建物を削っている。
「ネズミってあんなに荒々しいの?」
「様子がおかしいですね」
ガドが言う。
「まあ、とりあえず」
私は剣を出して、なでるようにネズミをさわっていった。
剣がたくさん、そのへんに転がる。
二階の窓まで近づいていった。
「村長さん、いらっしゃいますか?」
「村長さん、メイです。いらっしゃいますか!?」
メイが大きな声で呼びかけると、窓が開いた。
「おお? お嬢様? どうやって、ここへ」
村長さんがメイ、私、ガド、と見ていく。
そして私たちの乗っているところや、私たちの横の箱で浮かんでいる牛を見た。
「なんだ? なんだこれは?」
「村長さん、おケガは?」
「わたしはまったく。ネズミはなんとか、まだ家の中に入ってきてませんが……」
「ネズミはもう平気。みんないなくなったわ」
「え?」
村長さんは、窓から身を乗り出した。
「剣がたくさん落ちていますね。警備兵かなにかを……? いや、それにしても剣の数が……。ネズミは……? かなりの数がいたかと思うのですが」
「私から質問したいのだけれど、いいかしら」
「はい、それは」
村長さんは、乗り出していた体を引っ込めた。
「ネズミがどうしてあんなにいたの?」
「わかりません。今朝は、ここ数日よりも増えてきたという話は聞いていたので、対処をしようと思ったらあんなことに。わたしは中で書類の仕事をしていたら、気づけば外に出られなくなってしまって。助かりました」
「お嬢様」
ガドが私を見る。
「ええ、わかってるわ。早くみなさんのお手伝いに行くのね」
「いえ。この家の中を調べたほうがいいかもしれませんね」
「村長さんの家を?」
「例の銅像があるかもしれません」
ガドは言った。
「え?」
「ただネズミがいるにしては、様子がおかしいかと」
「もうそれは終わったんじゃないの?」
「念のためですが。もちろん、許可をいただければ、です」
「……村長さん、ガドに入ってもらっていいかしら。中に、とてもよくないものがあるかもしれないのだけれど」
「はい、もちろん!」
その返事を聞くやいなや、ガドはひらりと中に飛び込んだ。
中にさっさと入っていってしまった。
「じゃあその間、牛をお返ししようかしら。街道に牛がいたのだけれど。村長さんの牛よね?」
「牛小屋に案内しましょう!」
「じゃあ、これに乗って」
私が窓のところに足場を持っていくと、村長さんは、何度か私の顔を見てから、おそるおそる、といった様子でそれに乗った。




