38 ここが王都よ
「なんということを……」
大大臣さんは、私たちと一緒に飛んでいる像を見ながら、つぶやいていた。
像の乗っている箱と、私たちが乗っている箱が、ならんで飛んでいた。
外が見えるように半透明になっている。
「とてもいい景色でしょう?」
「うおっ! あわわわ」
「あら? あまりお好きではないのかしら」
「高すぎる!」
「そうですよね……」
なぜか急にメイが、しみじみと言った。
「いや、それどころではない! わ、わたしは、大切な像を……、王都から出すことを、みすみす許してしまうなど……」
大大臣さんが感動している間にも、魔物の動きが変わっていくのが、目に見えてわかった。
地上の魔物はこちらに進路を向けて、頭をあげている。
そして、空の魔物は。
「お、おい、まずいぞ、あんなに! うわー!」
せまってくる魔物たちに大大臣さんが大きな声を出した。
「平気ですわ」
魔物は私たちの乗っている箱の壁にぶつかると、剣に変わって落ちていく。
落ちていった剣は、地上の魔物にぶつかると、また剣になった。ひとつで二度おいしい。
大大臣さんは私を見ていた。
「これは、ナナ君がやっているのかね……?」
「ええ。あ、私ではないです。ドロップ、という現象がやっているらしいです」
「うん? それは、ナナ君がやっているのではないのかね?」
「ドロップは、魔物を倒すときにあらわれる、特別な現象だそうです」
「うん? それは、なんの話かね」
「ドロップです」
「そうではなくだね。うおっ!」
大大臣さんは、近くに突っ込んできた魔物を見て、思わず体を引いていた。
衝撃はないけれど、たしかに、大きな魔物だと迫力がある。
「こ、これは、どうにかならんのかね。飛んでくるのはどうも……」
「飛んでくるのは嫌ですか?」
「誰だって嫌だろう!」
「でしたら、そうね。再利用しましょう」
私は、王都の上にくっついている屋根を外して、こっちに引き寄せた。
さっきすこしとがらせた屋根を、広げて平らににした。そして私たちの乗っている箱と、勇気の像が乗っている箱を、その上にのせる。
すると。
「大大臣さん、これで気にならないでしょう?」
屋根を広げたら、王都の壁の中全体よりも広い足場ができた。
とても高い場所だけれど、地面のような安心感があるのではないか。
「どうかしら」
「あ、ああ、まあ、多少は……」
「よかったわ」
「わたしもすこし安心です」
なぜかメイが言う。
「いや、魔物が来るぞ!」
飛んでいる魔物は、横からやってくる。
私たちの箱にぶつかって剣にはなるけれど、大大臣さんがそのたび、びっくりしていた。
「これならどうかしら」
私は、剣の地面をもっと、もっと高くしていった。
そうすると、魔物たちは低いところから私たちめがけて舞い上がってくるので、途中で剣の地面の下側にひっかかって、剣になって落ちていく。
本当の地面のところにいる魔物たちも、その剣があたって、剣になっていくようだ。
「これなら、外に出てもよさそうじゃない?」
私は箱の一部をドアにして、外に出てみた。
「うわあ、広いわ」
王都以上の広さだ。
それが飛んでいるなんて不思議な気分だった。
「空気がひんやりしているわね」
「寒いですか?」
メイが心配そうに言う。
「平気よ。ほら、王都が小さく見えるわ」
「そうですね」
と言ったメイは、目を細めて、ちゃんと見ていないようだった。
「大大臣さん。これで、王都から魔物が離れてよかったわよね」
「……、……、よくない!」
大大臣さんは、はっとしたように言った。
「いけなかったの?」
「魔物が離れたのはよいが、勇気の像を王都から運び出すなど……」
「じゃあ、すぐもどすわ」
「いや! いや? いや……。いや。いや、ちょっと待て」
「このままでいいのかしら」
「このままでいいとは、口が裂けても言えん。だが、もどしたほうがいいかと言われると、言われると……」
大大臣さんは腕を組んで、難しい顔になってしまった。
「困らせてしまったかしら」
「状況はよくなっていると思います」
ガドが言った。
「それならよかったわ」
「いやよくない!」
大大臣さんは言う。
「勇気の像が、王都になくてどうする! 王都にあるからこそ、意味がある!」
「そうなのね」
「そうだ! なのに、こんなところにあるなど……!」
「大大臣さん、王都って、どこまでなのかしら?」
「なに?」
「王都は、壁の中までですか?」
「それはそうだろう! ……いや、それだけが王都とは言えんか。城、街はあくまで象徴しての意味合いもある。王都の壁を囲む、この自然の風景を含めたものが、王都だ」
「よかったわ。だったら、ここに浮かべていてもいいわよね」
「なに?」
「ここは王都で、像は、王都の中にあればいいんですよね?」
「ううん? うううん?」
大大臣さんは、腕を組んでうなった。
「いや、しかし、壁の中にあってこそ!」
「でも……? 壁の中だけが王都、というわけでは……?」
「ないが! ないが! しかし! やはり、勇気の像は、皆の者にら見える場所にあることに、意味がある! 城から常に見えることが!」
「ここなら、いろいろな場所から見えまわ!」
壁よりずっと高い場所だし。
「いや、そういうことではなく、だな。……そういうことなのか?」
大大臣さんの眉間にしわが寄った。
「勇気の像がここにあれば、魔物を遠ざけて、王都を守ってくれるなら、みんなうれしいんじゃないかしら」
「しかしだな……」
「そうすれば、あの像も、中をいろいろしなくてもいいわ。変なことをして、像に傷がついてしまったらいけないでしょう?」
「それはそうだが……」
「終わったら、もどせばいいわけだし」
「しかしだな……。そう、壁からこんなに近いと、市街にも魔物が寄ってきてしょうがない。ここを魔物の国にする気か?」
「もうちょっと離せばいいのね」
私は屋根を動かした。
「お、おい、どこへ行くつもりだ」
「逆にきくわ。どこがいいのかしら」
「なに?」
「私は、難しいことがわからないことに定評があるの。大大臣さんに決めてもらうわ。勇気の像は、どこがいいかしら」
「え、いや……。じゃあ、そのあたりで」
「そこでいいのね!」
「あ、いや、まだ魔物が来るか。じゃあ、もっとちょっと先にしとくか……?」
大大臣さんは、きょろきょろ、きょろきょろしていた。




