02 思ったとおり動いたような
「なにかしら」
小屋の近くで倒れたネズミは、すっかり剣に変わっていた。
先の方にいっても太さが変わらず、先端は丸みがある。
前に出ようとしたら、ガドが私の前に手を出した。
「お待ち下さい」
ガドは腰の剣に手をそえながら、ネズミ剣に近づいていった。
「これはめずらしい」
感心したように言った。
「めずらしい剣なの?」
「それ以前の話です。お嬢様。これは、ドロップ、という現象です」
「ドロップ?」
「魔物を倒したとき、魔物が、低確率で物質に変化することがあります。それがドロップです」
「そんなことがあるの?」
「はい。しかし魔物によって、ある程度決められた物質になると決まっているはずですが。キバネズミから剣がドロップする、などと聞いたことはない……」
ガドはむずかしい顔をしていた。
「でもそうなったんでしょう?」
「いまのネズミは、キバネズミではなかったのかもしれません。……ひとつきくが、よろしいか」
「は、はい!」
メイの母親が体をびくり、とさせた。
「このあたりには、キバネズミがよく出るものなのか」
「あの、キバネズミでしたら、はい……。以前はほとんど見なかったのですが、最近、わりと」
「ガド、そのネズミは危険なの?」
「キバには毒があり、かまれると高熱が出ることがあります。まあ、ほとんどの場合、痛みを感じるだけですが。キバネズミが出るとなると、お嬢様が生活にするのに、あまりふさわしくない環境かと」
「そうですね……」
メイの母親がうつむいた。
「ほとんど、なんでもないんでしょう? だったらいいじゃない」
私が言うと、ガドとメイの母親が同時に私を見た。
「良くないです」
と、二人が同時に言った。
「……しかし、あの剣自体も、めずらしいものですな。見たことがない」
ガドが言った。
「ガドは剣に詳しいの?」
「すべては知りませんが、多くを知っています。その剣は、魔法石のようなものが埋め込まれてますね。となれば」
ガドが落ちている剣の柄をつかみ、持ち上げようとしたときだった。
おや、という顔になって、両手で柄をつかんだ。
持ち上げようとした格好から、引っぱりあげようとするような、体全体を使った体勢になる。
でも剣はずっと、地面に置いてあるままだった。
「どうしたの?」
ガドは首を振った。
「持ち上がりません」
「そんなに重いの?」
私は近くに行ってみた。
ガドがすこし私の前に手を出そうとしたが、おろした。
「きれいな剣ね」
表面が、すこし色がにじむように光っていた。
一般的な剣より幅がある。
先が、とがっていない。丸みがあった。
ケーキのクリームを、平らにならすための道具を思い出した。柄に、平べったくて細長い金属がついている道具だ。あれに似ている。
ついでにクリームのあまさを思い出してしまった。メイの母親が、趣味で作っていないだろうか。
「まだいるな」
ガドは横を見ていた。
視線の先、メイの家の裏にある草むらから、口からキバが出ているネズミが顔を出した。
だからキバネズミなのね。
ガドが腰の剣に手をかけ、近づいていこうと足を出すと、ネズミが顔を引っ込めた。
「その剣はどうするの?」
私は、落ちたままになっている剣を見た。
「このままでいいでしょう。誰も持ち出せません」
「せっかくだから、記念に飾ろうかしら。雨にぬれて、さびたりしないかしら。せっかくきれいな色なのに、もったいないわ。せめて建物の中にあればいいのだけれど」
私は、そこにある剣がすいっ、と動いて、メイの家の、玄関にあるところを想像した。
すると剣が浮き上がった。
すいっ、と動いて、メイの家の玄関に入って、地面の上に降りていった。
「ガド、見た?」
「はい」
ガドは、目を丸くしていた。
「もどりましたー! ……どうされましたか?」
ホウキを持ってもどってきたメイが、不思議そうにしていた。